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「すまなかったな」
不意に掛けられた言葉に、奏はハッとした。
目線を上げると、自分より高い位置にある端正な正嘉の顔に、初めて見る苦渋の色が見て取れた。
「正嘉さま?――」
「お前は発情期だったが、それは周期の関係でオメガフェロモンを放出していただけであって、心はヒートに陥ってなかった……オレはそれを察しながらも、お前のフェロモンに中てられてしまった……」
嘆息し、続ける。
「獣になったのは、オメガではなくアルファのオレの方だったようだ。首に噛り付いてオメガを気絶させるなど、本来ならあってはならない事態だろう」
どうやら、あの夜の暴挙を正嘉なりに反省しているようだ。
それに気付き、奏は少なからず動揺する。
青柳正嘉の為人とは、傲岸不遜で、尊大なものだと思っていた奏である。
それは、あの九条恵美に対する態度からも、奏に対する暴挙からも、九条邸で我が物顔に振舞う様子からも見て取れた。
だから青柳正嘉とは、人の痛みも分からない鉄面皮だと判断したのだが。
だが、今の正嘉は…………。
「――――身体を労われ。研究熱心なのはいいが、倒れてしまっては元も子もない。バランスが良いだか何か知らんが、あんな缶飲料で食事を済ませるな。それに何より、今は睡眠をキチンと取る方が先決だ」
そう言うと、ベッドで上体を起こしてた奏の肩に手を掛け、意外なほど優しい手つきで再び奏を横たえようとした。
奏は驚いて身じろごうとしたが、身体が弱っていたのは確かだ。
またクラリと眩暈が襲い、へなへなとベッドに頽れる。
そうすると、正嘉は、奏が着ていた窮屈そうなシャツを手慣れた様子で脱がし、次にベルトに手を掛けた。
「な、なにを……」
まさか、このまま犯す気ではないだろうなと身構える奏に、正嘉は微かに苦笑を返す。
「安心しろ。別に何もしない」
正嘉はそう言うと、足からするりとズボンを抜き去り、シャツと下着だけの楽な格好にしたところで、毛布をふわりと掛けてきた。
呆気に取られて、奏は正嘉を見上げる。
「…………あの、正嘉さま……」
「一度、そのまましっかり寝ろ。持って来たケイタリングは冷蔵庫に入れておくから、目覚めたら食え。それから、研究所には午後から顔を出すとオレの方から連絡を入れておこう」
「そんなっ! 」
「お前、自分の今の顔色を鏡で見てみろ。病人のようだぞ」
「う……」
勝手な事をするなと言いたいが、確かに……こうして横たわって一度身体の疲れを認識すると、しばらくは起き上がれそうにないのが自分でも分かる。
それに、今の奏の身体には――――。
「――お前だけの身体ではないのだから、しっかりと休息と栄養を取るんだ」
見透かされたようなそのセリフに、奏はハッと目を見張った。
(まさか、正嘉さま――)
再び視線を合わせると、冷たいようでいてどこか優しい色を浮かべた黒水晶の瞳が、綺麗に瞬いた。
「腹に、子がいるんだろう? あまり無茶はするな」
「正嘉さま……」
(もしかして、栄太さんから聞いたのか? 僕が妊娠した事……)
十中八九、正嘉の子供だろうと言って背を向けた栄太の姿を思い出し、奏の胸がキリキリと痛む。
だが正嘉はそれには気付かない様子で、絞ったタオルを用意して奏の額へ乗せた。
「……オレにとっては、愛も恋も今更面倒なだけだが、だからといって『運命の番』が不幸になってもいいと思っているワケではない。お前が研究を続けたいと言うなら支援するし、自立したいなら止めない。オレの親父のように、がんじがらめにオメガを束縛する気は無いから安心しろ。ただ、さすがに違う男の用意したマンションにはこれ以上居てほしくはなかったから、そこは強引に退去してもらったが」
