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贅沢な温泉旅行

目的地までの女子トーク

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 「さあ、待ちに待った温泉旅行だぞー!」
 連休に突入し、温泉旅行当日を迎えた俺たち。
 「風太さん、疲れたらウチが運転代わるね」
 「ああ、助かるよ」
 俺は運転手となり、美華さんのクルマで出かけることになった。
 「私のベンツちゃん、ぶつけないでね!」
 「善処します...」
 やー、こわい。しかもデカいベンツ。
 こないだ美華さんと出かけた時に運転したとはいえ、今回は長距離なのでさらに緊張する。
 「アタシは風太の隣でナビやります!」
 「えー? 場所は私の知ってる旅館だし、私が隣に居たほうが良くない?」
 「アタシも案内できますから! それに、美華さんは部長なんですから、上座に座るべきだと思います!」
 「え~? じゃあ、そうするか~。私、偉い人だから上座じゃなきゃダメだよね~」
 ダメってことはないだろうけど、華澄の言うことは一理あるな...。
 ていうか、美華さんチョロい。
 「早く出ないと間に合わなくなりますよ」
 こういう時にまとめ役となってくれる亜美さんのおかげで、俺たちはやっと旅館へ出発することにした。
 「うぅ...もっとクルマが狭かったらよかったのに...」
 旅館へ向けて出発したところで、華澄がボソッと不思議なことを言い始めた。
 「どうして狭いほうがいいの? 私のベンツ、イヤだった?」
 「べつに美華さんのクルマはイヤじゃないですけど、運転席と距離が近いほうがよかったなと」
 「華澄ちゃん、正直すぎ...。風太くんの隣にしてあげたんだからいいじゃん!」
 「華澄先輩、風太さんが疲れたらウチが運転代わるので、そしたら風太さんと後ろに座ればいいと思います」
 そして亜美さんの謎の気遣い。
 「亜美さんに運転させるわけには。大きなクルマを運転するのは大変でしょう」
 「ウチ、運転好きだから大丈夫だよ」
 「風太くん知らなかったっけ? 亜美ちゃんってクルマ好きなんだよ? ロードスター乗ってるの。しかもマニュアル」
 「え? そうなんですか? すごいなあ...」
 女の子で車好きとか珍しいイメージがあるのに、マニュアルのオープンカーに乗ってるのか。
 なにより、亜美さんがクルマ好きとは初耳にして意外すぎてびっくり。
 「べつにすごくないけど」
 「こんど風太くんのこと乗せてあげれば? ロードスターたのしいよ~♪」
 「ずるい! そのときはアタシも乗る!」
 「華澄先輩、ロードスターは2人乗りです」
 「うぅ...」
 なにも言い返せなくなった華澄。
 2人乗りである以上、なにも対処法がない...。
 「亜美ちゃんと風太くんがお出かけする時は、華澄ちゃんは私とデートしようよ~。美味しいものご馳走するから♪」
 「美華さんがそう言うなら...」
 なんか、渋々だな...。ていうか、華澄と美華さんが2人きりになったら、どんな話するのやら...。
 「てか、ロードスターだと狭いからイチャイチャできて良いよね~♪ 私もロードスター買おうかな~」
 いや、ロードスター買う理由よ。
 昔のナンパカーみたいな選び方やん。
 「誰とイチャイチャするつもりですか?」
 美華さんにそう聞くのはもちろん華澄。
 「え、えーっと...え、Fから始まる人...」
 「風太ですね絶対許しません」
 「Fとしか言ってないじゃん!」
 「美華さん男の話聞いたことないし、風太さんしかいなくないですか?」
 「亜美ちゃんひどい...私だって傷つくんだからね!」
 「べつに、男の話聞いたことないって言っただけですよ? 美華さんがモテないなんて誰も言ってないです」
 「どーせ、亜美ちゃんみたいにモテてないですよーだ」
 大人げなく拗ねる美華さん。我々の上司だ。
 「ウチ、モテたことないんですけど」
 「絶対ウソ。告られたことあるでしょ?」
 「告られたことはありますけど...」
 「あるじゃん! てか、亜美ちゃんって今までに何人の男と付き合ったの?」
 超ストレートな質問。ていうか、美華さんも告られたことはあるだろうに。
 「付き合ったことないですよ。ウチ、恋愛興味無いので」
 マジか、意外だな...。でも、恋愛興味ないってのは、亜美さんなら分かるかもしれない。
 「可愛いのにもったいない! 誰とも付き合う気ないの?」
 「べつに、そんなことはないですけど...」
 「じゃあ、風太くんはどう?」
 「ちょっと美華さん?! 何言ってるんですか?!」
 「風太さんですか...美華さんと華澄先輩の前で言うのは気が引けるので、あとで風太さんに直接伝えておきますね」
 「ちょっとなにそれ! その感じだと、風太のこと好きなんじゃないの?」
 「どうですかね。風太さんのことまだちゃんと分かってないので、これから色々知っていきたいです」
 取り乱す華澄に対し、冷静に答える亜美さん。
 「亜美ちゃんが風太のこと好きだったりしたら、アタシ許さないからね!」
 「華澄先輩って、本当に風太さんのことが好きなんですね。ウチは応援してますから」
 「あ、アタシはべつに、風太のこと好きとかそういうわけじゃなくて...」
 「それは無理があるでしょ! 華澄ちゃんが風太くんのこと好きじゃなかったら、どうして亜美ちゃんのこと許さないわけ?」
 なんだか、空気が重くなってきたな...。
 「そういえば美華さん、お風呂って貸切以外に大浴場とかないんですかね?」
 どんどん空気が重くなりそうなので、話を逸らさせてもらおう。
 「大浴場あるみたいだよ? どうして?」
 「サウナとかありますかね?」
 「サウナは行ってみないと分からなくて...サウナ好きなの?」
 「好きですね。なので、あればいいなと」
 「そっかー。じゃあ、今度いっしょに混浴サウナ行こうよ! 私も好きだから♪」
 まだ旅館に到着してないのに、次の予定の話し始めたよこの人...。
 「アタシ...せっかくなら風太と思い出作りたいんだけど...。でも、美華さんはともかく亜美ちゃんが風太と一緒はイヤなら、考えるけど...」
 「ウチはべつに、華澄先輩がイヤじゃなきゃいいですよ」
 「なら、べつにいいけど...」
 「てか、私と亜美ちゃんが風太くんと一緒に入ってもいいんだ?」
 「まあ、アタシが一緒であれば...みんなで来たのにアタシが風太と2人きりっていうのは、さすがに気が引けるので」
 華澄の許容範囲がいまだによく分からないが、こないだ俺が美華さんと出かけたように、華澄のいないところではイヤなのだろう。
 「じゃあ、私が華澄ちゃんの前で風太くんとイチャイチャしてもいいの?」
 「よく堂々とそれを聞けますね。まあ、アタシの前ならいいですけど。そのかわり、2人きりはやめてください」
 「大丈夫だよ~。2人きりになったりしないから。4人で仲良くしようね~♪」
 もはや、この3人の会話に俺の意見が介入する隙などなく...。
 その後も、3人は俺を置き去りにして話し合いを進めるのであった。
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