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甘美 2
しおりを挟む「社会見学、車工場の後の行き先に迷ってるんですけど」
九条くんは机上に資料を広げた。彼の席の近くに移動する。
「空港、ジュースの工場、酒蔵、味噌…。どれも捨て難いね。多分どこ行っても楽しいし食べ物系はテンション上がるだろうけど。でも」
言葉を続けようとした辺りで九条くんが真横に立った。
「環境学習か、社会科だけで行くかで迷ってて」
「うーん、目的によるんじゃないかなあ」
ん?何だかおでこの辺りがほんのり温かいような…?思えば私の右腕に九条くんの服の感触がある。
「候補を2箇所に絞ってみて、それから稲垣先生に相談、かなあ」
「そうですね。ありがとうございます」
九条くんの顔は確認出来ない。顔を上げたら視線がぶつかりそうな気がして、ぶつかったとしてどうしたらいいのかが分からず。そのまま九条くんの表情は確認しないで自席に戻った。
「でも早いね。野外学習はもう今週だけど、社会見学ももう予約しないとだもんね」
自席に戻って九条くんに向かって微笑む。さっきの距離感は、きっと気のせいだ。だってここは職員室。人目のあるところで身体の一部分が密着するなんて、ただの偶然。気にしちゃいけない。
「そうなんですよ。終わっても無いのに、息つく間もないっていうか」
ほら、九条くんも気にしている素振りは無いじゃない。きっと意図せず腕が触れただけで、話に集中していたから気付かずに顔まで近付いていた。それだけだ。仕事モードに戻りやすい性格で良かった。
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