218 / 240
44
44-3
しおりを挟む
七海はそう言うと、再び九条へ視線を向ける。
「アメリカの医療産業において、オメガ研究で最も有名なのは営利を目的とするA.K機関だ。九条家は学会に力を持っているはずだが……どうなんだ? 」
「ああ。ご存知の通り、私は医科大学の理事でもある。うちは公益法人なんだよ」
「国内はともかく、海外に力はあるのか? 」
「UPMCとも提携して常にレベルアップを心掛けている。海外研修や国際交流は、医療には必要だからね。君も特待生として、昔、何度か渡米しただろう」
「そうだな……」
すると、七海は何か考えるように黙り込んだ。
「――――A.Kは営利目的の医療機関故に、強引なヘッドハンティングをしていると前々から噂がある。利益主義だから、場合によっては少々手荒い真似もしていると」
「ああ、そうだね……ターゲットの家族まで抱き込んで、丸ごと機関へ呑み込んでいるという話もあるよ。しかしとにかく好待遇だから、強引ではあるが……表立って不満の声はないようだけど」
「そして研究員が逃げ出さないのは、裏にアメリカ政府機関が係わっているからだ――」
そう呟き、七海はまた口を閉ざした。
製薬産業は、実はとんでもない成長産業である。
日本国内だけで市場規模は10兆円に達するのだ。
しかし、有望な成長産業ではあるが大きな問題もある。
それは、新薬の開発には、多額の研究開発費が掛るという点であった。
実に、実際の研究開発の成功確率が30,000分の1という難関なのだ。これを突破して新薬開発に漕ぎ着けるのは大変なのである。
日本では厚生省がオメガ研究を進めているが(奏はここに就いている)あろうことか、それまでのオメガのヒエラルキーを考慮して予算を渋っており、新薬開発も完成が目前だというのに足踏みをしている状態だ。
オメガの発情にともなう錯乱状態を止め、フェロモン発散も無くす。
それがどんなに有益な事なのか――――古い考えに憑りつかれたままの日本よりも、アメリカの方がよっぱど現実的だということだ。
そこに、オメガ研究で注目株の結城奏が飛び込んできたのだから、そう簡単に彼等は手放す気にはなれないだろう。
「……九条」
「なんだい? 」
「オレの身体の事は、どれくらい向こうに知られていると思う? 」
七海の問いに当惑しながら、九条は正直に伝える。
「君は、四年前に暴行を受けたまま意識が戻らなかったが、奇跡的に目を覚まして今は静養中という事になっている。表立ってはそう発表したよ」
「そうか――――では、オレの命があと一年だという事は広く知られていないんだな? 」
「ああ……医師として渡米したヤンが、言いふらすような真似をしていなければだが」
そう告げると七海は一度頷き、次に意外な事を口にした。
「それでは、ヤンと連絡を取る算段をしてほしい。あと、アメリカ大使館へも」
これに、それまで無言だった正嘉が割って入ってきた。
「九条ならと思いここへ来たが、本当に可能なのか? 実際どういう手段に出るつもりなのか、詳しく教えてもらおうか」
「そうだ! 何度も大使館へ連絡したが、電話もメールも無視されるぞ。どうするつもりだ? 」
栄太もたまらずに口を開いたが、七海は氷のような視線で一瞬だけ薙ぐと、
「…………奏に会った時に言う、気の利いたセリフでも考えておけ。クソガキども」
七海は冷たくそう吐き捨てると、車椅子を動かして応接間を出て行った。
美人の罵倒に二の句が継げぬ様子の2人に、九条は苦虫を嚙み潰したような表情で口を開く。
「君達は、とことん七海に嫌われてしまったようだな」
「――」
「七海にとって、奏くんは可愛い後輩であり弟のような存在だ。……そして……もしかしたら、君達以上に純粋に、奏くんの赤ちゃんの誕生を心待ちにしていたのかもしれないよ。その夢が破れたのだから、切っ掛けを作った君達を、七海は決して許さないだろう」
この言葉に、栄太は深くショックを受けたように立ち尽くす。
「アメリカの医療産業において、オメガ研究で最も有名なのは営利を目的とするA.K機関だ。九条家は学会に力を持っているはずだが……どうなんだ? 」
