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第三章。
神殿到着間近のヒトトキ。
しおりを挟む僕の密やかな行為はロイに知られている気配もなく、通常営業に戻った。
魔物の数も徐々に減り、僕が起こされることも減った。
「アキラ、起きろ」
ロイの声に目覚める。
僕は寝起きは悪くないんだ。
そして起こされるということは、魔物が出たのか見張りの交代の時間かだ。
「ん、魔物か?」
「いや、神殿に到着間近だ」
「随分と早かったな…?」
「魔物に出くわさなかったからな」
僕はむくりと起きて、枕元に用意されていた服に袖を通した。
これもロイの気遣いだ。痒いところに手が届きすぎる。
僕はこいつがいなくなったら、生活できる自信がないほど甘やかされている自負はある!
「服、ありがと」
「ん、すぐ向うか?」
「早い方がいいだろ」
明け方の砂漠はまだまだ冷え込む。
「陽が昇る頃には到着するだろ。先に飯食うか」
「食う、腹減った」
すでに食事の用意は済んでいて、久しぶりに2人でとるご飯だ。
「いっただきます!」
「いただきます」
両手をあわせて"いただきます"は、もちろんこの世界でのマナーにはなく、いつの間にか僕に倣ってロイも同じように食べ始めるようになった。
ちょっとカワイイ。
ちなみにこの世界でも大陸や国によってそれぞれ違うらしく、ロイの作法は神殿よりのものだと聞いた。
"天に召します我らが神よ"と、キリスト教の主の祈りに似たものだった。
今朝のメニューは蜂蜜のたっぷりかかったパンケーキだった。
ドライフルーツもそえてある。
保存の効く材料で僕の胃袋を満たす手腕は見事だ。
「うまぁ…」
「作り甲斐がある」
「やー、イイ嫁さんになるなー!」
軽口を叩いたつもりが、ロイは少し神妙な面持になってしまった。
料理上手な人に伝える常套句ではないのか…嫁は駄目だったのだろうか。
話の流れを修正しよう。
「あ、そうだ!神殿でアイテムイベントリの解放ってどうやるんだ?」
会話の流れも、情報収集も兼ねたナイスな質問だ。
我ながら機転が利いている!
「あぁ、これだ」
ロイの左腕にはいつもと違うペンデュラムが巻かれていた。
先端を飾るのは鮮やかな真紅の石だ。
「キレイだな、それを使うのか?」
「神殿の最奥にある石台に翳すだけだ」
「え、それだけ??」
「それだけだ、どうかしたか?」
あまりにも簡単かつ単純だ。
「いや…なんか、簡単だな?」
「本来なら対して意味のなさない儀式とかが…」
「なるほど…」
「あとは神官が…、このペンデュラムの持ち主が腕を翳すことが鍵だな」
「そのへんはしっかりしてんのな」
なにわともあれ、なんとか無事に神殿へ到着できそうだ。
あと一息でイルネージュへの準備は万端だ!
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