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転職先での始まり。
初出社(午前編)
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「ふうた! 緊張しなくても大丈夫だからね。アタシがいるんだから」
俺が緊張している理由。それは、今日が新しい会社への入社日だからだ。
大学時代に同じ学科だった華澄に紹介してもらい入社した会社だが、これからどうなるのか、不安が募るばかりだ。
入社日である今日は、華澄と約束して会社まで一緒に来たのだ。
「これから、上手くやっていけるかな...」
「大丈夫、みんな優しいから! それに、風太の仕事はアタシたちのサポート役。それはつまり、難しい仕事ではないってことだから」
華澄が属している部署は、総務部。そこで俺は華澄たちのサポートというわけなのだが、どういうことをすればいいのやら...。
「総務部って、何でもやるイメージがあるんだけど...」
「まあ、そうだね。でも、これからは風太と一緒に仕事ができるから、毎日楽しくなりそう!」
俺に満面の笑みを向ける華澄。俺としても、華澄と一緒に働けるなら毎日が楽しみだ。
◇ ◇ ◇
「今日からお世話になります、相原風太と申します。これからご迷惑おかけしてしまうことがあるとは思いますが、日々成長していけるよう頑張って参りますので、よろしくお願いいたします」
初出社。事務所で皆に挨拶をし、朝礼後は配属された部署に集合する。
「さっきも紹介があったように、今日から私たちと一緒に働く仲間になった相原くんね。華澄ちゃんはすでに知ってるでしょうけど、何か分からないことがあればすぐに聞いて欲しいし、2人もちゃんと教えてあげてね」
部署で俺の紹介をしてくれたのは、面接でお世話になった如月美華さん。俺が配属された総務部の上長である。
面接の時から思っていたが、すごく美人で、俺とそんなに年が離れていなさそうな若さだ。
「はーい」
伸びのある返事をしたのは、俺よりも年下に見える女の子だった。第一印象は、小柄でクールな感じの可愛い子。
「華澄ちゃんのことは知ってるでしょうから、亜美ちゃん自己紹介してちょうだい」
「はーい。えーっと、常磐亜美です。趣味は、アニメとコスプレです。好きな食べ物は、シュークリームです。えーっと、あ、そうだ、誕生日は7月27日です。よろしくです」
「よ、よろしくお願いします」
「あ、敬語じゃなくていいですよ。ウチ、相原さんの1コ下なので」
「いやいや、そういうわけには。ぼくが年上でも、この会社では後輩なので」
「えー? まあいいや。そのうち敬語じゃなくなればそれでいいです」
なんだか、気だるそうな感じの子だな...。
「それじゃあ、挨拶も済んだことだし、相原くんは私と一緒に物置まで来てくれるかしら」
「分かりました」
「それじゃあ2人とも仕事しておいてね」
「はーい」
「はい、分かりました」
「それじゃあ相原くん、行こっか」
「はい」
美華さんと部屋を抜け出し、俺はさっそく与えられた仕事に向かった。
「相原くん、鍵閉めてもらっていい?」
如月さんの後についてきたまま部屋に入ると、そう促された。
「え? はい...」
ここ、どう見ても物置じゃないよな...。
ていうか、応接室?
「はあ~、つかれた」
如月さんは大きなため息をついてそう呟くと、ソファに座り脚を組み始めた。
なに、この状況...。
「相原くん、肩揉んでくれない?」
「え? 肩...ですか?」
「そ、肩揉んで。私疲れてるから」
「わ、わかりました...」
入社初日に突然カギのかかった部屋で美人女上司と2人きり、肩揉みを頼まれるとは...。
言われるがまま、俺は肩を揉み始めた。
「あっ...ん...気持ち良い...。相原くん、上手...」
なんかすげーエロいな...。
ていうか、肩凝ってるとは思えないくらい柔らかいな...。
「いつもは華澄ちゃんか亜美ちゃんに頼んでるけど、やっぱり男の子は力があるから違うね」
いつも肩揉み頼んでたのか...。てか、仕事はしないのか...?