不意に掛けられた言葉に、奏はハッとした。
目線を上げると、自分より高い位置にある端正な正嘉の顔に、初めて見る苦渋の色が見て取れた。
「正嘉さま?――」
「お前は発情期だったが、それは周期の関係でオメガフェロモンを放出していただけであって、心はヒートに陥ってなかった……オレはそれを察しながらも、お前のフェロモンに中てられてしまった……」
嘆息し、続ける。
「獣になったのは、オメガではなくアルファのオレの方だったようだ。首に噛り付いてオメガを気絶させるなど、本来ならあってはならない事態だろう」
どうやら、あの夜の暴挙を正嘉なりに反省しているようだ。
それに気付き、奏は少なからず動揺する。
青柳正嘉の為人とは、傲岸不遜で、尊大なものだと思っていた奏である。
それは、あの九条恵美に対する態度からも、奏に対する暴挙からも、九条邸で我が物顔に振舞う様子からも見て取れた。
だから青柳正嘉とは、人の痛みも分からない鉄面皮だと判断したのだが。
だが、今の正嘉は…………。
「――――身体を労われ。研究熱心なのはいいが、倒れてしまっては元も子もない。バランスが良いだか何か知らんが、あんな缶飲料で食事を済ませるな。それに何より、今は睡眠をキチンと取る方が先決だ」
そう言うと、ベッドで上体を起こしてた奏の肩に手を掛け、意外なほど優しい手つきで再び奏を横たえようとした。
奏は驚いて身じろごうとしたが、身体が弱っていたのは確かだ。
またクラリと眩暈が襲い、へなへなとベッドに頽れる。
そうすると、正嘉は、奏が着ていた窮屈そうなシャツを手慣れた様子で脱がし、次にベルトに手を掛けた。
「な、なにを……」
まさか、このまま犯す気ではないだろうなと身構える奏に、正嘉は微かに苦笑を返す。
「安心しろ。別に何もしない」
正嘉はそう言うと、足からするりとズボンを抜き去り、シャツと下着だけの楽な格好にしたところで、毛布をふわりと掛けてきた。
呆気に取られて、奏は正嘉を見上げる。
「…………あの、正嘉さま……」
「一度、そのまましっかり寝ろ。持って来たケイタリングは冷蔵庫に入れておくから、目覚めたら食え。それから、研究所には午後から顔を出すとオレの方から連絡を入れておこう」
「そんなっ! 」
「お前、自分の今の顔色を鏡で見てみろ。病人のようだぞ」
「う……」
勝手な事をするなと言いたいが、確かに……こうして横たわって一度身体の疲れを認識すると、しばらくは起き上がれそうにないのが自分でも分かる。
それに、今の奏の身体には――――。
「――お前だけの身体ではないのだから、しっかりと休息と栄養を取るんだ」
見透かされたようなそのセリフに、奏はハッと目を見張った。
(まさか、正嘉さま――)
再び視線を合わせると、冷たいようでいてどこか優しい色を浮かべた黒水晶の瞳が、綺麗に瞬いた。
「腹に、子がいるんだろう? あまり無茶はするな」
「正嘉さま……」
(もしかして、栄太さんから聞いたのか? 僕が妊娠した事……)
十中八九、正嘉の子供だろうと言って背を向けた栄太の姿を思い出し、奏の胸がキリキリと痛む。
だが正嘉はそれには気付かない様子で、絞ったタオルを用意して奏の額へ乗せた。
「……オレにとっては、愛も恋も今更面倒なだけだが、だからといって『運命の番』が不幸になってもいいと思っているワケではない。お前が研究を続けたいと言うなら支援するし、自立したいなら止めない。オレの親父のように、がんじがらめにオメガを束縛する気は無いから安心しろ。ただ、さすがに違う男の用意したマンションにはこれ以上居てほしくはなかったから、そこは強引に退去してもらったが」
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