ボッチによるクラスの姫討伐作戦

イカタコ

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コミュ力おばけのギャル

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 転校して早々に五十鈴さんに協力することになってから数日、俺は相変わらず豊田さんと五十鈴さんの板挟みに遭う学校生活を送っていた。
 いまのところ、五十鈴さんに協力するとはいっても学校で行動を共にする程度で、豊田さんも俺たちの行動に慣れてきているように思えた。
 「本田くん、おはよ」
 こうして豊田さんに毎日挨拶してもらえるわけだが、それも五十鈴さんに協力しているためだと思うと、ありがたいのかもしれない。
 「豊田さん、おはよう」
 「ほんだっち、おはー」
 「ほ、ほんだっち?!」
 突然現れたギャルの第一声により、俺は思わず声が裏返るくらいに驚いた。

 「ちょっとリル。本田くんに変なあだ名つけないでよー」
 「えー? べつにフツーじゃない? ほんだっち」
 「本田くん、どう思う?」
 「たまごっちの不人気キャラで居そう」
 「なにそれ。ほんだっちウケる」
 棒読みで全くウケてなさそうなリアクションじゃないか...。
 「ごめん。ていうか、えーっと...」
 「リルのこと知らないとかでしょ?」
 「ご名答です...」
 「市之宮毬瑠だよー。リルって呼んでほしいかなー」
 「り、リル...さん」
 「呼び捨てしろし」
 えっ...急に怖...。
 「り、リル...」
 「おけー! てか、ほんだっちがリルのこと名前で呼ぶなら、リルも"たーくん"って呼ぼっかなー」
 「たっ、たーくん?!」
 なにその恋人みたいな呼び方!
 そもそも、名前で呼ぶように言ってきたのはこの人では?
 ていうかこの人、数分で俺の呼び方変えてきやがった...。
 ツッコミどころが多い。
 「たーくん! よろしくね!」
 「よ、よろしく...」
 なんだこのギャル...くそかわいい!
 「リル相変わらずコミュ力高すぎ。本田くん圧倒されてるじゃん」
 「えー? そうかな? ヒメだってたーくんと仲良く話してんじゃん」
 「私は本田くんを圧倒するような絡み方しないですー。ていうか、リルから男子に絡むのめずらしくない?」
 ついこないだ、貴方に問い詰められましたけどね...。
 「そう? なんかー、ヒメがたーくんとなかよくしてるの見てたら気になった的な感じー」
 「リル、本田くんのこと狙ってるの?」
 ええっ?! マジで?
 こんな可愛いギャルに狙われたら、俺即落ちしそう。
 「狙ってるとかじゃないしー。そんなこと言ったら、ヒメだってたーくんのこと狙ってるんじゃないのー?」
 俺、もしかして転校早々にモテてる?
 朝からこんな可愛い女子2人と話せるなんて、すでに今日は良い日でしかない。
 「狙ってるとかじゃなくて、私は本田くんが転校してきたばかりで大変だろうから、様子を見てるんですー」
 豊田さん、優しいなあ。
 と思いつつ、五十鈴さんが聞いたらとんでもない毒を吐きそうでこわい。
 「本田、おはよう」
 心の中で噂してたら、ご本人登場。
 「お、おはよう...」
 そういや、同じ場に豊田さんと五十鈴さんが揃うって初めてなのでは...修羅の場ですな...。
 「またあとでね」
 豊田さんたちには目もくれず、五十鈴さんは俺にだけ手を振り自分の席に去って行った。
 なにもなかったけど、こえぇ...。
 「そういえば、たーくんって五十鈴さんと仲良いよねー。付き合ってるの?」
 ずいぶんとぶっちゃけた質問だな...。
 「付き合ってないよ」
 「でもさー、なんであの五十鈴さんが本田くんに絡んでるのか謎だよね。リルもそう思わない?」
 "あの"にどういう意味が含まれてるのかは、転校してきた俺には分からない...。
 「思う思う。わかりみ深すぎてハゲそうだもん」
 イマドキのギャルは、ハゲるくらいわかりみ深くなるのか。
 「ていうか、リルそろそろ自分の席戻ったほうがよくない?」
 「あ、ほんとだー。ヒメ、たーくん、じゃあねー」
 ニコニコ笑顔でギャルは自分の席に戻って行った。
 俺、あの人と今知り合ったばかりなのか...コミュ力おばけだな。
 「さっきも言ったけど、リルが男子に絡むの珍しいんだよね。しかも、あんなに積極的な感じで...どうしたんだろ...」
 「そうなんだ...」
 まさか...五十鈴さん同様に、俺はリルに利用されてしまうのか...?
 今日は良い日だと思ったつかの間、今後がさらに不安になる朝となった。

