本日は晴天ナリ。

栗木 妙

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【後編】/2

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「――つーワケで、これは返してきてください!」
 言うや、俺は琥珀の耳飾りの入った小箱を、その眼前に突き付けた。――ファランドルフ副団長へ。
「つか、なんでそもそもリュシェルフィーダがパシリにされてくるワケだよ!?」
 またアンタ何か企んでんの!? と、がなり立てた俺を呆れたように見やり、執務机越しに副団長が「失礼な」と軽く鼻を鳴らした。
「私は、公にしたくはないという、おまえの意向をお伝えしただけだ。だから、あちらも気を遣って、私を通すよりは同僚に託す方が目立たないだろうと、それでリュシェルフィーダを通したのではないのか?」
「気の遣い方が、根本的に間違ってるっっ……!」
 これだから、己の立場も顧みず平民と駆け落ちするような無計画男は……頭のネジ、どっか緩んでブッ飛んでんじゃねーか!? そんな脳内お花畑野郎なんかを、よりにもよって当主なんかに据えておいて大丈夫なのかシュバルティエ家!! まあ俺が心配してやるこっちゃ無ェけどなっ!!
「まあ、もともとあの御仁に、おまえのことを隠しておきたい意志は無かったようだったしな。むしろ、誰彼かまわず自慢してやりたいくらいの勢いだった、それくらい喜んでいた」
 あくまでも他人事、といった風に、何事でもなく副団長は言う。――ホント他人事だと思いやがって恥ずかしいこと言うんじゃねえ……!
「この琥珀も、父親としておまえの無事を祈っているぞという、心を込めた贈り物ではないのか? いいじゃないか、別に返さなくても。せっかくだから付けてやったらどうだ」
「馬鹿言うな!」
 思わず相手が上官だと言うことも忘れて一喝してしまった。
「んなことしたら、シュバルティエの名札付けて歩いてるようなモンじゃねーか! 頼むからカンベンしてくれ!」
 だいたい耳に穴なんて開いてねえし! と、言いながらぶんっと投げ付けてやったその箱を、しかし副団長は難なく受け止めてくださりやがる。
 そして、いけしゃーしゃーと、こんなことまで言いやがった。
「いい機会だ、穴くらい開ければいい。なんなら私が開けてやるぞ」
「要らんお世話だ!」
「セルマに琥珀は似合うと思うのだが……」
「当たり前だ! この美しい俺様に似合わない宝石なぞ無いわ!」
「なら、ゼヒ開けようじゃないか」
「開けねーよっっ!!」
 と言ってる傍から、人の話も聞かんとこの副団長は、執務室の隣りに在る副官や小姓たちの詰めている続き部屋に声をかけて、「氷を持ってきてくれ」などと頼んでいる。――て、開ける気マンマンじゃねーか!
「ちょうど夏至祭の夜会もあるしな。耳の穴の一つや二つ、開いていた方が都合がいいだろう」
「は……? なんだそれ……?」
「連れていくのはリュシェルフィーダだけでいいかとも思っていたが……セルマ、おまえも参加しろ」
「――はア!?」
「それを見越したからこそ、シュバルティエ公爵も、この時期に耳飾りなぞ贈ってきたのだろうし。まあ、滅多に出来ない親孝行だと思って、顔くらい見せてやれ」
「なんっだ、それっっ……!!」
 思いもよらない命令に、もはや呆れ果てて言葉が出ない。
 ――夏至祭の夜会に参加……ひょっとして、それは、つまり……、
 顔を引き攣らせて絶句した俺へ、副団長がニヤリと人の悪い笑みを向けてくる。
「これでおまえもコチラ側の仲間入りだな。――楽しみだな、おまえのお披露目」
 ――やっぱりかー!!





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