後輩と先輩のやつ

十六原

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高校3年(後輩)と大学1年(先輩)

お返事

初詣の後、先輩が意を決したように口を開いてこう言った。
「ねえ、今日……うちに来ない?」
突然の先輩からの誘いだった。これまで何度か家に遊びに行ったことはあるが、いつもは僕が半ば無理やり押しかけていただけだった。だからまさか先輩から誘われるとは思ってもみなかった。
「ほら、その……お返事、したいから。できればふたりきりのほうがいいかなって」
「そ、そうですね。ぜひ行かせてください」
僕は慌てて答えた。

先輩の部屋は相変わらず綺麗に片付いていた。女の子らしい可愛い部屋だ。初めて来たときは緊張してあまり周りを見る余裕がなかったけれど、今ではこうしてゆっくり眺めることができるくらいには慣れてきた。それでもまだ緊張していることに変わりはないけれど。
先輩の家に来るのは初めてではないはずなのに、どうにも落ち着かない。それはやはり好きな人の家にいることや、二人っきりという状況……そして、今からされるであろう話の内容が原因なんだろうと思う。
先輩と一緒にいられるのはもちろん嬉しいけど、こういうシチュエーションは正直つらい。先輩のことが好きだからこそ余計に辛いのだ。
「大丈夫? なんか顔色悪いよ」
「え、大丈夫ですよ。ちょっと疲れてるだけかも。昨日あんまり眠れなくて……」
実際、昨夜はなかなか寝付けなかったせいで、朝起きるのも辛かった。先輩との約束があったからなんとか起きられたようなものだ。
寝不足なこともあってか、ずっと頭の中が混乱している。冷静にならなければと自分に言い聞かせるが、一度意識してしまうとだめだった。
僕は先輩のことをそういう目で見てしまっている。先輩に触れたいし、触れられたい。先輩のすべてを知りたいし、すべてを捧げたい。僕は先輩に対して、もはや恋心以上のものを抱いてしまっている。それをはっきりと自覚するともうだめだった。僕は先輩ともっと深い関係になりたい。できることなら今すぐここで押し倒してしまいたい。そして一日中愛し合って、僕のことしか考えられなくなるくらいに先輩をドロドロに甘やかしたい。いっそそうしてしまえば、先輩も僕だけを愛してくれるのではないか。仄暗い欲望だけが膨れ上がっていく。

僕がそんなことを考えていると、ふいに先輩が僕の隣に座り直した。先輩と顔が近くてドキドキする。少し顔を近づけたらキスだってできてしまう距離だ。緊張しながら先輩のほうを見れば、先輩も僕のことをじっと見つめていた。先輩の大きくて綺麗な瞳に僕が映っているのが見えると、その近さを改めて意識してしまって、ますます心臓がうるさく鳴り始める。どんな顔をしていればいいのかわからない。あまりの緊張で思わず目を逸らしてしまいそうになったとき、先輩が口を開いた。
「私のこと、まだ好きでいてくれてる……?」
少し不安そうに俯きながら、先輩はそんなことを言った。上目遣いで見つめられてその破壊力にやられそうになったが、ぐっと堪えてできる限り平常心を保つ。先輩のことを安心させたくて、なるべく自然に見えるように微笑みつつ、大好きです、と答えた。本当は大好きなんてものじゃないけど、ここで僕が変に先輩への愛情を長々と語り出しても引かれるような気がしたので、シンプルな返答にしておいた。
「ほんと? よかったー」
先輩が心底安心したような顔で呟いた。そんなに不安だったのだろうかと思うと、僕としては自分の愛情表現が上手くいっていないのかと少し気になってしまう。先輩にはもっと僕に愛されている自覚を持ってほしいものだ。これからはもう少しわかりやすいアプローチも増やした方がいいのだろうか……。
「先輩、好きですよ。先輩が僕のことをどう思っていても、僕はずっと先輩のこと大好きですから」
「うん、ありがとう。私も……好きだよ」
「えっ……?」
全身に衝撃が走る。
一瞬、自分の耳を疑った。でも、目の前の先輩は嬉しそうに、そしてちょっと恥ずかしそうに微笑んでいる。まさか、そんな。じゃあ、僕は先輩の彼氏になれる……?
一気に体温が上がったような気がする。緊張か興奮かよくわからないけど、身体がすごく熱い。真冬なのに半袖になってしまいたいくらいだ。
僕が何も言わずにいるからか、先輩が僕を不思議そうな顔で見ている。いけない、早く何か話さないと。でもどうしよう。まずは先輩の言葉の意味をはっきりさせたい。ちゃんと僕のことを、異性として、男として好きだと言ってくれているのかどうか。もしかしたらただ友達として、好きだよー、なんて言っているだけかも。うん、先輩なら全然あり得る。

「……あの、先輩、今なんて……?」
「え? 好きだよって言ったんだよ」
「あの、ほんとに? ほんとのほんとですか? 好き……って、その……どういう意味で……」
「どういう意味って……。この前告白してくれたでしょ? だからそのお返事だよ」
「か……彼氏にしてくれるんですか、僕のこと」
「うん。よろしくお願いします」

先輩は嬉しそうに笑う。本当に? 先輩がこの僕を、好き……? 何度考えても信じられなくてその場で固まっていると、先輩に優しく抱きしめられた。
「……待たせちゃってごめんね」
「そんな、別に先輩が謝るようなことじゃ……」
「…………」
先輩が僕の肩に顔をうずめてくる。恐る恐る先輩の頭を撫でたら、先輩はふふ、と小さく笑った。なんだか少しくすぐったくて、でもとても幸せな気持ちになる。

「あの……先輩、キスしてもいいですか」
その状態のまま、思い切って聞いてみた。
「…………」
先輩は何も言わずに顔を上げて、驚いたように僕を見つめる。もしかしてキスはまだ早すぎたのだろうか。今さらそんなことを思ったけれど、言ってしまった言葉は取り消せなくて、僕も先輩を見つめ返すしかなかった。
「……先輩?」
沈黙に不安になって僕がそう言えば、先輩は顔を赤くしながらも小さく首を縦に振った。目をぎゅっとつむって、少し緊張している先輩が可愛くて仕方ない。先輩の頬に手を添えると、先輩の肩がピクリと震えた。そのまま親指で先輩の小さな唇をなぞって、先輩が抵抗しないのを見て僕は優しく触れるだけのキスをした。
でも、唇ではなく頬に。

「えっ、あれ……?」
僕が顔を離すと、先輩は頬に手を添えながら、何が起きたのか分からない、というような顔をした。
「先輩、まだ緊張してるかなって。だから今日はそっちにしておきますね」
「で、でも……」
「大丈夫です、僕のことは気にしないでください。それより、先輩に無理させたくないんです。……好きな人だから、大事にしたくて」
僕がそう言って笑うと、先輩も笑ってくれた。
「ありがと……」
そうして二人で横に並んで座っていると、不意に先輩が僕の手を握ってきた。驚いて先輩を見ると、先輩は嬉しそうな顔をしてこちらを見上げてくる。
僕は照れくさくなりながらも、彼女の手を握り返したのだった。

(終わり)
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