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栄太は、自分ではそれを意識していないのかもしれないが……しかし確かに、今の彼が望んでいるのは、奏からの別れのセリフの一言だった。
皮肉な事に、栄太の為にと健気に行動した奏は、結局空回りしてしまったのだ。
今の栄太の頭にあるのは、非常に現実的な考えである。
いずれにせよ、青柳正嘉が『番』の権利を主張すれば、奏の所有権はアルファである正嘉の方へとまず間違いなく移ってしまう。
訴えたとしても、敗訴するのは過去の事例からして決定的だ。
たとえ、奏がそれを拒否したとしても――オメガの言い分は、全く世間には考慮されないのだから。
とにかく強制的に、奏は正嘉のモノになってしまう。
そして今、栄太が正嘉に対して反旗を翻した場合、馬淵コーポレーションは青柳の所有する土地の取得に失敗して丸ごと負債を抱え込む結果が待っている。
そうなっては最悪だ。
奏は奪われ、会社も潰れる!
栄太は地位も財産も何もかも失い、惨めなベータに成り下がってしまう。
今まで散々辛酸を嘗めながら、石に噛り付くようにしてやっとの思いでここまで来たのにと――――栄太でなくとも思うだろう。
ならば、ここは頭を切り替えるべきだ。
吉川の言う通りに……奏を諦めて、青柳の土地の売買契約を結んだ方がベストの選択だろう。
それに奏は『番の上書き』を既に施されているのだし。
このまま栄太と共にいて将来肩身の狭い思いをするよりは、アルファのエリート家系である正嘉の方へ身を寄せた方が、奏は幸せになれる筈だ。
…………そう、栄太は無意識に結論付けていた。
そこにはもう、奏自身の意思を考慮する余地は入っていなかった。
「栄太さん――」
震える声で、奏はその名を口にする。
自分を愛していると言ってくれた、男の名前を。
「あなたは……僕から別れを告げてほしいのですね…………」
「奏っ!? い、いや……そんな事はない! 」
栄太は慌てて、首を振って否定するが、
「ただ、このままでは奏が辛い思いをするだけなのは確かなんだ。オレが破産したら、お前にも、もう何の贅沢もさせてやれない。それどころか、普通の暮らしも怪しくなってしまう。そんな惨めな思いなど、お前には微塵も味わってほしくない! 」
その口から出て来た言葉は、実によく出来た綺麗事で。
お前の為と言いながら――それは、栄太の都合のいい言い分だった。
あとは奏が、栄太の期待するセリフを言えばいいだけの筋書きに、奏は目の前が暗くなる。胸にどんどん溜まって行く重苦しい感情に、押し潰されそうになる。
それでも、一縷の望みをかけて、擦れる声で訴えてみるが…………。
「……僕は……研究所に勤める研究員として、ちゃんと働いています。それなりに今は収入もあります。栄太さんを支えて行く事は可能です……」
「それは、無理だ。億という借金を抱えて確実にオレは破滅する。そんな事に、お前は巻き込めない」
「栄太さん――」
奏が欲しい言葉は、例えイバラの道だろうとも一緒に頑張って行こう、子供も授かったのだから――という言葉だ。
しかし、どうやらそれはもう無理のようだ。
だって、栄太の中では、もう答えが出ているのだから。
奏の頬を、一筋の涙が零れ落ちる。
「…………栄太さんは、僕よりも――それを選んだんですね…………」
「奏? 」
「僕を愛していると言ってくれたあなたを信じて、僕もあなたを愛して行こうと思っていました。僕は――誰からもそんな事を言われた事はなかったから。だから、栄太さんに告白された時は、本当に嬉しかった……」
そんな昔の事ではない。
身体を繋げたのは5年も前からだが、想いを確かめ合ったのはつい最近の出来事だ。
栄太は、奏を愛していると言ってくれた。
それを聞いて、天にも昇る気持ちになったのを忘れていない。
皮肉な事に、栄太の為にと健気に行動した奏は、結局空回りしてしまったのだ。
今の栄太の頭にあるのは、非常に現実的な考えである。
いずれにせよ、青柳正嘉が『番』の権利を主張すれば、奏の所有権はアルファである正嘉の方へとまず間違いなく移ってしまう。
訴えたとしても、敗訴するのは過去の事例からして決定的だ。
たとえ、奏がそれを拒否したとしても――オメガの言い分は、全く世間には考慮されないのだから。
とにかく強制的に、奏は正嘉のモノになってしまう。
そして今、栄太が正嘉に対して反旗を翻した場合、馬淵コーポレーションは青柳の所有する土地の取得に失敗して丸ごと負債を抱え込む結果が待っている。
そうなっては最悪だ。
奏は奪われ、会社も潰れる!
栄太は地位も財産も何もかも失い、惨めなベータに成り下がってしまう。
今まで散々辛酸を嘗めながら、石に噛り付くようにしてやっとの思いでここまで来たのにと――――栄太でなくとも思うだろう。
ならば、ここは頭を切り替えるべきだ。
吉川の言う通りに……奏を諦めて、青柳の土地の売買契約を結んだ方がベストの選択だろう。
それに奏は『番の上書き』を既に施されているのだし。
このまま栄太と共にいて将来肩身の狭い思いをするよりは、アルファのエリート家系である正嘉の方へ身を寄せた方が、奏は幸せになれる筈だ。
…………そう、栄太は無意識に結論付けていた。
そこにはもう、奏自身の意思を考慮する余地は入っていなかった。
「栄太さん――」
震える声で、奏はその名を口にする。
自分を愛していると言ってくれた、男の名前を。
「あなたは……僕から別れを告げてほしいのですね…………」
「奏っ!? い、いや……そんな事はない! 」
栄太は慌てて、首を振って否定するが、
「ただ、このままでは奏が辛い思いをするだけなのは確かなんだ。オレが破産したら、お前にも、もう何の贅沢もさせてやれない。それどころか、普通の暮らしも怪しくなってしまう。そんな惨めな思いなど、お前には微塵も味わってほしくない! 」
その口から出て来た言葉は、実によく出来た綺麗事で。
お前の為と言いながら――それは、栄太の都合のいい言い分だった。
あとは奏が、栄太の期待するセリフを言えばいいだけの筋書きに、奏は目の前が暗くなる。胸にどんどん溜まって行く重苦しい感情に、押し潰されそうになる。
それでも、一縷の望みをかけて、擦れる声で訴えてみるが…………。
「……僕は……研究所に勤める研究員として、ちゃんと働いています。それなりに今は収入もあります。栄太さんを支えて行く事は可能です……」
「それは、無理だ。億という借金を抱えて確実にオレは破滅する。そんな事に、お前は巻き込めない」
「栄太さん――」
奏が欲しい言葉は、例えイバラの道だろうとも一緒に頑張って行こう、子供も授かったのだから――という言葉だ。
しかし、どうやらそれはもう無理のようだ。
だって、栄太の中では、もう答えが出ているのだから。
奏の頬を、一筋の涙が零れ落ちる。
「…………栄太さんは、僕よりも――それを選んだんですね…………」
「奏? 」
「僕を愛していると言ってくれたあなたを信じて、僕もあなたを愛して行こうと思っていました。僕は――誰からもそんな事を言われた事はなかったから。だから、栄太さんに告白された時は、本当に嬉しかった……」
そんな昔の事ではない。
身体を繋げたのは5年も前からだが、想いを確かめ合ったのはつい最近の出来事だ。
栄太は、奏を愛していると言ってくれた。
それを聞いて、天にも昇る気持ちになったのを忘れていない。
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