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5 hatred
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そうして、どこかへ電話を掛ける。
「――久しぶりだな、少し会って話がしたい――ああ、時間があれば……それじゃあ」
「社長?」
電話を切った聖に、真壁は問うような眼差しを向ける。
これに対し、聖は横を向いたまま、すまし顔で口を開いた。
「オレの、今日これからの予定は、全てキャンセルしろ」
「え?」
「どうしても外せないような重要案件は、今は入っていないだろう?」
「そうですが……なぜ、急に?」
聖は報告書へチラリと目を落とすと、小さく嘆息した。
ジンは、一目でハーフと分かる顔立ちをしている。どう考えても母親は外国人だ。
案の定、この報告書にも竹野京香という名前は『帰化後』と記されていた。
帰化前はFlorence Marcelineという名前であったらしい。
彼女の産んだ赤子を誰もが無視して養護施設へ送った事から鑑みるに、彼女には日本で頼れるような親族はいなかったと見られる。
これは憶測だが――恋人であるはずの安蒜は彼女を子供共々見殺しにし、親友であるはずの百川ユリコもそれに倣ったのではなかろうか?
もしもそれが当たっていたなら、酷い裏切りである。
(やはり、ジンの目的は復讐というのがしっくり来るが――)
何かが違うような気がする。
それが何なのかが分からないが、いつまでもそこで堂々巡りしていられるほど、聖は気が長くない。
(オレは、違う方向からアプローチをするかな)
「……確かに急だが、これから、比嘉東吾先生の事務所へ行ってくる。タクシーで行くから、車は出さなくていい。お前は溜まっている自分の仕事の方を優先してくれ」
「比嘉? もしかして、経済産業省のサブカル需要開拓支援機構の?」
「ああ、そうだ。先生はクール・ニッポンの海外展開を支援しているからな。ウチも早い内から縁を結んでおいた方が良いだろう?」
「それは、そうですが――今からですか?」
真壁の、疑念交じりの眼差しから目を逸らしながら、聖は静かに扉へ手を掛けた。
そうして、去り際に一言。
「いつもの、気まぐれだ」
◇
「一乃塚源太郎との橋渡しをしてほしいだと? 衆議院議員のか?」
「ああ」
聖はそう言うと、しなやかな猫のようにスルリと身体を伸ばし、汗が浮いたままの比嘉の広い背中へとピタリと肉体を密着させる。
そうして、肌理の細かい滑らかな肌を、ゆっくりと上下に擦りつけた。
「そのくらいのコネはあるんだろう? だってあなたは、ヤツと同じ選挙区の出身じゃないか」
「うぅむ……だが、一乃塚とは挨拶をしたくらいしか面識はないぞ」
「経済産業省の一角を担う局長さんが一言いえば、議員も応じるだろうさ」
それとなく煽てたところ、高い自意識を絶妙に刺激したのだろう。
比嘉は得意げに胸を張った。
「もちろんだ。所詮は任期に縛られただけの議員連中より、私のような官僚の方がずっと立場は上なんだからな」
「頼もしいねぇ」
密着した背後から、比嘉の耳元へと甘い息を吹き付けて、囁く。
「さっきも、凄かった。若い男なんざ、まだまだ先生には敵わないだろうよ。ここも本当に頼もしいな、あなたは」
聖は比嘉の背後から前方へ腕を伸ばし、剛毛に覆われている雄芯へとそっと触れる。
リップサービスだが、頭にピンクの霞が掛ったような状態になっている比嘉には、見抜けるわけもない。
「ふ、ふふふ……君は本当に好き物だな。悪い子だ」
興奮を抑えながらの声音に、聖は苦笑したいのを隠しながら付き合う。
「先生のこれ、マジでたまんねぇよ。さっきは気が遠くなりそうだった」
最高の褒め言葉だと思ったか、比嘉は自信満々に漲ると、クルリと体勢を変えた。
「――久しぶりだな、少し会って話がしたい――ああ、時間があれば……それじゃあ」
「社長?」
電話を切った聖に、真壁は問うような眼差しを向ける。
これに対し、聖は横を向いたまま、すまし顔で口を開いた。
「オレの、今日これからの予定は、全てキャンセルしろ」
「え?」
「どうしても外せないような重要案件は、今は入っていないだろう?」
「そうですが……なぜ、急に?」
聖は報告書へチラリと目を落とすと、小さく嘆息した。
ジンは、一目でハーフと分かる顔立ちをしている。どう考えても母親は外国人だ。
案の定、この報告書にも竹野京香という名前は『帰化後』と記されていた。
帰化前はFlorence Marcelineという名前であったらしい。
彼女の産んだ赤子を誰もが無視して養護施設へ送った事から鑑みるに、彼女には日本で頼れるような親族はいなかったと見られる。
これは憶測だが――恋人であるはずの安蒜は彼女を子供共々見殺しにし、親友であるはずの百川ユリコもそれに倣ったのではなかろうか?
もしもそれが当たっていたなら、酷い裏切りである。
(やはり、ジンの目的は復讐というのがしっくり来るが――)
何かが違うような気がする。
それが何なのかが分からないが、いつまでもそこで堂々巡りしていられるほど、聖は気が長くない。
(オレは、違う方向からアプローチをするかな)
「……確かに急だが、これから、比嘉東吾先生の事務所へ行ってくる。タクシーで行くから、車は出さなくていい。お前は溜まっている自分の仕事の方を優先してくれ」
「比嘉? もしかして、経済産業省のサブカル需要開拓支援機構の?」
「ああ、そうだ。先生はクール・ニッポンの海外展開を支援しているからな。ウチも早い内から縁を結んでおいた方が良いだろう?」
「それは、そうですが――今からですか?」
真壁の、疑念交じりの眼差しから目を逸らしながら、聖は静かに扉へ手を掛けた。
そうして、去り際に一言。
「いつもの、気まぐれだ」
◇
「一乃塚源太郎との橋渡しをしてほしいだと? 衆議院議員のか?」
「ああ」
聖はそう言うと、しなやかな猫のようにスルリと身体を伸ばし、汗が浮いたままの比嘉の広い背中へとピタリと肉体を密着させる。
そうして、肌理の細かい滑らかな肌を、ゆっくりと上下に擦りつけた。
「そのくらいのコネはあるんだろう? だってあなたは、ヤツと同じ選挙区の出身じゃないか」
「うぅむ……だが、一乃塚とは挨拶をしたくらいしか面識はないぞ」
「経済産業省の一角を担う局長さんが一言いえば、議員も応じるだろうさ」
それとなく煽てたところ、高い自意識を絶妙に刺激したのだろう。
比嘉は得意げに胸を張った。
「もちろんだ。所詮は任期に縛られただけの議員連中より、私のような官僚の方がずっと立場は上なんだからな」
「頼もしいねぇ」
密着した背後から、比嘉の耳元へと甘い息を吹き付けて、囁く。
「さっきも、凄かった。若い男なんざ、まだまだ先生には敵わないだろうよ。ここも本当に頼もしいな、あなたは」
聖は比嘉の背後から前方へ腕を伸ばし、剛毛に覆われている雄芯へとそっと触れる。
リップサービスだが、頭にピンクの霞が掛ったような状態になっている比嘉には、見抜けるわけもない。
「ふ、ふふふ……君は本当に好き物だな。悪い子だ」
興奮を抑えながらの声音に、聖は苦笑したいのを隠しながら付き合う。
「先生のこれ、マジでたまんねぇよ。さっきは気が遠くなりそうだった」
最高の褒め言葉だと思ったか、比嘉は自信満々に漲ると、クルリと体勢を変えた。
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