運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

文字の大きさ
88 / 110
14 標的を殺したい僕、運命を守りたい俺

モーゼ

しおりを挟む
(side夏向)
これは発情期の症状なのか?
だとしても、タイミングが悪すぎる。偶然、一ヶ月先だった発情期が今来た?
まさか。誤差はあれども、流石にそれは無い。
ならば。
震える口で何とか言葉にしてみんなに伝える。
早く、言い終わらなければ。

「噂に……惑わされないでください。この学園が、この学園のままでありたいと思うなら……どうか七世光希に、皆さんの清き一票をお願い致します」

言い終わった。拍手がどこか遠いところで聞こえてくる。僕は上手く言えた?伝わった?反応が知りたいのに。それどころじゃない。
僕は兄様にキスをされたことを思い出した。あの時、苦い『何か』が喉を通った。

「……は、うぅ。はぁ……」

呼吸がキツくなる。まともに立っていられなくなる。足がもつれて、その場でへたりこんだ。
僕のペニスは主張して、スラックスの中が窮屈で痛いぐらいだ。
服が擦れるだけでも興奮してしまう。
漸く、僕は兄様の思惑が分かってしまった。
兄様は僕に『促進剤』を飲ませるためにキスをしたのだ。

それは、飲んでから約三分ほどで効いてくる、『周期外の発情を促す薬』だ。ちょうど三分。偶然か、演説の時間と一緒だった。

何のために?それを僕は理解してしまったんだ。ポケットにある『それ』。兄様のフェロモン。そして、『仕事を成し遂げたら褒めてあげる』という言葉。

兄様の思惑通りなら、きっと光希はなりふり構わず僕を助けに来るだろう。
実の兄を、恐ろしく感じてしまう。どれだけ僕は兄様を求めたところで、兄様は僕のことなんか愛していないのだ。Ωだから。こうやって薬ひとつでぐずぐずになって……肉欲に溺れてしまう存在だから。

このままだと全校生徒の前で発情してしまう。
発情したら、噂通りだ。誘惑する、下劣なΩ。

生徒たちは僕を見てる。この場にはβだけでない、僅かながらαもいるだろうな。

「おい、あれ……あいつ」
「この匂い、まさか……」

ざわめきが聞こえてくる。みんなまだ突然の事で戸惑っているけれど、直に誰かがフェロモンに当てられて僕を襲おうとするだろう。

光希、助けて。僕を穿いて。その場でかっさらって。
思わず縋りそうになる。けれど。
光希。お願い、来ないで……!!来ちゃ駄目だ。お願い。今すぐ来て欲しい。違う、わかんない、違う。


「夏向!!」

声が聞こえて、肩が跳ねた。光希かな?って一瞬思ったけれど……真っ先に駆け寄ってくれたのは蓮叶だ。

「大丈夫か?安心しろ、俺はΩだからフェロモンにはあてられねぇ」
「れんちゃん……、助けて」

顔を覗き込まれる。袖を掴んで縋った。

「保健室か……それとも抑制剤?俺は持ってねぇんだ。くそ……。夏向は持ってるか?」

抑制剤、僕はいつもポケットに入れている。けれどもタイミングが悪いことに、僕は昨日から無くしてしまっている。首を振って無いことを伝えると、『分かった』と蓮叶は呟いた。

「今運ぶから。我慢しろよ」

それでも蓮叶は筋肉が生まれつき付きにくいΩだ。一人を運ぶのは難しいだろう。
肩に手をやって運ぼうとするけれど、よろけてしまう。その時、蓮叶が気付いて目を見開く。

「お前……これ」

蓮叶が、僕のポケットの中のものを発見したみたいだ。蓮叶はポケットから『それ』をだして僕から取り上げる。

「かえして」

僕はそれに手を伸ばす。折角兄様が僕のポケットに入れてくださったのに。それが無ければ僕は……。
仕事が、出来ない。

もう、駄目だ……抗えない。
更にぶわぁと自分のフェロモンが濃くなる。それと同時にみんなが、僕を欲情した目で見ているのが分かった。早速ひとりが壇上に上がってくる。

「おい。どけ」

蓮叶が突き放されて、僕は押し倒される。
知らない男子生徒、でも彼はきっとαなんだろう。
熱い、熱をどうにかして欲しい。僕を押し倒している彼なら発散してくれるかな。けれども、そうだ。遊んでいる暇なんて無い。そうすると僕は仕事が出来なくなる。

そんなことを考えていたら、僕を押し倒してる彼よりも、強くて甘いフェロモンを感じた。そのフェロモンは、比べものにならない。代替品では無い。発情した僕にとっていちばん欲しいものだ。ガチャガチャとベルトが外される音がする。僕は何となくそれを感じていたけれど……それどころでは無い。

「夏向!!」

甘い、果実の匂いがする。彼がここまでやってくる。強いαの威嚇のフェロモンが、僕の発情フェロモンを上回った。
その時……大海原がパッキリと割れた。モーゼが杖を振り上げたみたいな道。光希と僕を繋ぐ、最短距離で真っ直な道ができあがる。
みんな光希のフェロモンに恐れ慄いた。
僕の上で服を脱がそうとした男子生徒もだ。戦慄して、ガタガタと震えている。
でも僕は、そのフェロモンをちっとも怖いとは思わない。

運命が体を待ちわびる。誰よりも欲しい。
何よりも待ってた。欠けたパズルピースが埋まるように僕は心から歓喜した。

その一方で。もう欠片しか残ってない理性は叫ぶ。
お願い、今は……来ちゃ駄目なんだ。
けれどもその叫びは届かない。
泡沫のように、弾けてその理性も消えてしまった。

程なくして体育館に大きな音が響き渡った。

それは、平和な学園に不釣り合いな銃声音だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...