運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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10 呼び名に込めるのは祈り。

報い

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(side光希)
「でも僕はお荷物だ。生徒会長の傍には相応しくないよ。あんたにはもっと……可愛らしくて生徒会長を優しさで包み込むような……そんなΩと番ってほしい」

夏向は俺の涙に戸惑ってしばらく黙った後、ふとそんなことを呟いた。
何故、お荷物だと言うのだろう。俺の持ってる恵まれたもの全てが、夏向の為にある。夏向と出会う前の俺の人生は、真っ直ぐで煌びやかな一本道……けれどもそこを歩く俺はモノクロだった。色なんて無くて……上っ面の正義を振りまいているだけの大人じみた高校生だった。

「番うのは夏向だって決めてるから、それは出来ないかな。夏向が嫌だって言うなら、俺たちは『まだ』番にはならない。俺は未来に期待する。それだけだよ」
「生徒会長を誘惑して殺害するつもりだったし……」
「誘惑なら大歓迎だよね」
「可愛げも無い。僕は色々面倒臭い」
「今でも十分可愛いけれど……もっと可愛らしくて優しさで包み込むような番に、君がなってくれたら更に喜ぶかな」
「もういい……、それと!!」

真っ赤にした夏向が、声をはりあげた。

「僕は初めてじゃない」
「……知ってる。でもそれでもいい」
「でも、」
「いいよ。過去のことはなんだっていい。嫌いになんかならないから。ただ、これからは俺を見てくれればいい」

そう泣きながら笑いかけると、『生徒会長は物好きだ』なんて小さな声が聞こえてきた。そうかもしれない。俺を殺そうとした人を、愛したいと思っているんだから。

「君の運命が、俺で良かった」

こんなにも消えそうになってる人を、俺だから抱きしめることが出来る。そう考えればこれ程幸せなことはない。頬に感じた夏向の体温を愛おしく思う。お互い真っ赤になって、泣いて。明日は目が腫れるのかな。

「生徒会長」
「まだ名前で読んでくれないのかな?」
「兄様より、生徒会長に相応しいと思うから」
「そっ……か」

先程とは違い、あまりにも素っ頓狂な声が出てしまった。驚きやら嬉しいやら、どうしていいのか分からない。

「最悪。君のためなら生徒会長の地位を捨てようかと思ったけれど、そう言われたら捨てられないな」
「僕のために、生徒会長が持ってるものを捨てなくていいから」
「捨てないよ。何がなんでも、右代春都を追い出す」
「……あんたなら出来そうだ」
「君が味方してくれるなら俺は頑張れるよ」
「味方……か」

軽く言った言葉だけれど、何か夏向はその言葉に引っかかったのだろうか。

「兄様より愛してくれるなら……いいよ。僕はあんたの味方だ」

ごろんと後ろから倒れて寝転んでみる。
今日はどうしよう。これから自分の住居に帰るって言うのも面倒臭いな。ここでふたりで泊まってもいいかな。俺はまだ、生徒会長なんだし。夕飯は、シェフを呼んだら運んできてくれる。

「せ、生徒会長……?」
「おいで。一緒に横になろう」

横になったまま夏向のほうへ手を伸ばす。
すると夏向はへにゃりと笑い、その手を掴んだ。
ぐいっと引っ張ると、ほぼ俺に体重を預けるように夏向は倒れた。

「わ、ごめん。重くない?」
「重くない。君の兄さんより愛すって、そんなの俺には簡単な事だから」
「僕……捨てられるのが嫌だったんだ。あんたも、いつか僕を捨てるかもって思って、焦ってさ。今でも兄様に愛されたいという想いは……ある。あるんだ。あんたの手を離して、兄様の手を取れば、兄様は幼い頃のように僕を愛してくれるかもしれない。その期待は今でもせずには居られない」
「……」
「でも、あんたからの愛が大きすぎて、やっぱりここは居心地がいい」
「夏向を愛する気持ちは誰にも負けない。世界中の誰よりも。追風さんにもね」

俺が彼の名前を出すと、夏向はふと『追風……か』と呟いた。

「夏向?」
「やっぱり実感が湧かないや。僕が追風に愛されていたのも、彼が死んだのも」
「俺は、その場にいながら助けてあげられなかった。ごめん。見殺しにしたのは本当なんだ。そして俺が警察に疑われたのも本当で……。目の前で、彼が殺されたのに俺は自分を守るのに精一杯だった」

αとして、これ程不甲斐ないことは無い。もし、殺されたのが追風さんではなくて、夏向だったら?
俺はそのまま殺される一瞬を、ただ見ていたのだろうか。これから先、起こりうる未来。何度も何度も、心の中で反芻する。
一瞬の判断の誤りが、今後の人生を左右するかもしれない。そこで俺は正しい選択をしなければいけない。

「漸く、教えてくれた。あのね、追風はきっと覚悟してたよ。それが僕たちが犯した罪の報いだから」
「罪?」
「僕もきっと報いを受ける時が来るかもね」

悟っているような……悲しい表情をした夏向の背中を俺はぽんぽんと優しく叩いて撫でた。

「そんな日は、来ない。俺が守るよ」

そもそも夏向が人を殺していたとしても、それは夏向が望んだことでは無い。
現代社会で立場の弱いΩが、生きることが出来る唯一の手段に縋ったまでなんだ。
貧しい暮らしから盗みを働く子供、戦場を駆け抜け敵を殺す戦士達……世界中には、そんな人達が沢山いる。けれども、実際には誰が悪いのだろうか。彼らに罪を押し付けた社会がそもそも間違っているのだろう。
俺はそう思う。

「報いを受けるのは、君に罪を強要した右代春都だと思う。俺は彼を許さない」
「……」
「君の実の兄にこんなことを言うなんて……酷い男だと思うかな?」
「思わない」
「良かった」

俺が夏向を呪縛から解き放つ為に……右代春都と戦う時が来る。
それに選ばれたのがこの学園というステージだった、というだけだ。リコール云々はそれを指し示している。
右代春都がこの俺の小さな国で戦うことを選んだ。ならば今俺が持っている『生徒会長』という地位が、夏向にとっても右代春都にとっても……勿論俺にとっても重要になってくる。選挙で決めるのだから何とも現代的で、民主的な戦争の仕方だろう。何をしかけてくるのかは分からないが。

「ねえ、生徒会長」
「なぁに?」
「僕と追風の出会いについて……聞いて欲しいんだ」

突然だったけれど。そう話を切り出す夏向はあまりにも真剣だったから、俺は静かに頷き夏向の話に耳を傾けた。
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