「あの...」
「ん、なに?」
「物置に行くんじゃなかったでしたっけ...?」
入社日とはいえ、さすがに聞いておく。
「あー、あれは嘘。今日は初出社なわけだし、そう気張らず私の肩を揉んでればいいのよー」
なんて自由なんだ...。こんなことして、上の人たちに怒られたりしないのか?
あっ...この人が上の人か...。
「えーっと...いつまで揉めばいいですか?」
「もう少し揉んでいて...相原くん、肩揉み上手だから、クセになっちゃいそう」
俺は、緊張と力加減の調整で、腕が疲れてしまいそうだ...。
「あの...如月さん...」
「美華」
「え?」
「私のことは"美華"って呼んで。如月さんは私以外にもいるし、華澄ちゃんたちも私のことは名前で呼んでるから」
ああ、そっか...この人は社長の娘だったな...。
「分かりました。美華さん」
「よろしい♪ 私、年下の男の子に下の名前で呼ばれたの初めてだから、なんかドキドキする♪」
「そうなんですか?」
これだけ美人なら、今までに異性との関わりはありそうだけどな。
「私も、"風太くん"って呼んでいい?」
「もちろん、いいですよ」
「やった♪ ふーうーたーくん♪」
なんだこの人! あざとい! 可愛い!
入社初日から上司にときめいてしまった。
「美華さん、まだ肩揉み必要ですか?」
「うん、もう少しだけー。てか、年下の可愛い男の子に肩を揉んでもらえるのしあわせー」
この人、いまなんて言った?
入社初日から美人上司の肩揉んで、「可愛い男の子」とか言われて...俺、なんかすごい会社に入ったんじゃないか?
ていうか、すげー良い匂いするし、肩柔らかいし、たまらんなこの仕事...。
「さっき2人にも肩揉みしてもらってるって言ってましたけど、いつもこんな感じなんですか?」
さすがに気になったので、聞いておく。
「もしかして、私のこと不真面目だと思ってる? 私、やる時はやる女だから」
「そ、そうなんですね...」
現段階では、どう「やる時はやる」のか分からないからなあ...今後に期待しよう。
「うーん...だいぶ楽になった! ありがと、もういいよ」
俺が肩揉みをやめると美華さんは立ち上がり、組んだ手を上げて伸びをした。
なるほど...この胸が肩凝りの原因か...。
「よし、仕事しよっか。事務所戻ろ♪」
「は、はい」
さすがにちゃんと仕事するよな。なんだか安心してしまった。
「2人とも、ご苦労さま。風太くんの歓迎会どこでやるか決まった?」
「えっ? いま美華さん、"風太くん"って言いませんでした?」
異変に気づいたのか、華澄は質問で返した。
「うん、言ったよー。風太くん♪」
「なんで急に...」
「べつに普通じゃない? 華澄ちゃんたちのことも下の名前で呼んでるしー」
「そうですけど...なんか風太は違うっていうか...」
「華澄ちゃんだって下の名前じゃん!」
「それは...」
「華澄先輩、美華さんに嫉妬してます?」
「そんなんじゃないから!」
華澄...どうして美華さんが俺のことを下の名前で呼ぶのがダメなんだ...。
「ちなみに、風太くんは私のこと"美華さん"って呼ぶことになったよ♪」
「 ... ... 」
「なぜ、無言で睨まれる...」
「でも、華澄先輩って呼び捨てじゃないですか。1番恋人みたいな呼び方してるから良くないですか?」
亜美さんは華澄に気を利かせたつもりなのか、謎理論を展開し始めた。
「こ、恋人じゃないし...」
「ウチは"恋人みたい"って言ったんですけど」
「しょうがないですね...アタシが"風太"って恋人みたいな呼び方しちゃってるし、美華さんが"風太くん"って呼ぶのはフツーですね!」
華澄チョロ...。でも、亜美さんのおかげで助かった。
「ならよかった! で、場所決まった?」
「えーっと、アタシとしては、ここの居酒屋がいいなって思ったんですけど...」
華澄が俺たちにスマホを向けると、そこにはオシャレな居酒屋の画像が表示されていた。
「料理も美味しそうだし、コースの料金安いですよー。これなら美華さんのポケットマネーで余裕でしょう」
「経費でどうにかするわ。とりあえず、そこでいいんじゃないかしら? 華澄ちゃん、予約しておいてもらってもいい?」
「分かりました!」
「ちゃんと仕事してくれたみたいでよかった」
えっ? もしかして、これが仕事?
