色衰愛弛

亜衣藍

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最終章

最終章-13

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 あどけないと言ってもいいような顔で、白露はニッコリ笑って答えた。
 その邪気の無い顔を、綾瀬は穴が開くほど見つめる。

「お前は――」

 華やかな兄と対極にあるような弟だったが、仲のいい兄弟だと。
 綾瀬は、ずっとそう信じていたのだが。

「考えたくは無いが、まさか色衰愛弛しょくすいあいしだったのか」
「なんだ、それ」

 無邪気な顔で首を傾げる白露だったが、綾瀬は己の感情を堪えるようにギュッと拳を握っていた。

 色衰愛弛とは、美しさや魅力によって愛された人が、次第に衰えてその美しさが失われた結果、愛情をも失われるという中国の故事から来た言葉だ。

 次第に体の自由が利かなくなっていく惨めな様を、綾瀬に見られるのを嫌い、茂音は『渡米する』と嘘を吐いて姿を消したのだが。
 その様子を、綾瀬よりもずっと間近で見ていた白露は、どう思っていたのだろうか?

 もちろん、最初は本当に悲しかっただろう。
 茂音の為に薬を作った程なのだから、心の底から心配して、献身的に尽くしたのだろうとは思うが。

 しかしある時、佐久間がどんなに誤魔化そうとも。
 茂音の病はどうあっても治らないと。

 そう、悟ったのではないだろうか?

「ALSの進行は個人差があるだろうから断言は出来ないが、最期の方は、茂音は満足に体が動かなくなっていた筈だ。そんな茂音に、果たして自分の顔を傷付けるだけの力が残っていただろうかと、ずっとオレは引っ掛かっていた」

 遺影の、包帯だらけのあの顔は、何度も顔を切り裂いたという証拠だ。
 包帯では隠しきれなかったらしい裂傷が頭部近辺まで刻まれていた事に、綾瀬は戦慄する。

「お前が、やったのか」
「ん?」
「愛していた兄が……大輪の薔薇のように美しかった茂音が、徐々に萎れた花のようになってく様子に、お前は……」

 そこでギリッと歯を食いしばるが、綾瀬は深い息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。

「お前が、茂音を殺したんだな」
「ちがう、肺炎」
「それはただの結果だ。お前が茂音を死に導いたんだ」

 じっと白露を見つめ、問い掛ける。

「罪悪感はないのか……ないんだな」

 白露は、そういう人間だった。
 知的障害とか色々な理由付けは出来るだろうが、根本的に、白露は『悪』というものに頓着しない人間だったのだろう。

 だから、天使のように無垢であり、悪魔のように邪悪な事も平気で実行出来たのだ。
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