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第67話 スケートガーデンと豚骨ラーメン
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冷たい風が街を吹き抜ける中、私たちはF.C.O.H.ライズのスケートガーデンにやってきた。
遠野に誘われた時は軽い気持ちでOKしたものの、目の前のスケートリンクを見て私は今さらながら後悔し始めていた。
「えっ、ちょっと待って……これ、本当に滑るの?」
「当たり前でしょ! せっかく来たんだから楽しもうよ!」
遠野はスケート靴を履くと慣れた様子で軽く足踏みしながら笑顔を向けてくる。
対して私はスケートなんて一度もやったことがなく、立つだけでも不安しかない。
「いや、私、絶対転ぶと思う……」
「大丈夫だって! ほら、手繋ぐから!」
遠野は当然のように私の手を握り、スケートリンクへと足を踏み入れた。
彼女の手が私を引っ張るようにしっかりと動き、リズムよく滑り出す。
「ゆっくり一歩ずつ、そうそう、バランス取ってね!」
ぎこちない足運びの私とは対照的に遠野はすいすいと滑っている。
その余裕たっぷりの表情に私は少しだけ悔しくなった。
「遠野、上手いね……いつからスケートやってたの?」
「小さい頃に何回かやったことあるんだ! でも、そんな本格的じゃないよ?」
そう言いながらも彼女の動きは明らかにスムーズだ。
私は不安定に足を動かしながら、なんとかついていこうと必死だった。
「ほら、大丈夫だから! もう少しリラックスして!」
「無理……!」
思わず力を込めて遠野の手を握り締める。
すると彼女がクスッと笑った。
「田所さんがこんなに頼ってくれるの、新鮮かも」
「な、なんでそこで笑うの……!」
普段は食べることばかり考えている遠野が今日は私をリードしてくれている。
そのことに気付くと、なんだか妙に胸がドキドキして、余計に緊張してしまった。
しばらくして、ようやく慣れてきたのかなんとか自力でバランスを取れるようになってきた。
遠野のサポートがあったおかげで少しずつ滑れるようになってきた。
「ほら田所さん、もう普通に滑れてるじゃん!」
「え、ほんと?」
「うん! ちゃんと前に進めてるし転んでないし!」
遠野が言う通り、最初の頃のようなふらつきはなくなり少しずつ前に進めるようになっていた。
なんとなく達成感を感じながら私はふっと息をついた。
「でも、スピードを上げるのはまだ無理そう……」
「じゃあ、次はちょっとずつスピードアップしてみよう!」
「えぇ……?」
「大丈夫大丈夫! 私が手を引いてあげるから!」
遠野はそう言うと再び私の手を握り、ぐっと引っ張るようにして滑り出した。
突然のスピードアップに私は思わず叫んでしまう。
「ちょ、ちょっと待って、怖いって!」
「ほら風が気持ちいいでしょ?」
「いやそんな余裕ない……!」
遠野は笑いながら私をリードし、私は必死でバランスを取る。
だが、そんな必死な状態でも遠野の手の温もりだけはしっかりと感じられた。
手を引かれて滑るうちに、なんとなくスケートの楽しさがわかってきた気がした。
氷の上をすべる感覚、冷たい風が頬をかすめる感触、そして何より遠野と一緒にいることがなんだか楽しかった。
「ね、楽しくなってきた?」
「……うん、まあ、ちょっとだけ」
「やったー!」
遠野が嬉しそうに笑う。
それにつられて私も自然と笑顔になった。
スケートを終え、リンクを出た頃には私の足はすっかり疲れていた。
普段使わない筋肉を使ったせいか、ふくらはぎがじんじんと痛む。
「ふぅ……結構疲れたね」
「でしょ? スケートって意外と体力使うんだよ」
「うん……でも楽しかった」
「よし、それなら次はもっと滑れるように特訓だね!」
「えっ……次?」
「当たり前でしょ! 次回はもっとスピードアップするよ!」
遠野は無邪気に笑いながら言った直後、ぐぅ~っと遠野のお腹が鳴り響いた。