「風太、どうしたの?」
「え? いや、なんでも...」
歓迎会のセッティングは大事な仕事だよな...。
「それにしても、2人は下の名前を呼び捨てで呼び合うくらい仲が良いんだもんね。付き合ってるわけではないんでしょ?」
美華さんの言葉を聞いて、俺と華澄は思わず目が合う。
「つ、付き合ってはないです!」
華澄は慌てて訂正をした。
「付き合って"は"ないってことは、"セフレ"ってこと?」
な、なにを言い出すんだこの人?!
「違いますから! 風太とはそんなことしたことないですから!」
「えー? 名前で呼び合ってるのに、恋人でもセフレでもないの?」
「もう、この話はいいじゃないですか...。アタシと風太は大学で同じ学科だっただけだって...」
「そう。まあ、今はそういうことにしておいてあげるわ。後で風太くんから色々聞き出すから」
「お、俺ですか?」
他人事のように聞いていたら、突然矛先が俺に向いてしまった。
「あ、そうだ。華澄ちゃん、風太くんを連れて先月分の請求書取りに行ってきて」
「分かりました...風太、行こ」
「お、おう...」
せかせかする華澄を追いかけるようにして、俺たちは書類のある場所へ向かった。
「もう...美華さんしつこすぎ...。こないだも風太が面接に来たあとに聞いてきたくせに...」
ぶつぶつ文句を言いながら、華澄は先月分の請求書を探していた。
「でも、美華さんには感謝してる...だって、風太のこと採用してくれて、アタシと同じ部署にしてくれたから...」
華澄はこちらに振り向き、嬉しそうに話した。
大学の頃から思ってたけど、可愛い...。
「俺としても、この会社で続けることができれば、ありがたい話だな」
「風太なら大丈夫! だって、アタシはこの会社で1年働いたけど、この会社が好きだから。美華さんは優しいし、亜美ちゃんは良い子だし、アタシは風太のためになるように頑張るから!」
華澄って、マジで良い子だよな...。俺、大学の頃に付き合えばよかったのに、当時付き合ってた子がいたからな...。
「俺も華澄の役に立てるように頑張るよ」
「アタシは、風太と一緒に仕事ができればそれで充分!」
「今日の歓迎会、楽しみだな」
「ねーねー、明日休みだし、歓迎会の後風太の部屋で二次会やらない?」
「えっ? 俺の部屋で?」
「そう! 明日休みだから、夜更かししても大丈夫! それに、アタシは風太の隣の部屋だから自由だし!」
俺は転職を機に、会社が所有しているアパートで一人暮らしし始めたのだが、まさかの華澄は隣の部屋なのである。
それで、こんなことを言い出したのだろう。
だとしても、付き合ってもない男の部屋に自分から来ようとするなんて...マジで勘違いするぞ。
「お、俺はいいけど...」
「やった! 楽しみだね」
にっこり笑顔を向ける華澄。やはり可愛い。
こうして仕事をするのも楽しい午前中となったのだった。
◇ ◇ ◇
「お昼はどうする? 私はこれから近くのレストランに行くけど」
午前中の仕事が終わり、美華さんに声をかけられた。
「アタシたちは一緒にお弁当食べるので!」
そう、今日は昼はなんと、華澄が俺の分も弁当を作ってくれたのだ。とても幸せである。
「ずるーい。美華さん、ウチらもコンビニでお弁当買って華澄先輩たちと食べましょうよー」
「そうね。華澄ちゃんたちがイヤじゃなければ、私たちも一緒していいかしら?」
「イヤじゃないです...」
露骨に嫌そうっていうか、落ち込んだな...。
「なんだかごめんなさいね? 華澄ちゃん、風太くんと2人きりで食べたかったでしょうけど」
「美華さん、はやくコンビニ行きましょー」
「ええ、分かったわ。2人とも、先に食べても良いからね。なにかデザート買ってきてあげる」
そう言って美華さんは亜美さんと一緒にコンビニへと向かった。
「さすがに、"2人きりで食べたい"なんて言えないよ...」
2人がいなくなったタイミングで、華澄は不満を零した。
「まあまあ、俺としては美華さんと亜美さんとコミュニケーションの場があると助かるし...」
「そんなこと言って...2人と良い感じになろうとしてない?」
「ど、どうしてそうなる? 俺は今日入社したばかりだぞ?」
入社したその日から会社の異性に目をつけるとか、ヤバすぎだろその新入社員。
「ま、もし風太があの2人と仲良くするなら、アタシはもうお弁当作ってあげないけどねー」
