運命を殺したい僕、運命を幸せにしたい俺

かりん

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最終章 運命と幸せになりたい僕たち

エピローグ

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(side壮一郎)
ご主人様は俺の知ってる限り、最強のαだ。
誰にも、その地位は揺るがせないはず。
最強のαで、そして俺はそんなαに付き従うβ。
汚れていると思ってた自分の手を、『汚れてない』という自信を持たせてくれた人。

見つけてくれて、気に入ってくれて、傍に置いておいてくれる。
それはきっと俺がβだからだ。βはαに逆らえない。付き従い、時には畏怖をし、時には崇拝する。自分の人生さえも左右されてしまう。
俺じゃあ下克上は出来ない。
それがご主人様には安心だったんだろう。

俺はご主人様を、右代春都を崇拝した。
『君は自分を汚さなくていい』って言ってくれたのに……俺はご主人様の為なら『汚れてもいい』って思うのは矛盾してるんだろうか。

俺にはユイみたいな仕事をさせない、俺に優しいご主人様が好きなのも、やっぱり矛盾なんだろうか。

テスト最終日。言い換えると、演説の日であって決戦の日。
七世光希を見送った俺は、ご主人様からの電話に出る。切羽詰まった様子で、『助けて』との声が聞こえた。
異常事態を感じ、慌てて俺はそちらに向かう。
人気の少ない、渡り廊下だった。
俺はサボりだけれど、まあ……全校生徒が体育館じゃあ、人気が無いのは当たり前だ。

あんなに強い神様みたいなご主人様は、ユイが殺しているはずの七世光希に追いやられていた。

「さっき誰に電話してたんだ……壮一郎?」
「僕以外、そうやって呼んで欲しくない」

七世光希は『はぁ』と溜息を付く。そんなこと、言ってる場合じゃ無いだろうに。
いつも七世光希とご主人様は、ギリギリでお互い威嚇し合っていた。けれども、今はそんな様子は一切無かった。
七世光希にご主人様が組み敷かれている。両手を後ろに拘束され、動けないようにされていた。

なんだこれ、……夢?さっきまで俺たちは勝利を確信したはずなのに。ご主人様がこの学園でも人の上に立つαになるのだと信じていたのに。
あまりにも現実感が無くて、思考回路が追いつかない。そんな時。

「あ、壮一郎!!」

俺とご主人様の目が合った。

「僕の命令だよ。彼を、殺して」
「え?」

なんだ、えっと。俺は……。
なんの命令?いつもご主人様は冗談を言う。
はは、なぁんだ。そうっすよね?
なんでそんなに必死に叫んで俺に、『殺す』なんてことを命令するんだろう。当初の予定ではそんなの無いっすよ。

「ねぇお願い。壮一郎。君なら僕の命令を聞いてくれるよね?ねぇ」

頭がずっしりと重く感じる。今にも泣きそうな、悲痛な叫びは……これが冗談ではない事を実感した。
俺はあまりにも現実を受け止めきれず、立ち尽くした。そして七世光希も俺の存在に気づき、振り返る。

「壮一郎……君も降参した方がいい。そろそろ警察が来る」

もしかして……。
これって、俺たちの敗北?

一気に理解してしまった現実に、身体が震えてしまう。恐怖なんだろうか。足も震える。
腰を抜かしそうだ。

なんだそれ、なんだよそれ。見たくなかったぜ。

見たくなかった。無様なご主人様なんて俺は見たくなかった。

夢みたいな現実に対して抱いた感想は、『幻滅』だった。

必死に俺に手を汚す事を求めるご主人様なんて……そんなのは俺が求めたご主人様では無い。

顔を赤くして、涙を流して、地面を這いつくばって……そんなのは最強であるはずのご主人様であるはずが無いんだ。
一気に色んなものが覚めてしまって、思考がクリアになる。
いや、違う。思考がごっちゃになる。
まあ、どっちでもいいか。

「ねぇ、そういちろぅ……」
「ええ、そうですね。殺します」

俺はいつも携帯しているナイフを取り出した。
七世光希が、いきなり武器を取りだして近づく俺を警戒する。しかし、まあ彼に用は無い。良い奴だったけれど……もう会うことはないだろう。
それは、崇拝していたご主人様も同じ。

「さようなら……俺の最強のご主人様」

最後の別れは笑いましょうか。
矛盾だらけのβで、結末は最悪だったけれど……俺の人生、そう悪くは無かったよ。
ご主人様も同じだったら嬉しいけれど。
結末じゃなくて、そこに辿り着くまでの人生が幸せだったら嬉しいけれど。

急所の狙い方位は知ってる。どこを狙えば人が死ぬかを、何故かごみ溜めみたいな場所で過ごした幼少期に教えられた。
あんまりにも一瞬で、七世光希は俺を止める暇さえ無かった。
きっと、俺の行動に予測出来なかった、という理由も有るのだろう。

血の赤が宙を舞って、ご主人様は息絶える。
プツンと、ご主人様のフェロモンが消えた。慣れた俺ですら、それはよく感じる。瞬間、七世光希のフェロモンを強く感じたけれど……、俺が恐怖してしまわないようにフェロモンを抑えてくれた。

「なんで俺じゃあ無いのかな?」
「どっちにしろ、俺たちの人生が終わりなのは一緒だからっすよ」

足掻くのも、みっともないでしょう。
妙にすっきりした様子で答えると、『分からない』と首を捻る七世光希に俺は笑う。あんたはそれで、あんたらしいから……真っ直ぐ生きてくれればいい。

俺が警察に連行されたのは、それから三分後のことだ。
連行される直前、俺は七世光希に話しかける。

「生徒会長、精々ユイには内緒にしてくださいっす」
「……まあ、精進するよ」

七世光希は苦笑した。顔には出さないけれど……彼も右代春都が死んだことに驚いているんだろう。
でも、別に忘れてもいいぜ。
あんたは、歪みまくった不協和音みたいな俺たちと違うんだから、精々人生の最後まで幸せになればいい。

なあ、ユイ。知ってるか?
この世には、完璧なハッピーエンドは存在しない。何故なら、俺たちみたいな主旋律に混ざれない、雑音が存在するからだ。


おしまい。
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