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cross 8

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「おばさん、お元気ですか?」
お互いの家が近かった頃。高校生になっても梨愛の家をよく訪ねては部屋に入り浸っていた。遊びに行くといつもおばさん…梨愛と朔さんのお母さんは麦茶とおやつを出してくれた。小さな頃も、高校生になっても、それは変わらなかった。

「俺も梨愛も家を出たからたまにしか会わないけど。まあ元気だよ。シワが増えたぐらいじゃないか」
「シワって…これもまた報告案件ですかね」
くすくす笑う私に「ちょ、それは待って」と彼は慌てた。


結局お酒は飲まず。朔さんは私のアパートまで車で送ってくれた。

「俺の家に連れて帰れなくて残念だよ」
「またそんなこと言う」
返答に困って笑って言うと不意に真顔になった。


「俺、結構真剣なんだけど?」


冗談なのか、真剣なのか、その表情だけでは私にはわからない。梨愛のお兄さんだし、変なことをする人ではないのはわかっているのだけど。

「──じゃあ、今度はお酒飲みます?2人とも」
「2人とも?」
「1人で酔っ払うのは寂しいんですよ」
「確かに。酔っ払うのは2人での方が楽しいな。また誘うよ」
「はい。送ってくれてありがとうございます」
「うん。またね」

柔らかく笑ったまま、彼は動こうとしない。どうしたの?物足りないの?とでも訊かれているような気がした。



会釈をして部屋の中に入る。ドアを閉めた瞬間、急に冷静になる。



朔さん、英の彼氏…彼氏的な人の事を、調べてるの…?そのこと、英に言うべきなの?英は彼に何かがあったことは知っているのだろうか…?
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