所沢朝日の恋愛譚は不完全すぎて

亜衣藍

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 そんな朝日を見て何人かは足を止めてくれたようだが、それも遠巻きにするばかりで声を掛けるような者はおらず、むしろ、スマホをかざして撮影するものが現れる。

――さすがに、晒されるのは勘弁してほしい。

 朝日は傷む頭を両手で覆いながらヨロヨロと立ち上がり、人のいない方へと足を引き摺るようにして歩き出した。

(どうしてこんなに頭が痛むんだよ。何なんだよ、もう……)

『恐竜展って、何が楽しいのかねぇ。ま、案内してやるから黙って付いて来いよ』

 不意に、そんな声が

『マジで、お前みたいに鈍くさい田舎もんにここまで付き合ってやる物好きなんて俺くらいだぞ。感謝しろよぉ』

(え?)

――僕は、誰かと一緒に、ここに来たことがある!

 その事を思い出し、そして同時に、耐えがたい程の痛みが脳を貫いた。

「い、たた……」

 今度こそ耐えらず、朝日はがくりと膝をついてしまった。
 もっとを思い出しそうだが、これ以上先を思い出してはダメだと脳に急ブレーキを掛けられた気分だ。
 その反動で呼吸が苦しくなり、全身が発汗する。
 あまりの気持ちの悪さに、朝日はその場に嘔吐しそうになった。

「――君! 大丈夫か!?」
(え?)

 霞む目に、警官らしき人物が映った。
 通行人が路上で体調を崩していると、誰かが最寄りの交番へ知らせたのだろうか。

(た、助かった……)

 そう、安堵しかけた朝日であったが。

「あれ? もしかして、君は所沢朝日くんじゃないのか?」

 そう声を掛けられ、朝日は瞠目どうもくした。

――心臓がバクバクする。

 恐るおそる顔を上げると、相手はホッとしたように息を吐いた。

「ああ、やっぱりそうだ。元気――そうじゃないが、大丈夫かい?」
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