    ◇    ◇    ◇

 「豊田と市之宮と仲良さそうにしてたわね。どういうつもり?」
 昼休みになり、五十鈴さんに中庭へ呼び出されて昼食を共にし始めたところで、さっそく本題を切り出された。
 「どういうつもりもなにも、向こうから話しかけられただけだが?」
 「でしょうね。アイツ、豊田と手組んで本田を引き込もうとしてるのかしら」
 「どうなんだろうね。豊田さんと仲良いみたいだけど」
 「あの2人にはボロを出さないように。でないと、アタシの作戦が台無しになっちゃうから」
 「き、気をつけます...」
 クラスで女子との関わりがあっても、純粋に俺に好意を持って来てる女子が1人もいないって悲しすぎやしませんか?
 女子との関わりがあるだけマシと思うしかない...。
 「このあいだ近くに居た奴らが話してたけど、アタシたち付き合ってるんじゃないかって噂されてたわ。作戦通りね」
 「俺たちが付き合ってると思われるメリットってなに?」
 どうやら五十鈴さんは俺には思いつかないような発想があるようなので、教えてもらおう。
 「クラスでボッチのアタシが転校生の本田と付き合ったと思われるのは、クラスの奴らにとって気になる存在になるからってところかしら。クラス全員を味方につけたい豊田にとって、本田がアタシと仲良くするのは不都合だし」
 「そのわりには、俺いまだに五十鈴さんと豊田さんくらいにしか話しかけられないんだけど...」
 「それは、豊田が本田と話ができるように、アイツが他の奴らに指示してるんだと思うわ。本田とかかわらないようにって」
 「なにそれ俺かわいそう。すでにハブかれてるようなもんじゃん...」
 「豊田はそういう奴だからね。自分の都合の良い状況になるように、相手にあることないこと吹き込む女だから」
 ホント、五十鈴さんの手伝いなんかしてなかったら、豊田さんに目付けられなかったんだろうなあ...。
 「平和的解決を祈ります」
 「それは豊田次第ね。アタシは、クラスの頂点に立つためなら譲る気持ちなんてないから」
 「思ったんだけど、クラスの頂点になってどうするの?」
 いまさらながら、聞いておく。
 目的次第では、平和的解決が望めるかもしれないからな。
 「アタシは、豊田みたいな相手の意見を尊重しない人間が嫌いなのよ。クラスの奴らは、豊田の言いなりになって誰も自分の意見を持たなくなってる。だから、アタシがクラスで上に立って、みんなが自分の考えを持って行動できるようにしたいの」
 えぇ...なにそれ...。
 そんなこと言われたら、五十鈴さんに協力したくなっちゃうじゃん。
 「分かった。教えてくれてありがとう」
 「本田にはまだ自分の意思があると思う。だから、えっちなイラスト大好きなオタクってことをバラされたくないのを抜きにしても協力してくれると助かる」
 「最初は脅されて協力することにしたけど、五十鈴さんの話を聞いて自己的な理由だけじゃないんだなって感じたよ。だから、協力できればと思う」
 「ありがとう。感謝するわ」
 なんだか、五十鈴さんの意外な一面を見せられた気がする。
 そして、五十鈴さんの思惑に巻き込まれたことを悪く思わなくなるようなきっかけの昼休みとなった。

    ◇    ◇    ◇

 「たーくん! よかったら今日これからマックいかない?」
 放課後を迎えて、コミュ強女子がお誘いをしてきた。
 「どういう風の吹き回しですか?」
 「なにその言い方ひどくなーい? リルと放課後マック行きたくないわけ?」
 あざとく頬を膨らませてムスッとするリル。五十鈴さんが俺にこんなことしてきたら、間違いなく卒倒すると思う。
 「行きたくないわけじゃないけど...」
 「じゃあ決まりねー。行こっか」
 俺、これからなにかに勧誘されるとかじゃないよね? お金請求されたりしないよね? こえぇ...。
 不安になりながらも、大人しくリルの言うことを聞くことにした。