「ああ。ご存知の通り、私は医科大学の理事でもある。うちは公益法人なんだよ」
「国内はともかく、海外に力はあるのか? 」
「UPMCとも提携して常にレベルアップを心掛けている。海外研修や国際交流は、医療には必要だからね。君も特待生として、昔、何度か渡米しただろう」
「そうだな……」
すると、七海は何か考えるように黙り込んだ。
「――――A.Kは営利目的の医療機関故に、強引なヘッドハンティングをしていると前々から噂がある。利益主義だから、場合によっては少々手荒い真似もしていると」
「ああ、そうだね……ターゲットの家族まで抱き込んで、丸ごと機関へ呑み込んでいるという話もあるよ。しかしとにかく好待遇だから、強引ではあるが……表立って不満の声はないようだけど」
「そして研究員が逃げ出さないのは、裏にアメリカ政府機関が係わっているからだ――」
そう呟き、七海はまた口を閉ざした。
製薬産業は、実はとんでもない成長産業である。
日本国内だけで市場規模は10兆円に達するのだ。
しかし、有望な成長産業ではあるが大きな問題もある。
それは、新薬の開発には、多額の研究開発費が掛るという点であった。
実に、実際の研究開発の成功確率が30,000分の1という難関なのだ。これを突破して新薬開発に漕ぎ着けるのは大変なのである。
日本では厚生省がオメガ研究を進めているが(奏はここに就いている)あろうことか、それまでのオメガのヒエラルキーを考慮して予算を渋っており、新薬開発も完成が目前だというのに足踏みをしている状態だ。
オメガの発情にともなう錯乱状態を止め、フェロモン発散も無くす。
それがどんなに有益な事なのか――――古い考えに憑りつかれたままの日本よりも、アメリカの方がよっぱど現実的だということだ。
そこに、オメガ研究で注目株の結城奏が飛び込んできたのだから、そう簡単に彼等は手放す気にはなれないだろう。
「……九条」
「なんだい? 」
「オレの身体の事は、どれくらい向こうに知られていると思う? 」
七海の問いに当惑しながら、九条は正直に伝える。
「君は、四年前に暴行を受けたまま意識が戻らなかったが、奇跡的に目を覚まして今は静養中という事になっている。表立ってはそう発表したよ」
「そうか――――では、オレの命があと一年だという事は広く知られていないんだな? 」
「ああ……医師として渡米したヤンが、言いふらすような真似をしていなければだが」
そう告げると七海は一度頷き、次に意外な事を口にした。
「それでは、ヤンと連絡を取る算段をしてほしい。あと、アメリカ大使館へも」
これに、それまで無言だった正嘉が割って入ってきた。
「九条ならと思いここへ来たが、本当に可能なのか? 実際どういう手段に出るつもりなのか、詳しく教えてもらおうか」
「そうだ! 何度も大使館へ連絡したが、電話もメールも無視されるぞ。どうするつもりだ? 」
栄太もたまらずに口を開いたが、七海は氷のような視線で一瞬だけ薙ぐと、
「…………奏に会った時に言う、気の利いたセリフでも考えておけ。クソガキども」
七海は冷たくそう吐き捨てると、車椅子を動かして応接間を出て行った。
美人の罵倒に二の句が継げぬ様子の2人に、九条は苦虫を嚙み潰したような表情で口を開く。
「君達は、とことん七海に嫌われてしまったようだな」
「――」
「七海にとって、奏くんは可愛い後輩であり弟のような存在だ。……そして……もしかしたら、君達以上に純粋に、奏くんの赤ちゃんの誕生を心待ちにしていたのかもしれないよ。その夢が破れたのだから、切っ掛けを作った君達を、七海は決して許さないだろう」
この言葉に、栄太は深くショックを受けたように立ち尽くす。
0
あなたにおすすめの小説
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ほたるのゆめ
ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。
『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
