キラワレモノ

亜衣藍

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「それは、こちらのセリフだ! 」

 最初の、上品な雰囲気は何処へやら。

 次第に取っ組み合いでもするような険悪な様相に、聖は今度こそ、その場を後にしようとする。

「ミ、ミスターミドー! 」

 それに気付き、慌てて追いかけようとする二人の執事に、聖はチラリと振り返りながらニッコリと笑って言う。

「――――生憎だが、オレはここにはハネムーンで来たんだ。王子と侯爵の厚意は有難いが、今回お誘いは遠慮してもらいたい」

「えっ!! 」

 二人の執事は、驚愕に目を見張る。

 ハネムーン、だと……言ったか!?

 一瞬聞き違いかと思い、何方どちらからともなく口を開く。

「い、いま――――なんと仰いました? 」

「ハネムーンだ」

 聖は足を止めて、そう端的に告げると、トランクを転がしながら歩いてくるいかりに視線を向け、掛けていたサングラスを外す。

 そこに現れたのは、昔と変わらず美しい碧瑠璃色の瞳。

 その瞳に魅入られたように立ち尽くし、黙り込む二人の執事へ、聖は再びニッコリと微笑んだ。

「あいつが、オレのダーリンだ」

 その視線の先には、てっきり聖のボディーガードと秘書だと思っていた二人の男がいる。

 次第に近付いてくる、その二人の男を見遣りながら、執事たちは戸惑いの眼差しを聖に向けた。

「え…………あの、どちらですか? 」

「あのクソデカいゴリラ――じゃなくて、大柄な男性だ」

「――」

 本当か?と、懐疑的な様子になる二人の執事の雰囲気に、聖は内心で舌打ちをする。

(クソっ! 言い方が悪かったか? あのゴリラをどうやって褒めりゃあいいんだ)

 一瞬、眉間に深いシワを寄せそうになるも、聖は咳払いをしてそれを誤魔化す。

「その――オレは、実はああいう大柄で体格のいい――……精悍な顔をした男が好きなんだ。やっと理想のダーリンに巡り合えて、今はとても幸せなんだよ」

 初めて聞く聖の惚気のろけに、二人の執事は呆気にとられる。

 確かに、王子も侯爵も、それなりに鍛えてはいるが、どちらかといえば細マッチョでシュッとしている体系だ。

 貴族的で優雅――つまり、エレガントという言葉がしっくり来るタイプでだろう。

 とても、ああいう野趣あふれるような、胸板の厚いワイルドで精悍なタイプではない。

 あれが聖の好みだと言われれば、もう二人は諦めるしかないと思われるが……。

「し、しかし…………それなら、どうしてミスターミドーはわざわざこの国へ? 」

 王子と侯爵。その他諸々と因縁浅からぬ関係でありながら、新たな男を連れて、ここに来た理由が分からない。

 これに聖は、徹夜で考えたシナリオを口にした。

「――――あいつ、ちょっと訳ありの稼業ヤクザでさ…………昔のよしみで、こっちで口を利いてもらおうと、オレも付いてきたって訳だ」

 これは本当だ。

 タックスヘイブンに対し、世界各国の風当たりが強くなる中、ナモ公国ではペーパーカンパニーを認めない事にしている。

 だから、この国で新たに『会社』を登録するには、事務所を借りたり現地人を雇用する登録をしたりと、諸々の手続きが必要になる。

 全て揃えて登録を申請しても、最低二か月以上審査結果を待たされる。

 そして、そこまでキチンと手続きをしても、許可が下りない場合が往々にして多い。

 これは、起業する側にとって結構な負担となっていた。

 だから――――今回、聖は同行する事を決めたのだ。

 しかし聖は、既にヤクザから足を洗った身である。

 古巣の天黄組が困窮しているから一肌脱いでくれと泣きつかれたからと言って、手を貸す義理は最早ない。

 最初は、碇の頼みを素っ気なく袖にするつもりだった。

 だが、ここ数日で一気に事情が変わった。

 一般人に紛れ込んで入国し、素知らぬ顔でMHJを観戦する予定だったのだが――――。

 しかし、それがバレてしまったのだから。
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