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2部 光希と夏向のそれから
解決
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(side夏向)
僕からのキスは滅多にない。普段は光希からのことが多い。
僕はたかがこんなことで、光希が正気に戻るとは思わないけれど……こんな卑怯な方法しか思いつかなかった。
ぬるっとした舌の感触と、光希のフェロモンを楽しむ。こうして……くっついてキスをしているだけでも光希に対する愛情が溢れてくる。
ああ、やっぱり好きだなぁ。愛おしくて、離れたくない。
想像よりも効果てきめんだったようで、光希は僕の瞳を至近距離で覗き込んだ。
「光希、僕を信じて……」
光希が僕の涙を優しく拭う。それだけで心は満たされるように嬉しかった。
「僕の話を聞いて、信頼して。対等でいたいと言った僕は……光希以外、靡くつもりも無いから」
「夏向……ごめん」
光希の腕を、指でとんとんと優しく叩いて合図すると、光希は僕を下ろしてくれた。
僕はさっきまでその様子を黙って見ていた海上先輩と向き合う。
随分と見苦しいところを見せてしまったけれど……そもそも元凶が彼なんだから、少しはこの展開も想定内だろう。
「先輩、僕はその先輩との取り引きを受けます。きっと僕にとってこれ以上の好条件は無い」
「そうしてくれると有難いけど……なんか、ごめんなぁ。七世と番さんがこじれたのは俺のせいや。あんまりにも七世が執着するから……気になってん。本気の七世のフェロモンを対峙してみたくなったんや」
『まあ、結果はご覧の通りやけど』という海上先輩は光希のフェロモンのせいで震えていた。青白い顔で眉間に皺を寄せている。どうやら相当強がっていたようだ。
「運命って凄いな。こんな威嚇のフェロモンも優しく包み込んでしまえるなんて。研究しがいが有るわ……。俺もできる限り協力するから、幸せになり」
そして、海上先輩は僕を下ろしてくれてからずっと黙ってくれていた光希の方をむく。
「七世……よう出来た番さんや。幸せにしぃや」
「当然。俺は夏向を離すつもりは無いよ。でも……頭が冷えた。騙したのは許せないが、そもそも最初は俺が会わせないと言ったせいだ。だから君は強硬手段に出た。そうだろう?……まあ、これから夏向と友達になるくらいは許してやってもいい」
ぐいっと、光希に肩を抱かれる。独占欲は光希から完全に抜けてはいないけれど……けれどもさっきみたいな怖さは無かった。
更に続けて光希は口を開く。
「それから……取り引きって何かな?」
そういえば、光希は知らないんだ。僕は精一杯光希に取り引きについて説明した。学費と引替えに研究に協力すること。そして研究に協力するにあたって具体的に何をするかを。
「なるほど……。確かに魅力的な話だ。どうせそのアプリ、発情期の予測をしてくれる専用アプリなんだろ?それを寧ろ使わせてくれるならこっちから頭を下げたいくらいだ。夏向の健康管理にはうってつけのアプリだからね」
そうは言う光希だけれど、納得いかない顔をしている。
「あかんか?確かに七世にも協力してもらいたいけど……」
「協力自体はいい。けれど研究発表として……どこまで夏向を暴くつもりなんだ?プライバシーが侵害されるようじゃ……俺は首を縦に振れない」
「そこはおいおい相談しようや。まだなんにも成果が出てないんやし。まあでも……個人が特定出来るようなことは公表しないから安心してな」
「そうか……分かった。夏向もいいみたいだし、君の研究に俺も協力しよう」
「決まりやな」
光希が手を差し出して、海上先輩はそれを握り返した。
色々あったけれど……それでも二人の仲は壊れること無く終わったみたいだ。それが無性に嬉しくて、僕は笑った。
「ああ、そう。番さん」
「なんですか?」
「俺のことは下の名前でええで。紅葉って言うねん。月ヶ瀬のことも下の名前で呼んでるんやろ?じゃあ、俺も呼んで」
彼は光希と握手したばかりの手を、僕にも差し出す。それを僕は受け取って握手をした。光希は少し顔を歪ませたけれど……流石に何も言ってこなかった。
「じゃあ、僕のことも『番さん』はやめてください。紅葉先輩」
「せやな。結野……でええか?」
「はい。これからよろしくお願いします」
「これから俺と結野は『友達』やからな」
こうして、僕は思わぬ形で学費問題が解決した。
それと同時に紅葉先輩という、新しい友達も増えた。
少しだけ光希は僕のことを信頼してくれたし。
だから少しずつ僕と光希の仲は進歩していると思いたい。
僕も光希も、お互い初めてで唯一の『運命』で『番』だ。迷うことも間違えることもあるけれど、きっと絆が切れていない限り……僕達は進めるんだ。
