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硝子 7

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数分経って、匠が部屋に戻った。盗み見た表情は張り詰めていた。彼がこちらを向くのと同時に、咄嗟に布団に顔を埋めた。

「──澄麗?」
寝たふりをするべきか大人しく返事をするか。決めかねていると髪を触れられた。

反射的に顔を上げた。
「ごめん、起こしちゃったな」
「匠、大丈夫?」
「え?」
「顔が……しんどそう」
「……っ」
素早く布団の中に戻った匠は、いつもより強く私を抱きしめる。しんどい。すっごい、しんどいと耳元で絞り出すように彼は言葉を紡いだ。

ほとんど聞こえてはいたけど。匠からは何も言わない。聞いた方がいいのか、敢えて聞かない方がいいのか。でも吐き出すことも大事、だと思うんだけど。

匠の言葉をずっと待っていた。でも耳元に聞こえる彼の寝息を聞いたとき、なんだか気が抜けた。匠の寝息に誘われるように、私も眠りについた。



夏休み中に久しぶりに職員が集まる、貴重な日。今日は午前中から職員会議だった。
「んん……」
自席に座ったまま大きく伸びをした。ぼんやりと首を回したらコキ、と音がした。くつくつと笑いを堪える匠と目が合った。
「何笑ってんの」
「笑ってません」
「いや笑ったよね」
「笑ってません」
笑いを我慢しきれずに頬が緩みまくってる彼の表情からは説得力が微塵も感じられない。
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