 「リル...俺たち、めっちゃ見られてない?」
 マックに入ったものの、同じ学校の生徒たちがいて、誰もが俺らのことを見てはヒソヒソ話をしていた。
 「そう? 気にならないけどー」
 「もしかしてリルさんって、人気者だったりします?」
 「人気者じゃないと思うけど? あ、でもリルね、コスと配信やってるんだー」
 「ええ?! そうなの?」
 思わず大声で驚いてしまった。
 特に、オタクとして"コス"というワードに反応してしまった。
 「お、良いリアクション! リルのことキョーミ持ってくれた?」
 「あ、えーっと...はい...」
 「うれしー! たーくんリルのことキョーミないんだろうなーって思ってたけど、まだ諦める必要はなさそうだね!」
 「ていうかさ...なんで俺に絡むの?」
 リルがコスしてるのは気になったものの、それ以上に気になってることを聞く。
 「なんでってそれは...たーくんにキョーミあるからでしかないと思うけど?」
 「なぜ俺に興味を? リルなら、いくらでも人気あるでしょうに」
 「それってつまり、リルのこと可愛いって思ってるってこと?」
 俺の質問は逸らされたのとともに、リルは目を輝かせて聞いてきた。
 「ま、まあ...そうなりますね」
 「やば! 超うれしいんだけど!」
 「うれしいのは分かった! で、なんで俺に興味を持ったの?」
 この子のペースに合わせると脱線しまくりそうなので、話を戻させてもらう。
 「なんでって、ヒメと五十鈴さんと仲良いじゃん? そしたら気になった」
 「すげーあっさりした理由...」
 この子、かなり軽いノリの子なのかな?
 初めて知り合った日に名前呼びで、しかもこうしてマックに誘ってるんだから、相当軽いノリなんだろうなあ。
 「だって、ヒメと五十鈴さんだよ? たーくん知らないだろうけど、あの2人が自分から男子に話しかけるって相当レアだからね? だから、たーくんはけっこう魅力ある男子なのかなーって思った」
 「な、なるほど...?」
 容姿とか、そういう理由ではないのね...。
 そして、俺はあの2人の因縁に巻き込まれてるだけです...。
 「たーくんって、五十鈴さんと付き合ってるわけじゃないよね?」
 それ、朝も聞いてきた気が...。
 「朝も言ったけど、付き合ってないよ」
 「よかったー。クラスで話題になってるんだよ? 2人は付き合ってるのかって」
 五十鈴さんが言ってたことは本当だったんだな...。クラスの人たちは下世話なもので、まるで芸能人のスキャンダルを喜ぶオバチャンのようだ。
 「まさか。五十鈴さんは、転校してきたばかりの俺に仲良くしてくれてる心優しい人ってだけだよ」
 と、返答に困った時にはこう答えるよう五十鈴さんに言われてるので、そのまま答える。まるで、俺がかわいそうな奴みたいな印象操作に思えてくる...。
 「それが意外だけどね。五十鈴さんって誰とも仲良くしないから。それなのに、たーくんとは仲良くするんだなーって」
 「へえ、そうなんだ...」
 五十鈴さん...クラス内カースト上位を目指すなら、誰かしらとは話そうよ...。
 「ヒメがたーくんに絡んでるのも意外すぎて。ヒメって、話しかけた男子がみんな好きになっちゃって大変なことになったから、それ以来話しかけなくなったの」
 「なにその都市伝説みたいな話。もはや、芸能人になったほうがいいのでは。そして、大金持ち相手にそれやれば一生お金に困らない生活送れるのでは」
 「ヒメは芸能界とかキョーミないらしいよ? それと、ヒメはパパが会社経営してるからすでにお金困ってないと思うよ」
 「なにその最強スペック。劣ってるところなにもなくないか?」
 「そうだねー。たーくん、ヒメに気に入られてるみたいだから、そのまま嫌われないように気をつけたほうがいいよー」
 「ああ、うん...」
 そうしたいところだけど、俺は五十鈴さんの手伝いをしなきゃいけないんだ...。
 「たーくんって、趣味ある?」
 「え? 趣味ですか?」
 「えっちな可愛い女の子のイラストを見て癒されること」なんて言えるわけもなく...。
 「アニメかな」
 「まじ!? だからさっき、リルがコスしてる話した時に良い反応してたんだー! リルのコス見て!」
 リルはスマホを開くと、コス画像をいくつか見せてきた。
 「おお、すげえ。どれも可愛いね」
 「やば! 可愛いって言ってもらえた! たーくんのこと好きになっちゃう!」
 この人、俺と今日知り合ったばかりなのにすごいなあ...。もう俺のこと好きになっちゃうのか。
 「コスのことは、みんな知ってるの?」
 「知ってるよー。たまに配信とかコス見て褒めてくれるし」
 「これだけレベル高いと、クラスどころか学校全体で人気でしょ?」
 「人気かどうかは分からないけど、他のクラスとか違う学年の人も声かけてくれるねー。なかには告ってくる人いるのダルいけど」
 だ、ダルい...ですか...。告白した人には聞かせたくないセリフだな...。
 「ちなみに、彼氏はいるんですか?」
 「いないよー。たーくん付き合う?」
 「そういう冗談は、俺みたいな地味男には心臓に悪い」
 「ウケる! てか、そこで冗談として受け止めるあたり、たーくんはリルに告ってくるモブどもとは違うねー」
 この子...さっきからどんどん毒吐くようになってる気が...。
 「あっ...俺、そろそろ帰らなきゃ」
 五十鈴さんと話する約束してたの忘れてた...怒られる...。
 「ざんねん...今日はありがとねー! あ、そうだ! LINE交換しよ!」
 知り合った初日からハイペースで絡んでくる女の子との放課後を終えて、五十鈴さんの用件を済ませるため家に帰った。
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