「美華さんも亜美さんも同じ部署なんだから、仲良くするべきだと思うのだが...」
「アタシが言ってるのは、距離感に気をつけなさいってこと! あの2人、風太のこと狙ってるみたいだったから...」
「狙ってる...?」
華澄の言ってることが本当なら、2人の狙いが気になる...。
「美華さんと倉庫に行ったのウソでしょ?」
「え? どうして?」
「とぼけても無駄だよ。今日はアタシも亜美ちゃんも肩揉み頼まれてないってことは、風太が肩揉んだんでしょ?」
「ああ、うん...」
ここまでお見通しだと、もう正直に答えるしかないな...。
「やっぱりね。他には何もしてないでしょ?」
「してないよ。肩揉みして美華さんの気が済んだら戻ってきたから」
「これからが心配...。亜美ちゃん可愛いし、美華さん美人でおっぱい大きいし...」
まるで、俺が巨乳好きみたいな言い方だな。
まあ、大きいの好きですけども。
「ただいまー...ってあれ? 2人ともまだ食べてなかったの?」
しばらく華澄と話し込んでいたところで、噂の美人女上司と亜美さんが、コンビニから戻ってきた。
「あ、話すのに夢中になってた...」
「わー、さっそくノロケですかー?」
亜美さんが、俺たちに冷たい視線を向けてきた。
「違うから! でも、先に食べてるよりは良いでしょ?」
「ま、そうですねー。じゃあ、食べましょう」
こうして俺は、初日から3人の美女と共に昼食を食べ始めたのであった。
俺が緊張している理由。それは、今日が新しい会社への入社日だからだ。
大学時代に同じ学科だった華澄に紹介してもらい入社した会社だが、これからどうなるのか、不安が募るばかりだ。
入社日である今日は、華澄と約束して会社まで一緒に来たのだ。
「これから、上手くやっていけるかな...」
「大丈夫、みんな優しいから! それに、風太の仕事はアタシたちのサポート役。それはつまり、難しい仕事ではないってことだから」
華澄が属している部署は、総務部。そこで俺は華澄たちのサポートというわけなのだが、どういうことをすればいいのやら...。
「総務部って、何でもやるイメージがあるんだけど...」
「まあ、そうだね。でも、これからは風太と一緒に仕事ができるから、毎日楽しくなりそう!」
俺に満面の笑みを向ける華澄。俺としても、華澄と一緒に働けるなら毎日が楽しみだ。
◇ ◇ ◇
「今日からお世話になります、相原風太と申します。これからご迷惑おかけしてしまうことがあるとは思いますが、日々成長していけるよう頑張って参りますので、よろしくお願いいたします」
初出社。事務所で皆に挨拶をし、朝礼後は配属された部署に集合する。
「さっきも紹介があったように、今日から私たちと一緒に働く仲間になった相原くんね。華澄ちゃんはすでに知ってるでしょうけど、何か分からないことがあればすぐに聞いて欲しいし、2人もちゃんと教えてあげてね」
部署で俺の紹介をしてくれたのは、面接でお世話になった如月美華さん。俺が配属された総務部の上長である。
面接の時から思っていたが、すごく美人で、俺とそんなに年が離れていなさそうな若さだ。
「はーい」
伸びのある返事をしたのは、俺よりも年下に見える女の子だった。第一印象は、小柄でクールな感じの可愛い子。
「華澄ちゃんのことは知ってるでしょうから、亜美ちゃん自己紹介してちょうだい」
「はーい。えーっと、常磐亜美です。趣味は、アニメとコスプレです。好きな食べ物は、シュークリームです。えーっと、あ、そうだ、誕生日は7月27日です。よろしくです」
「よ、よろしくお願いします」
「あ、敬語じゃなくていいですよ。ウチ、相原さんの1コ下なので」
「いやいや、そういうわけには。ぼくが年上でも、この会社では後輩なので」
「えー? まあいいや。そのうち敬語じゃなくなればそれでいいです」
なんだか、気だるそうな感じの子だな...。
「それじゃあ、挨拶も済んだことだし、相原くんは私と一緒に物置まで来てくれるかしら」
「分かりました」
「それじゃあ2人とも仕事しておいてね」
「はーい」
「はい、分かりました」
「それじゃあ相原くん、行こっか」
「はい」
美華さんと部屋を抜け出し、俺はさっそく与えられた仕事に向かった。
「相原くん、鍵閉めてもらっていい?」
如月さんの後についてきたまま部屋に入ると、そう促された。
「え? はい...」
ここ、どう見ても物置じゃないよな...。
ていうか、応接室?
