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ショックのあまり、言葉も出ない。
ガラガラと音を立てて、朝日の中で初めての恋が壊れて行った。
――悲しくて悔しくて、本当に情けない。
朝日は、押しつぶされそうな負の感情と脳震盪から、路上に倒れたまま動けなくなった。
だが、さすがにこの騒ぎは衆目を集めていたらしい。
『喧嘩は止めなさい! 君、大丈夫か!?』
そんな大声を上げて、警察官が駆け付けて来たのだ。
倒れた拍子に頭を切ったらしく、朝日の額と洋服に血が滴っていたものだから、余計に大騒ぎになった。
その内の誰かが、野次馬根性なのか義侠心からなのか分からぬが「あいつが犯人だ!」と言って、涅槃とその悪友を指差した。
後ろめたい事をした自覚がある涅槃達は、慌てて逃げようとしたが。
『犯人を捕まえろ!』
と、どこからかそんな声が上がり、涅槃と悪友は周辺の人物に取り押さえられた。
朝日を介抱していた警察官もそれに加勢し、二人はあっという間に傷害の現行犯で捕まった。
二人ともワーワー騒いでいたようだったが、頭を打っていた朝日にはもうその声は聞こえなかった。
『――君、名前は言えるかい? 安心しなさい、私はそこの交番に勤める西村という巡査だよ』
『と、ころざわ……あさ、あさひ、です。もう、大丈夫です。平気になっ……』
『所沢朝日くん、だね。いま救急車を呼んだから、動かないで。頭を打っているから――』
そこで一度、朝日の意識はブラックアウトした。
次に目覚めたのは、病院だった。
(僕は……)
白い天井を見ている内に、朝日の中に湧いてきたのは、涅槃に対する、これまでとは違う感情だった。
そうだ。
朝日は初めて、純粋な殺意を涅槃に抱いたのだ。
『涅槃……そんなに僕はウザかったのか?』
ガラガラと音を立てて、朝日の中で初めての恋が壊れて行った。
――悲しくて悔しくて、本当に情けない。
朝日は、押しつぶされそうな負の感情と脳震盪から、路上に倒れたまま動けなくなった。
だが、さすがにこの騒ぎは衆目を集めていたらしい。
『喧嘩は止めなさい! 君、大丈夫か!?』
そんな大声を上げて、警察官が駆け付けて来たのだ。
倒れた拍子に頭を切ったらしく、朝日の額と洋服に血が滴っていたものだから、余計に大騒ぎになった。
その内の誰かが、野次馬根性なのか義侠心からなのか分からぬが「あいつが犯人だ!」と言って、涅槃とその悪友を指差した。
後ろめたい事をした自覚がある涅槃達は、慌てて逃げようとしたが。
『犯人を捕まえろ!』
と、どこからかそんな声が上がり、涅槃と悪友は周辺の人物に取り押さえられた。
朝日を介抱していた警察官もそれに加勢し、二人はあっという間に傷害の現行犯で捕まった。
二人ともワーワー騒いでいたようだったが、頭を打っていた朝日にはもうその声は聞こえなかった。
『――君、名前は言えるかい? 安心しなさい、私はそこの交番に勤める西村という巡査だよ』
『と、ころざわ……あさ、あさひ、です。もう、大丈夫です。平気になっ……』
『所沢朝日くん、だね。いま救急車を呼んだから、動かないで。頭を打っているから――』
そこで一度、朝日の意識はブラックアウトした。
次に目覚めたのは、病院だった。
(僕は……)
白い天井を見ている内に、朝日の中に湧いてきたのは、涅槃に対する、これまでとは違う感情だった。
そうだ。
朝日は初めて、純粋な殺意を涅槃に抱いたのだ。
『涅槃……そんなに僕はウザかったのか?』
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