インチキで破廉恥で、途方もなく純情。

亜衣藍

文字の大きさ
174 / 240
39

39-2

しおりを挟む
「――青柳正嘉くん。君の番は、こちらの棟で滞在している。これからそこへ案内するが、くれぐれも乱暴はしないように。あくまで、丁重にな」

 九条の言葉に、正嘉は傲然ごうぜんと頷いた。

「それは勿論だ。オレとしても、他家で無法な行いなどしたくはないからな」

 そう言い、正嘉が軽く片手を振ると、控えていたらしい青柳の家人二名が音もなく現われた。どうやら、もしも奏が抗おうとしたら、問答無用で連れて行こうという事らしい。

 たった今『乱暴はしないように』とクギを刺したばかりなのに、人の話を聞いていないのか?

 さすがに不快な気分になり、九条は眉をひそめ――――そして当然だが、七海は激昂した。

「お前! 奏をこれ以上苦しめるようなら、オレは許さないぞ!! 」

 しかし、これが悪かった。

 急激にアドレナリンが上昇したせいか、次の瞬間、七海は真っ青になってガクリと俯いてしまった。どうしようもなく、目の前が暗くなる。

(まずい……意識が……)

 息も不規則になり、抗いきれぬ激しい眩暈が頭脳を襲う。

「う……」

 低く呻き、動きを止めた七海へ、九条は慌てて駆け寄った。

「七海! 」

「――だいじょう、ぶ……す、こし――おちつけ、ば……」

 だが、蒼白の顔色は誤魔化しきれない。

 九条はメイドへ向かって、直ぐに七海を医務室へ連れて行くように指図すると同時に、ドクターを呼び出すよう急いで手配をした。

 その間、九条は正嘉ヘの対応までは手が回らなくなってしまう。

 仕方なしに、正嘉一行にはしばらくの間、応接室へ移ってもらおうと指示を出す。

「正嘉くん、申し訳ないが少し落ち着くまで待っていてくれ――誰かっ! 案内を!!」

「はい旦那さま。では、こちらへどうぞ」

「ふん」

――――だからといって、言われるままに気を利かせて大人しく別室に控えているような、正嘉はそんな男ではなかった。

「それではオレは勝手に動かせてもらうぞ」

――――先程のベータ馬淵栄太が『AOYANAGI・realtor』へ向かっているのは間違いないだろう。あまり向こうを待たせるのも可哀想・・・・・というものだ。

「さっさと番を回収して、この屋敷を退出させてもらう」

 正嘉はそう言い捨てると、メイドの案内を振り切って、配下の男達を伴い奏の滞在している棟へと足を踏み入れた。

 だが当然、離れた場所にいた奏はその騒ぎを知らない。

 しかし、突如部屋へと現れた正嘉を見た奏は、取り乱す事無く言い放った。


 強張った顔で、冷たい声で。


「――――あなたを見損ないました。まさか、僕の番に向かって……悪びれもせずに堂々と『番の上書き』をしたなんて、そんな恥知らずな事を言うなんて――最低です」

 まさか、出会い頭にそんな事を言われるとは思っていなかった。

 だが正嘉は、決して自分が間違っているとも思っていないので、凍り付いた視線のまま自分を睨み付ける奏に対し、同じように冷たい言葉を掛ける。

「オレは本当の事を言っただけだ。ベータの連中がどう取ろうと事実は変わらない」

 いずれにせよ、ケジメとして、馬淵には行動する義務がある。

 どれだけ屈辱を感じようがプライドが傷付こうが、頭を下げて頼まなければならない筈だ。

――――それが、奏ではなく会社を選んだ代償なのだから。

「……それでは、お前をこれから青柳へ連れて行く」


 こうして、奏の身柄は、青柳へと移される事になってしまったのだった。


   ◇


 体調が悪いのは、どうも治らないようだ。

 その原因は、やはり妊娠初期の所為なのであろうか?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

ほたるのゆめ

ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。 『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...