「はあ~、つかれた」
如月さんは大きなため息をついてそう呟くと、ソファに座り脚を組み始めた。
なに、この状況...。
「相原くん、肩揉んでくれない?」
「え? 肩...ですか?」
「そ、肩揉んで。私疲れてるから」
「わ、わかりました...」
入社初日に突然カギのかかった部屋で美人女上司と2人きり、肩揉みを頼まれるとは...。
言われるがまま、俺は肩を揉み始めた。
「あっ...ん...気持ち良い...。相原くん、上手...」
なんかすげーエロいな...。
ていうか、肩凝ってるとは思えないくらい柔らかいな...。
「いつもは華澄ちゃんか亜美ちゃんに頼んでるけど、やっぱり男の子は力があるから違うね」
いつも肩揉み頼んでたのか...。てか、仕事はしないのか...?
「あの...」
「ん、なに?」
「物置に行くんじゃなかったでしたっけ...?」
入社日とはいえ、さすがに聞いておく。
「あー、あれは嘘。今日は初出社なわけだし、そう気張らず私の肩を揉んでればいいのよー」
なんて自由なんだ...。こんなことして、上の人たちに怒られたりしないのか?
あっ...この人が上の人か...。
「えーっと...いつまで揉めばいいですか?」
「もう少し揉んでいて...相原くん、肩揉み上手だから、クセになっちゃいそう」
俺は、緊張と力加減の調整で、腕が疲れてしまいそうだ...。
「あの...如月さん...」
「美華」
「え?」
「私のことは"美華"って呼んで。如月さんは私以外にもいるし、華澄ちゃんたちも私のことは名前で呼んでるから」
ああ、そっか...この人は社長の娘だったな...。
「分かりました。美華さん」
「よろしい♪ 私、年下の男の子に下の名前で呼ばれたの初めてだから、なんかドキドキする♪」
「そうなんですか?」
これだけ美人なら、今までに異性との関わりはありそうだけどな。
「私も、"風太くん"って呼んでいい?」
「もちろん、いいですよ」
「やった♪ ふーうーたーくん♪」
なんだこの人! あざとい! 可愛い!
入社初日から上司にときめいてしまった。
「美華さん、まだ肩揉み必要ですか?」
「うん、もう少しだけー。てか、年下の可愛い男の子に肩を揉んでもらえるのしあわせー」
この人、いまなんて言った?
入社初日から美人上司の肩揉んで、「可愛い男の子」とか言われて...俺、なんかすごい会社に入ったんじゃないか?