僕達の正解をこれから見つけていきたい。
それが、きっとふたりで幸せになるということだろう。
僕からのキスは滅多にない。普段は光希からのことが多い。
僕はたかがこんなことで、光希が正気に戻るとは思わないけれど……こんな卑怯な方法しか思いつかなかった。
ぬるっとした舌の感触と、光希のフェロモンを楽しむ。こうして……くっついてキスをしているだけでも光希に対する愛情が溢れてくる。
ああ、やっぱり好きだなぁ。愛おしくて、離れたくない。
想像よりも効果てきめんだったようで、光希は僕の瞳を至近距離で覗き込んだ。
「光希、僕を信じて……」
光希が僕の涙を優しく拭う。それだけで心は満たされるように嬉しかった。
「僕の話を聞いて、信頼して。対等でいたいと言った僕は……光希以外、靡くつもりも無いから」
「夏向……ごめん」
光希の腕を、指でとんとんと優しく叩いて合図すると、光希は僕を下ろしてくれた。
僕はさっきまでその様子を黙って見ていた海上先輩と向き合う。
随分と見苦しいところを見せてしまったけれど……そもそも元凶が彼なんだから、少しはこの展開も想定内だろう。
「先輩、僕はその先輩との取り引きを受けます。きっと僕にとってこれ以上の好条件は無い」
「そうしてくれると有難いけど……なんか、ごめんなぁ。七世と番さんがこじれたのは俺のせいや。あんまりにも七世が執着するから……気になってん。本気の七世のフェロモンを対峙してみたくなったんや」
『まあ、結果はご覧の通りやけど』という海上先輩は光希のフェロモンのせいで震えていた。青白い顔で眉間に皺を寄せている。どうやら相当強がっていたようだ。
「運命って凄いな。こんな威嚇のフェロモンも優しく包み込んでしまえるなんて。研究しがいが有るわ……。俺もできる限り協力するから、幸せになり」
そして、海上先輩は僕を下ろしてくれてからずっと黙ってくれていた光希の方をむく。
「七世……よう出来た番さんや。幸せにしぃや」
「当然。俺は夏向を離すつもりは無いよ。でも……頭が冷えた。騙したのは許せないが、そもそも最初は俺が会わせないと言ったせいだ。だから君は強硬手段に出た。そうだろう?……まあ、これから夏向と友達になるくらいは許してやってもいい」
ぐいっと、光希に肩を抱かれる。独占欲は光希から完全に抜けてはいないけれど……けれどもさっきみたいな怖さは無かった。
更に続けて光希は口を開く。
「それから……取り引きって何かな?」
そういえば、光希は知らないんだ。僕は精一杯光希に取り引きについて説明した。学費と引替えに研究に協力すること。そして研究に協力するにあたって具体的に何をするかを。
「なるほど……。確かに魅力的な話だ。どうせそのアプリ、発情期の予測をしてくれる専用アプリなんだろ?それを寧ろ使わせてくれるならこっちから頭を下げたいくらいだ。夏向の健康管理にはうってつけのアプリだからね」
そうは言う光希だけれど、納得いかない顔をしている。
「あかんか?確かに七世にも協力してもらいたいけど……」
「協力自体はいい。けれど研究発表として……どこまで夏向を暴くつもりなんだ?プライバシーが侵害されるようじゃ……俺は首を縦に振れない」
「そこはおいおい相談しようや。まだなんにも成果が出てないんやし。まあでも……個人が特定出来るようなことは公表しないから安心してな」
「そうか……分かった。夏向もいいみたいだし、君の研究に俺も協力しよう」
「決まりやな」
光希が手を差し出して、海上先輩はそれを握り返した。
色々あったけれど……それでも二人の仲は壊れること無く終わったみたいだ。それが無性に嬉しくて、僕は笑った。
「ああ、そう。番さん」
「なんですか?」
「俺のことは下の名前でええで。紅葉って言うねん。月ヶ瀬のことも下の名前で呼んでるんやろ?じゃあ、俺も呼んで」
彼は光希と握手したばかりの手を、僕にも差し出す。それを僕は受け取って握手をした。光希は少し顔を歪ませたけれど……流石に何も言ってこなかった。
「じゃあ、僕のことも『番さん』はやめてください。紅葉先輩」
「せやな。結野……でええか?」
「はい。これからよろしくお願いします」
「これから俺と結野は『友達』やからな」
こうして、僕は思わぬ形で学費問題が解決した。
それと同時に紅葉先輩という、新しい友達も増えた。
少しだけ光希は僕のことを信頼してくれたし。
だから少しずつ僕と光希の仲は進歩していると思いたい。
僕も光希も、お互い初めてで唯一の『運命』で『番』だ。迷うことも間違えることもあるけれど、きっと絆が切れていない限り……僕達は進めるんだ。
僕達の正解をこれから見つけていきたい。
それが、きっとふたりで幸せになるということだろう。
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