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08.君の『特別』になりたくて
『男子平泳ぎ200メートル、予選第12組の試合を開始します』
あれから20分後。僕はプールサイドに立っていた。
ジャージを脱いで『MIZUHARA』と書かれた箱の中にしまう。
身に着けているのは、ハーフスパッツタイプの水着着だ。
色は黒。太股に水色のラインが走っている。
目の前には青いプール。
照明で隅々まで照らされている。
加えて僕の後ろとプールの向こう側には、青いシャツ&黒いパンツ姿の審判員の姿があった。
「わくわくしてきた」
「落ち着け、落ち着け……」
「ぜってー負けねえ」
相も変わらず、ここには色んな感情が漂っている。
高揚感、緊張、闘争心。
そんな感情を紛らわすように、選手達は各々跳ねたり、両手を左右に振ったりしている。
因みに僕は何もしない。
いつも通りぼーっとしているはず……だったんだけどな。
「……あ、いた」
気付けば、永良の姿を探していた。
西側の下の方、我喜屋君の隣に座って観戦している。
謎に背筋を伸ばして、ただでさえ大きな目をかっと見開いていた。
一秒たりとも見逃さない。
そんな気迫を感じる。
予選からその調子なの? 大分強火だね。
まったく……あんなに熱心なのに、どうして今まで気付かなかったんだろう。
それだけ、真っ暗闇の中で生きてたってことなのかな。
君に出会わなかったら、僕はどうなっていたんだろうね。
微苦笑を浮かべつつゴーグルをかけた。
透明な青の中を歩いて、飛び込み台に片足を乗せる。
ホイッスルが鳴り響く。
一回、二回、三回………五回目で台の上へ。
後ろに控えていた審判員が、僕の背後に立った。
『Take your marks』
合図を受けて飛び込んだ。
水泡の雲を抜けて、前へ前へと進んでいく。
永良は今、どんな目で僕を見ているんだろう。
僕がゴールした時、どんな反応を見せてくれるんだろう。
また弱気になる?
いや、まずは喜んでくれるかな。君は強火オタクだから。
『すっげえ!!』
永良がキラッキラの目で見つめてくる。
その目にはもう僕しか映っていなくて。
それもいい。
それもいいんだけど、何か物足りないんだよね。
何か……遠い。もっともっと近付きたい。
プールの壁に僕の手が触れた。ゴールだ。
水中から顔を上げて、観客席に目を向ける。
すると、永良は険しい顔で首を傾げていた。
何あれ。超ムカつく。
「何なの――っ!」
電光掲示板に目を向けて、漸くその理由が分かった。
僕の名前の横に表示されたタイムは、2分11秒。
自己ベストよりも6秒も遅かった。
「……やばっ」
「厳巳!!!!!!!!!!!!!」
案の定、怒鳴られた。当然だ。
1.0~3.0秒ならまだセーブで通せるけど、それ以上は怠惰と取られる。
コーチなら猶更だ。
反省しないと。
いくら永良に『ざまあ』されたいからって、故意もしくは自滅する形で負けるのは絶対にナシだ。
それじゃ何の意味もない。
というか、永良に対して失礼だ。
彼とは正々堂々と戦って、ちゃんと負けないと。
「…………」
なんて思いつつも、一方でこうも思い始めている。
無理かもしれない。
永良は僕には勝てないかもしれない……と。
だけど、僕と永良の間で成立しそうな関係は、主人公とライバル以外に考えられない。
ライバルがダメなら友達、欲を言えば親友になりたいけど、どうしたらいいのか……。
長く独りでいすぎた。
親友はおろか友達の作り方さえ、僕にはもう分からなくて。
『お前には競泳しかねえ。この世界でしか生きていけねえんだからな』
コーチのあの考えは、あながち間違っていないのかもしれない。
我喜屋君のことが死ぬほど羨ましい。心からそう思った。
あれから20分後。僕はプールサイドに立っていた。
ジャージを脱いで『MIZUHARA』と書かれた箱の中にしまう。
身に着けているのは、ハーフスパッツタイプの水着着だ。
色は黒。太股に水色のラインが走っている。
目の前には青いプール。
照明で隅々まで照らされている。
加えて僕の後ろとプールの向こう側には、青いシャツ&黒いパンツ姿の審判員の姿があった。
「わくわくしてきた」
「落ち着け、落ち着け……」
「ぜってー負けねえ」
相も変わらず、ここには色んな感情が漂っている。
高揚感、緊張、闘争心。
そんな感情を紛らわすように、選手達は各々跳ねたり、両手を左右に振ったりしている。
因みに僕は何もしない。
いつも通りぼーっとしているはず……だったんだけどな。
「……あ、いた」
気付けば、永良の姿を探していた。
西側の下の方、我喜屋君の隣に座って観戦している。
謎に背筋を伸ばして、ただでさえ大きな目をかっと見開いていた。
一秒たりとも見逃さない。
そんな気迫を感じる。
予選からその調子なの? 大分強火だね。
まったく……あんなに熱心なのに、どうして今まで気付かなかったんだろう。
それだけ、真っ暗闇の中で生きてたってことなのかな。
君に出会わなかったら、僕はどうなっていたんだろうね。
微苦笑を浮かべつつゴーグルをかけた。
透明な青の中を歩いて、飛び込み台に片足を乗せる。
ホイッスルが鳴り響く。
一回、二回、三回………五回目で台の上へ。
後ろに控えていた審判員が、僕の背後に立った。
『Take your marks』
合図を受けて飛び込んだ。
水泡の雲を抜けて、前へ前へと進んでいく。
永良は今、どんな目で僕を見ているんだろう。
僕がゴールした時、どんな反応を見せてくれるんだろう。
また弱気になる?
いや、まずは喜んでくれるかな。君は強火オタクだから。
『すっげえ!!』
永良がキラッキラの目で見つめてくる。
その目にはもう僕しか映っていなくて。
それもいい。
それもいいんだけど、何か物足りないんだよね。
何か……遠い。もっともっと近付きたい。
プールの壁に僕の手が触れた。ゴールだ。
水中から顔を上げて、観客席に目を向ける。
すると、永良は険しい顔で首を傾げていた。
何あれ。超ムカつく。
「何なの――っ!」
電光掲示板に目を向けて、漸くその理由が分かった。
僕の名前の横に表示されたタイムは、2分11秒。
自己ベストよりも6秒も遅かった。
「……やばっ」
「厳巳!!!!!!!!!!!!!」
案の定、怒鳴られた。当然だ。
1.0~3.0秒ならまだセーブで通せるけど、それ以上は怠惰と取られる。
コーチなら猶更だ。
反省しないと。
いくら永良に『ざまあ』されたいからって、故意もしくは自滅する形で負けるのは絶対にナシだ。
それじゃ何の意味もない。
というか、永良に対して失礼だ。
彼とは正々堂々と戦って、ちゃんと負けないと。
「…………」
なんて思いつつも、一方でこうも思い始めている。
無理かもしれない。
永良は僕には勝てないかもしれない……と。
だけど、僕と永良の間で成立しそうな関係は、主人公とライバル以外に考えられない。
ライバルがダメなら友達、欲を言えば親友になりたいけど、どうしたらいいのか……。
長く独りでいすぎた。
親友はおろか友達の作り方さえ、僕にはもう分からなくて。
『お前には競泳しかねえ。この世界でしか生きていけねえんだからな』
コーチのあの考えは、あながち間違っていないのかもしれない。
我喜屋君のことが死ぬほど羨ましい。心からそう思った。
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