ていうか、すげー良い匂いするし、肩柔らかいし、たまらんなこの仕事...。
「さっき2人にも肩揉みしてもらってるって言ってましたけど、いつもこんな感じなんですか?」
さすがに気になったので、聞いておく。
「もしかして、私のこと不真面目だと思ってる? 私、やる時はやる女だから」
「そ、そうなんですね...」
現段階では、どう「やる時はやる」のか分からないからなあ...今後に期待しよう。
「うーん...だいぶ楽になった! ありがと、もういいよ」
俺が肩揉みをやめると美華さんは立ち上がり、組んだ手を上げて伸びをした。
なるほど...この胸が肩凝りの原因か...。
「よし、仕事しよっか。事務所戻ろ♪」
「は、はい」
さすがにちゃんと仕事するよな。なんだか安心してしまった。
「2人とも、ご苦労さま。風太くんの歓迎会どこでやるか決まった?」
「えっ? いま美華さん、"風太くん"って言いませんでした?」
異変に気づいたのか、華澄は質問で返した。
「うん、言ったよー。風太くん♪」
「なんで急に...」
「べつに普通じゃない? 華澄ちゃんたちのことも下の名前で呼んでるしー」
「そうですけど...なんか風太は違うっていうか...」
「華澄ちゃんだって下の名前じゃん!」
「それは...」
「華澄先輩、美華さんに嫉妬してます?」
「そんなんじゃないから!」
華澄...どうして美華さんが俺のことを下の名前で呼ぶのがダメなんだ...。
「ちなみに、風太くんは私のこと"美華さん"って呼ぶことになったよ♪」
「 ... ... 」
「なぜ、無言で睨まれる...」
「でも、華澄先輩って呼び捨てじゃないですか。1番恋人みたいな呼び方してるから良くないですか?」
亜美さんは華澄に気を利かせたつもりなのか、謎理論を展開し始めた。
「こ、恋人じゃないし...」
「ウチは"恋人みたい"って言ったんですけど」
「しょうがないですね...アタシが"風太"って恋人みたいな呼び方しちゃってるし、美華さんが"風太くん"って呼ぶのはフツーですね!」
華澄チョロ...。でも、亜美さんのおかげで助かった。
「ならよかった! で、場所決まった?」
「えーっと、アタシとしては、ここの居酒屋がいいなって思ったんですけど...」
華澄が俺たちにスマホを向けると、そこにはオシャレな居酒屋の画像が表示されていた。
「料理も美味しそうだし、コースの料金安いですよー。これなら美華さんのポケットマネーで余裕でしょう」
「経費でどうにかするわ。とりあえず、そこでいいんじゃないかしら? 華澄ちゃん、予約しておいてもらってもいい?」
「分かりました!」
「ちゃんと仕事してくれたみたいでよかった」
えっ? もしかして、これが仕事?
「風太、どうしたの?」
「え? いや、なんでも...」
歓迎会のセッティングは大事な仕事だよな...。
「それにしても、2人は下の名前を呼び捨てで呼び合うくらい仲が良いんだもんね。付き合ってるわけではないんでしょ?」
美華さんの言葉を聞いて、俺と華澄は思わず目が合う。
「つ、付き合ってはないです!」
華澄は慌てて訂正をした。
「付き合って"は"ないってことは、"セフレ"ってこと?」
な、なにを言い出すんだこの人?!
「違いますから! 風太とはそんなことしたことないですから!」
「えー? 名前で呼び合ってるのに、恋人でもセフレでもないの?」
「もう、この話はいいじゃないですか...。アタシと風太は大学で同じ学科だっただけだって...」
「そう。まあ、今はそういうことにしておいてあげるわ。後で風太くんから色々聞き出すから」
「お、俺ですか?」
他人事のように聞いていたら、突然矛先が俺に向いてしまった。
「あ、そうだ。華澄ちゃん、風太くんを連れて先月分の請求書取りに行ってきて」
「分かりました...風太、行こ」
「お、おう...」
せかせかする華澄を追いかけるようにして、俺たちは書類のある場所へ向かった。
「もう...美華さんしつこすぎ...。こないだも風太が面接に来たあとに聞いてきたくせに...」
ぶつぶつ文句を言いながら、華澄は先月分の請求書を探していた。
「でも、美華さんには感謝してる...だって、風太のこと採用してくれて、アタシと同じ部署にしてくれたから...」
華澄はこちらに振り向き、嬉しそうに話した。
大学の頃から思ってたけど、可愛い...。
「俺としても、この会社で続けることができれば、ありがたい話だな」
「風太なら大丈夫! だって、アタシはこの会社で1年働いたけど、この会社が好きだから。美華さんは優しいし、亜美ちゃんは良い子だし、アタシは風太のためになるように頑張るから!」