「あはは、スケートで動いたらお腹空いちゃった……そろそろ夕飯にしよっか!」
スケートで冷え切った体を抱えながら遠野が元気よく提案する。
「何食べたい?」
「うーん……温かいものがいいかな。でも、どうせ遠野のことだからもう行きたい店決まってるんでしょ?」
「ふふふ、よくわかってるね! 今日は豚骨ラーメン食べに行こう!」
遠野が胸を張って言う。
「ラーメン? なんか風情がないような……」
「えー、でもスケートで冷えた体を温めるには最高だよ! しかもあそこの豚骨スープは濃厚で美味しいんだから!」
遠野の言葉に押され、私は仕方なく頷いた。
確かに温かいものが食べたいのは事実だった。
F.C.O.H.ライズのレストランフロアにある店に入ると店内は活気に満ちていた。
カウンター席には仕事帰りの人々が並び、テーブル席では女性同士でラーメンを楽しんでいる姿も見え、カジュアルに楽しめる雰囲気なのだと感じた。
遠野はすぐにカウンター席に座りメニューも見ずに「白丸元味」を注文する。
「田所さんは?」
「えっと……じゃあ同じので」
「やった! 一緒に食べられるね!」
しばらくして、湯気の立つ丼が運ばれてきた。
白濁したスープの上にチャーシューがのり、ネギときくらげが散らされている。
まずはとレンゲですくって一口飲むと、まろやかな豚骨のコクが口いっぱいに広がった。
「……思ったよりあっさりしてる?」
「でしょ! ここのスープは濃厚なのにしつこくないのがいいんだよ!」
遠野は嬉しそうに麺をすすり、私も続いて箸を手に取った。
細めのストレート麺はスープとよく絡み、もちもちとした食感が心地いい。
「……うん、これは体が温まるし美味しい」
最初はラーメンなんて、と少し気が進まなかったが遠野の選択に間違いはなかった。
温かいスープが冷えた体にじんわりと染み込み、ほっとする。
「ほらね! 私の勘は外れないんだから!」
「はいはい……次からはちゃんと遠野に任せるよ」
満足そうに笑う遠野を見ながら、私はスープをもう一口すする。
今日の寒さも、スケートの疲れも、全部この一杯で溶けていく気がした。
遠野に誘われた時は軽い気持ちでOKしたものの、目の前のスケートリンクを見て私は今さらながら後悔し始めていた。
「えっ、ちょっと待って……これ、本当に滑るの?」
「当たり前でしょ! せっかく来たんだから楽しもうよ!」
遠野はスケート靴を履くと慣れた様子で軽く足踏みしながら笑顔を向けてくる。
対して私はスケートなんて一度もやったことがなく、立つだけでも不安しかない。
「いや、私、絶対転ぶと思う……」
「大丈夫だって! ほら、手繋ぐから!」
遠野は当然のように私の手を握り、スケートリンクへと足を踏み入れた。
彼女の手が私を引っ張るようにしっかりと動き、リズムよく滑り出す。
「ゆっくり一歩ずつ、そうそう、バランス取ってね!」
ぎこちない足運びの私とは対照的に遠野はすいすいと滑っている。
その余裕たっぷりの表情に私は少しだけ悔しくなった。
「遠野、上手いね……いつからスケートやってたの?」
「小さい頃に何回かやったことあるんだ! でも、そんな本格的じゃないよ?」
そう言いながらも彼女の動きは明らかにスムーズだ。
私は不安定に足を動かしながら、なんとかついていこうと必死だった。
「ほら、大丈夫だから! もう少しリラックスして!」
「無理……!」
思わず力を込めて遠野の手を握り締める。
すると彼女がクスッと笑った。
「田所さんがこんなに頼ってくれるの、新鮮かも」
「な、なんでそこで笑うの……!」
普段は食べることばかり考えている遠野が今日は私をリードしてくれている。
そのことに気付くと、なんだか妙に胸がドキドキして、余計に緊張してしまった。
しばらくして、ようやく慣れてきたのかなんとか自力でバランスを取れるようになってきた。
遠野のサポートがあったおかげで少しずつ滑れるようになってきた。
「ほら田所さん、もう普通に滑れてるじゃん!」
「え、ほんと?」
