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2 あんたは僕を絶望に落とす。俺は君の希望になりたい。
理由
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(side夏向)
「それで……運命って」
「そう。話の続きだった。天才の象徴であるαでさえも同じこと。完璧なαはいない。運命のΩと番うためにαは不完全な状態で生まれてくる。そしてαに欠けているものは、運命のΩにしか持っていない」
つい何となく聞いてしまう。でも興味深い話でもない。宗教じみた、僕にはよく分からない話だ。
分かんないけど……あまりにも嬉しそうに話す生徒会長のその声を、もっと聞きたいと思ってしまったのだろう。
「Ωも同じことが言える。Ωも不完全な状態なんだ。満たされないから発情期が来る。αを惹き付けたいから『ここにいる』と身体が俺たちを呼ぶんだ。でも本能と理性がリンクするαと違い、Ωの身体が強烈に俺たちを求めるのに対して……理性はそれについて追いつかない。君もだから戸惑ってしまったんだよね」
流し終えた生徒会長はトリートメントを取り出して、僕の頭に撫でるように付ける。
女の子じゃないし、そんなに長い髪でも、普段から髪の毛に拘ってる訳でもない。でも生徒会長の手の動きは優しく、丁寧だった。
「俺たちの身体は永遠では無い。いつか滅びの時がくる。でも俺たち人間の遺伝子が、永遠でいたいと叫んでいるんだ。俺たちが子孫を残そうとするのは、そんな遺伝子が取った手段だ」
「永遠なんて、遠いよ。僕は今死んでもいい。でも今、死にたいとも思わない。生きているから……生きているだけ」
「夏向。俺たちは元は完璧で永遠な、ひとつだったんだ。夏向が死ねば……俺はずっと欠けた状態で、永遠にはなれない。だから死なないで」
「分からない。僕は生徒会長を殺さなければならないのに……。出来なければ、僕が死ぬだけ」
欠けてなんていない。僕は僕で、生徒会長は生徒会長だ。それぞれ別の人間で、それぞれ別の居場所がある他人。一緒にはなれないから僕は生徒会長に刃を向けるのだ。
「さっきから夏向は、自分の願望については全く話していないね。これは、しなければならないとか、してはいけないとか……するべきだとかいう話では無いんだよ。夏向がどこかに置き去りにした、嫌とか、やりたくないとか。やりたいとか……好きとか。そういう話だ。そういう話を俺は夏向としたい」
「僕は……」
戸惑って、何も言うことが出来ない僕に、生徒会長はにっこりと笑って、またシャワーで僕の髪の毛を洗い流す。頭から項に、温い湯が伝って、落ちる。
冷えやすいそこを、温められると気持ちいいんだな、なんて思った。
思って、ハッとした。弱点を晒してどうするんだよ、僕。
発情期じゃ無いから関係ないけど……流石に無防備過ぎた。本当に、今、目の前にいる『運命』だからこそ、調子が狂うのかもしれないけれど。
油断して、思わず開いてしまった心の扉を、生徒会長は狙ったように更に隙間に入りこんだ。
「俺は、夏向と幸せになりたい」
「ねぇ、別にそんな……運命じゃなくても良いじゃん?Ωは世界に僕だけでは無いんだから。生徒会長だって他のΩと番えばいい。僕には、だから……そんな資格は、無い」
幸せ、という言葉が怖かった。手を伸ばして求めば、やっぱり絶望に落とされそうで。だからだろう。構わないで欲しかった。初めて生徒会長を襲った昨日のように、この関係を終わらせてしまいたい。そう思って僕は唇を噛んだ。もう一度、生徒会長を僕の心から追い出して、扉を閉ざしてしまえばいい。
運命も、何もかも知らない。僕は僕という、それだけの生き物だ。生徒会長の入る余地なんて無い。
「ハマらないパズルピースで妥協する時は、そもそも、正解を知らない時だ。俺は君と出会って、そして正解を見つけたんだ。君しか有り得ない。『運命』以外に理由を探そうとしたけど……やはり運命が、君を好きにさせる」
生徒会長が俺の前に跪く。そして僕を、僕の瞳を見た。
「ならば俺はもう、これ以上理由は要らない。どうか、君を幸せにさせて欲しい」
すとん、と。
落された。そう感じた。分からない。強がりさえ不要だと言われたみたいに。
僕はもう、何ひとつでも言葉を発することが出来なくて、ただ黙って向かい合わせのまま身体を洗われた。つま先からかかと。そして脹ら脛と膝を。腿、お尻と上がっていき、ついに性器に振れた。
生徒会長は入念に洗おうとするけれど、僕はそれを拒む余裕さえ無かった。正直、恥ずかしいけれど、何を言えばいいんだろう。また心をこじ開けられるかもしれない。それがやっぱり恐怖だった。あの、生徒会長の黒い瞳と目が合う度に……深い闇に、囚われた気分になる。何も言わず、すっと目を逸らすしか無かった。
生徒会長はそんな僕に、もうそれ以上何か言うことは無かった。
勿論上半身も何度も往復し、丁寧に洗われた。浴槽に浸かるか尋ねられたが、断った。
浴室から出て元の服を着た後、『帰りたい』と言えば頷いて、生徒会長はあっさり寮まで送ってくれた。
僕の感情は限界を超えて、自分の部屋でわけも分からず泣き続けた。
