所沢朝日の恋愛譚は不完全すぎて

亜衣藍

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 この抗議に、光原は苦笑した。

「それは悪かったね」
「ただでさえ幽霊が出そうな薄暗いボロビルに一人だけで、滅茶苦茶怖かったんですからねっ!」
「確かに、あそこは古いビルだよね……でも、あの小さな会社が、唯一私が自由にできるものだったから」
(え?)

 その一言で、朝日は察した。

 光原が経営している会社の多くが光原秋江に繋がっており、光原大佑が動かせる会社が、あのボロビルに店舗を構える『ビューティー探求房』だったのであろうと。

 確かに、あの通販会社はお世辞にも大手商社とは言えなかった。
 築50年の二階建てボロビルに構える、従業員十名足らずの小さな会社だった。

――だが。

「……失礼しました」

 ぺこりと頭を下げる朝日に、光原は困ったように眉根を寄せる。

「別に謝らなくていい。いま君が考えている通り、あの小さな会社が、私が片谷から継いだ唯一の会社だったんだ」

 昔は、産地から買い付けたお茶を卸す商売をしていたが、時代と共に、委託された健康食品を通信販売する会社に変わった。かつては従業員も沢山いたが、それも過去の話になる。

 そして、須藤黒闇が買い取りを望んだのはそんな零細企業ではなく、あのボロビル物件だった。

「須藤社長は物件が目的だったから『ビューティー探求房』はあっさり廃業にして、代わりにあの結婚相談所を開業したんですか……」

 何となくだが、会社が入れ替わった理由は分かった。
 しかし、そもそも、だ。
 何故そんな事態になってしまったのか?

「さっき、鬱憤を晴らすために新宿へ行ったと仰いましたが、それと関係があるんですか?」

 この質問に、光原は「大ありだ」と答えた。

「あそこは非常に魅力的だけど、人を狂わす魔窟だったよ」
「魔窟、ですか……」
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