「うん! ちゃんと前に進めてるし転んでないし!」
遠野が言う通り、最初の頃のようなふらつきはなくなり少しずつ前に進めるようになっていた。
なんとなく達成感を感じながら私はふっと息をついた。
「でも、スピードを上げるのはまだ無理そう……」
「じゃあ、次はちょっとずつスピードアップしてみよう!」
「えぇ……?」
「大丈夫大丈夫! 私が手を引いてあげるから!」
遠野はそう言うと再び私の手を握り、ぐっと引っ張るようにして滑り出した。
突然のスピードアップに私は思わず叫んでしまう。
「ちょ、ちょっと待って、怖いって!」
「ほら風が気持ちいいでしょ?」
「いやそんな余裕ない……!」
遠野は笑いながら私をリードし、私は必死でバランスを取る。
だが、そんな必死な状態でも遠野の手の温もりだけはしっかりと感じられた。
手を引かれて滑るうちに、なんとなくスケートの楽しさがわかってきた気がした。
氷の上をすべる感覚、冷たい風が頬をかすめる感触、そして何より遠野と一緒にいることがなんだか楽しかった。
「ね、楽しくなってきた?」
「……うん、まあ、ちょっとだけ」
「やったー!」
遠野が嬉しそうに笑う。
それにつられて私も自然と笑顔になった。
スケートを終え、リンクを出た頃には私の足はすっかり疲れていた。
普段使わない筋肉を使ったせいか、ふくらはぎがじんじんと痛む。
「ふぅ……結構疲れたね」
「でしょ? スケートって意外と体力使うんだよ」
「うん……でも楽しかった」
「よし、それなら次はもっと滑れるように特訓だね!」
「えっ……次?」
「当たり前でしょ! 次回はもっとスピードアップするよ!」
遠野は無邪気に笑いながら言った直後、ぐぅ~っと遠野のお腹が鳴り響いた。
「あはは、スケートで動いたらお腹空いちゃった……そろそろ夕飯にしよっか!」
スケートで冷え切った体を抱えながら遠野が元気よく提案する。
「何食べたい?」
「うーん……温かいものがいいかな。でも、どうせ遠野のことだからもう行きたい店決まってるんでしょ?」
「ふふふ、よくわかってるね! 今日は豚骨ラーメン食べに行こう!」
遠野が胸を張って言う。
「ラーメン? なんか風情がないような……」
「えー、でもスケートで冷えた体を温めるには最高だよ! しかもあそこの豚骨スープは濃厚で美味しいんだから!」
遠野の言葉に押され、私は仕方なく頷いた。
確かに温かいものが食べたいのは事実だった。
F.C.O.H.ライズのレストランフロアにある店に入ると店内は活気に満ちていた。
カウンター席には仕事帰りの人々が並び、テーブル席では女性同士でラーメンを楽しんでいる姿も見え、カジュアルに楽しめる雰囲気なのだと感じた。
遠野はすぐにカウンター席に座りメニューも見ずに「白丸元味」を注文する。
「田所さんは?」
「えっと……じゃあ同じので」
「やった! 一緒に食べられるね!」
しばらくして、湯気の立つ丼が運ばれてきた。
白濁したスープの上にチャーシューがのり、ネギときくらげが散らされている。
まずはとレンゲですくって一口飲むと、まろやかな豚骨のコクが口いっぱいに広がった。
「……思ったよりあっさりしてる?」
「でしょ! ここのスープは濃厚なのにしつこくないのがいいんだよ!」
遠野は嬉しそうに麺をすすり、私も続いて箸を手に取った。
細めのストレート麺はスープとよく絡み、もちもちとした食感が心地いい。
「……うん、これは体が温まるし美味しい」
最初はラーメンなんて、と少し気が進まなかったが遠野の選択に間違いはなかった。
温かいスープが冷えた体にじんわりと染み込み、ほっとする。
「ほらね! 私の勘は外れないんだから!」
「はいはい……次からはちゃんと遠野に任せるよ」
満足そうに笑う遠野を見ながら、私はスープをもう一口すする。
今日の寒さも、スケートの疲れも、全部この一杯で溶けていく気がした。
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