もういっそ。頑なに生徒会長を拒否する僕を、あんたは嫌ってくれないだろうか。
「それで……運命って」
「そう。話の続きだった。天才の象徴であるαでさえも同じこと。完璧なαはいない。運命のΩと番うためにαは不完全な状態で生まれてくる。そしてαに欠けているものは、運命のΩにしか持っていない」
つい何となく聞いてしまう。でも興味深い話でもない。宗教じみた、僕にはよく分からない話だ。
分かんないけど……あまりにも嬉しそうに話す生徒会長のその声を、もっと聞きたいと思ってしまったのだろう。
「Ωも同じことが言える。Ωも不完全な状態なんだ。満たされないから発情期が来る。αを惹き付けたいから『ここにいる』と身体が俺たちを呼ぶんだ。でも本能と理性がリンクするαと違い、Ωの身体が強烈に俺たちを求めるのに対して……理性はそれについて追いつかない。君もだから戸惑ってしまったんだよね」
流し終えた生徒会長はトリートメントを取り出して、僕の頭に撫でるように付ける。
女の子じゃないし、そんなに長い髪でも、普段から髪の毛に拘ってる訳でもない。でも生徒会長の手の動きは優しく、丁寧だった。
「俺たちの身体は永遠では無い。いつか滅びの時がくる。でも俺たち人間の遺伝子が、永遠でいたいと叫んでいるんだ。俺たちが子孫を残そうとするのは、そんな遺伝子が取った手段だ」
「永遠なんて、遠いよ。僕は今死んでもいい。でも今、死にたいとも思わない。生きているから……生きているだけ」
「夏向。俺たちは元は完璧で永遠な、ひとつだったんだ。夏向が死ねば……俺はずっと欠けた状態で、永遠にはなれない。だから死なないで」
「分からない。僕は生徒会長を殺さなければならないのに……。出来なければ、僕が死ぬだけ」
欠けてなんていない。僕は僕で、生徒会長は生徒会長だ。それぞれ別の人間で、それぞれ別の居場所がある他人。一緒にはなれないから僕は生徒会長に刃を向けるのだ。
「さっきから夏向は、自分の願望については全く話していないね。これは、しなければならないとか、してはいけないとか……するべきだとかいう話では無いんだよ。夏向がどこかに置き去りにした、嫌とか、やりたくないとか。やりたいとか……好きとか。そういう話だ。そういう話を俺は夏向としたい」
「僕は……」
戸惑って、何も言うことが出来ない僕に、生徒会長はにっこりと笑って、またシャワーで僕の髪の毛を洗い流す。頭から項に、温い湯が伝って、落ちる。
冷えやすいそこを、温められると気持ちいいんだな、なんて思った。
思って、ハッとした。弱点を晒してどうするんだよ、僕。
発情期じゃ無いから関係ないけど……流石に無防備過ぎた。本当に、今、目の前にいる『運命』だからこそ、調子が狂うのかもしれないけれど。
油断して、思わず開いてしまった心の扉を、生徒会長は狙ったように更に隙間に入りこんだ。
「俺は、夏向と幸せになりたい」
「ねぇ、別にそんな……運命じゃなくても良いじゃん?Ωは世界に僕だけでは無いんだから。生徒会長だって他のΩと番えばいい。僕には、だから……そんな資格は、無い」
幸せ、という言葉が怖かった。手を伸ばして求めば、やっぱり絶望に落とされそうで。だからだろう。構わないで欲しかった。初めて生徒会長を襲った昨日のように、この関係を終わらせてしまいたい。そう思って僕は唇を噛んだ。もう一度、生徒会長を僕の心から追い出して、扉を閉ざしてしまえばいい。
運命も、何もかも知らない。僕は僕という、それだけの生き物だ。生徒会長の入る余地なんて無い。
「ハマらないパズルピースで妥協する時は、そもそも、正解を知らない時だ。俺は君と出会って、そして正解を見つけたんだ。君しか有り得ない。『運命』以外に理由を探そうとしたけど……やはり運命が、君を好きにさせる」
生徒会長が俺の前に跪く。そして僕を、僕の瞳を見た。
「ならば俺はもう、これ以上理由は要らない。どうか、君を幸せにさせて欲しい」
すとん、と。
落された。そう感じた。分からない。強がりさえ不要だと言われたみたいに。
僕はもう、何ひとつでも言葉を発することが出来なくて、ただ黙って向かい合わせのまま身体を洗われた。つま先からかかと。そして脹ら脛と膝を。腿、お尻と上がっていき、ついに性器に振れた。
生徒会長は入念に洗おうとするけれど、僕はそれを拒む余裕さえ無かった。正直、恥ずかしいけれど、何を言えばいいんだろう。また心をこじ開けられるかもしれない。それがやっぱり恐怖だった。あの、生徒会長の黒い瞳と目が合う度に……深い闇に、囚われた気分になる。何も言わず、すっと目を逸らすしか無かった。
生徒会長はそんな僕に、もうそれ以上何か言うことは無かった。
勿論上半身も何度も往復し、丁寧に洗われた。浴槽に浸かるか尋ねられたが、断った。
浴室から出て元の服を着た後、『帰りたい』と言えば頷いて、生徒会長はあっさり寮まで送ってくれた。
僕の感情は限界を超えて、自分の部屋でわけも分からず泣き続けた。
もういっそ。頑なに生徒会長を拒否する僕を、あんたは嫌ってくれないだろうか。
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