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4章-10
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ランクス地方に初雪が降った日。
そう、ソーレイ・クラッドが迎えに来た、その日の夜だ。
仕事から帰ってきた両親は、シャラの話に仰天していた。
父親は驚きのあまり工具箱を落として中身をぶちまけていたし、母親など、「まぁまぁまぁ!」と、まるでその言葉しか知らない鳥のように何度も驚嘆の声を上げていた。
二人とも、びっくりしていた。
けれど、彼らが驚愕したのは求婚された、そのこと自体ではない。
相手が公家に勤める騎士だったことに、何より驚いていたのだ。
そして衝撃的な出来事に散々驚きつくした後で、二人ともふうっと、魂が抜けたようにため息をついた。
「ちゃんとお断りしたのね?」
確認する母に、シャラはうん、と返事をした。
娘の選択に、母は胸をなでおろした。
父も、どこか悲しげに笑いながらも「それでよかったんだ」と言った。
騎士になった彼に、もちろん不満があろうはずがない。
結婚なんか必要ない、なんて思っていたわけでもない。
家柄だって――もちろん釣り合うとは思わないけれど、貧しくてもしあわせな家だと感じられるようになっていたから、少しも気にはしていなかった。
それでも、シャラは彼の求婚を受け入れるわけにはいかなかったのだ。
「おねえちゃん、どうしてけっこんしないの? このご本のおんなのこは、貧乏でも騎士さまとけっこんしたよ?」
末の妹が、シャラの膝に絵本を押し付けていた。
貧しい家の娘が騎士に見初められて、しあわせな結婚をするという単純な話。
きっとどこかの貧しい娘が、憧れと願望だけを織り込んで書いたに違いない。
とても名作とは言えない絵本だけれど、シャラも大好きで、もう何度も読み返したものだ。
「お姉ちゃんは騎士さまとは結婚できないんだよ」
「どうして?」
「だってお姉ちゃんは引き算ができないもん」
答えたシャラに、妹はキョトンとしたものだった。
「ひきざん、できないといけないの?」
「そうだよ。騎士さまのお嫁さんは、頭がよくなきゃダメなの。だから、ミュシャは今のうちにうんと勉強しておくんだよ。大きくなってから、後悔しないように――」
そう、ソーレイ・クラッドが迎えに来た、その日の夜だ。
仕事から帰ってきた両親は、シャラの話に仰天していた。
父親は驚きのあまり工具箱を落として中身をぶちまけていたし、母親など、「まぁまぁまぁ!」と、まるでその言葉しか知らない鳥のように何度も驚嘆の声を上げていた。
二人とも、びっくりしていた。
けれど、彼らが驚愕したのは求婚された、そのこと自体ではない。
相手が公家に勤める騎士だったことに、何より驚いていたのだ。
そして衝撃的な出来事に散々驚きつくした後で、二人ともふうっと、魂が抜けたようにため息をついた。
「ちゃんとお断りしたのね?」
確認する母に、シャラはうん、と返事をした。
娘の選択に、母は胸をなでおろした。
父も、どこか悲しげに笑いながらも「それでよかったんだ」と言った。
騎士になった彼に、もちろん不満があろうはずがない。
結婚なんか必要ない、なんて思っていたわけでもない。
家柄だって――もちろん釣り合うとは思わないけれど、貧しくてもしあわせな家だと感じられるようになっていたから、少しも気にはしていなかった。
それでも、シャラは彼の求婚を受け入れるわけにはいかなかったのだ。
「おねえちゃん、どうしてけっこんしないの? このご本のおんなのこは、貧乏でも騎士さまとけっこんしたよ?」
末の妹が、シャラの膝に絵本を押し付けていた。
貧しい家の娘が騎士に見初められて、しあわせな結婚をするという単純な話。
きっとどこかの貧しい娘が、憧れと願望だけを織り込んで書いたに違いない。
とても名作とは言えない絵本だけれど、シャラも大好きで、もう何度も読み返したものだ。
「お姉ちゃんは騎士さまとは結婚できないんだよ」
「どうして?」
「だってお姉ちゃんは引き算ができないもん」
答えたシャラに、妹はキョトンとしたものだった。
「ひきざん、できないといけないの?」
「そうだよ。騎士さまのお嫁さんは、頭がよくなきゃダメなの。だから、ミュシャは今のうちにうんと勉強しておくんだよ。大きくなってから、後悔しないように――」
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