華澄って、マジで良い子だよな...。俺、大学の頃に付き合えばよかったのに、当時付き合ってた子がいたからな...。
「俺も華澄の役に立てるように頑張るよ」
「アタシは、風太と一緒に仕事ができればそれで充分!」
「今日の歓迎会、楽しみだな」
「ねーねー、明日休みだし、歓迎会の後風太の部屋で二次会やらない?」
「えっ? 俺の部屋で?」
「そう! 明日休みだから、夜更かししても大丈夫! それに、アタシは風太の隣の部屋だから自由だし!」
俺は転職を機に、会社が所有しているアパートで一人暮らしし始めたのだが、まさかの華澄は隣の部屋なのである。
それで、こんなことを言い出したのだろう。
だとしても、付き合ってもない男の部屋に自分から来ようとするなんて...マジで勘違いするぞ。
「お、俺はいいけど...」
「やった! 楽しみだね」
にっこり笑顔を向ける華澄。やはり可愛い。
こうして仕事をするのも楽しい午前中となったのだった。
◇ ◇ ◇
「お昼はどうする? 私はこれから近くのレストランに行くけど」
午前中の仕事が終わり、美華さんに声をかけられた。
「アタシたちは一緒にお弁当食べるので!」
そう、今日は昼はなんと、華澄が俺の分も弁当を作ってくれたのだ。とても幸せである。
「ずるーい。美華さん、ウチらもコンビニでお弁当買って華澄先輩たちと食べましょうよー」
「そうね。華澄ちゃんたちがイヤじゃなければ、私たちも一緒していいかしら?」
「イヤじゃないです...」
露骨に嫌そうっていうか、落ち込んだな...。
「なんだかごめんなさいね? 華澄ちゃん、風太くんと2人きりで食べたかったでしょうけど」
「美華さん、はやくコンビニ行きましょー」
「ええ、分かったわ。2人とも、先に食べても良いからね。なにかデザート買ってきてあげる」
そう言って美華さんは亜美さんと一緒にコンビニへと向かった。
「さすがに、"2人きりで食べたい"なんて言えないよ...」
2人がいなくなったタイミングで、華澄は不満を零した。
「まあまあ、俺としては美華さんと亜美さんとコミュニケーションの場があると助かるし...」
「そんなこと言って...2人と良い感じになろうとしてない?」
「ど、どうしてそうなる? 俺は今日入社したばかりだぞ?」
入社したその日から会社の異性に目をつけるとか、ヤバすぎだろその新入社員。
「ま、もし風太があの2人と仲良くするなら、アタシはもうお弁当作ってあげないけどねー」
「美華さんも亜美さんも同じ部署なんだから、仲良くするべきだと思うのだが...」
「アタシが言ってるのは、距離感に気をつけなさいってこと! あの2人、風太のこと狙ってるみたいだったから...」
「狙ってる...?」
華澄の言ってることが本当なら、2人の狙いが気になる...。
「美華さんと倉庫に行ったのウソでしょ?」
「え? どうして?」
「とぼけても無駄だよ。今日はアタシも亜美ちゃんも肩揉み頼まれてないってことは、風太が肩揉んだんでしょ?」
「ああ、うん...」
ここまでお見通しだと、もう正直に答えるしかないな...。
「やっぱりね。他には何もしてないでしょ?」
「してないよ。肩揉みして美華さんの気が済んだら戻ってきたから」
「これからが心配...。亜美ちゃん可愛いし、美華さん美人でおっぱい大きいし...」
まるで、俺が巨乳好きみたいな言い方だな。
まあ、大きいの好きですけども。
「ただいまー...ってあれ? 2人ともまだ食べてなかったの?」
しばらく華澄と話し込んでいたところで、噂の美人女上司と亜美さんが、コンビニから戻ってきた。
「あ、話すのに夢中になってた...」
「わー、さっそくノロケですかー?」
亜美さんが、俺たちに冷たい視線を向けてきた。
「違うから! でも、先に食べてるよりは良いでしょ?」
「ま、そうですねー。じゃあ、食べましょう」
こうして俺は、初日から3人の美女と共に昼食を食べ始めたのであった。
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「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
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同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
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