28 / 37
28.決別、闇に染まる覚悟(★)
しおりを挟む
「なっ……~~っ、てめェ!!!」
怒号が飛ぶ。奏人のものだ。心が潰れる。助けて。救いを求めるように一筋の願いに縋った。
叶うならこのまま消えてしまいたい。僕の存在、そのすべてが消え去れば今のこの状況だって――。
「わっ……!」
腕を引かれた。奏人との距離が縮まる。気付けば目の前に。硬く誇らしい胸に僕の鼻先が触れる。
「っ! だっ、ダメ!」
咄嗟に奏人の胸を押した。
「なっ……」
「っ! ちっ、ちが! ぼっ、僕、汚いから……っ」
手の中には汚れたティッシュ。鼻をすするだけで酸っぱい臭いがする。それに何より――。
「……っ」
尻に力を込める。注意を払いながら穴にティッシュを宛がった。紙が一層湿っていく。
「バーカ」
「んっ……!」
強引に頭を撫でられる。いつものように。乱雑に。
「だっ、ダメ! 汚っ――」
「汚くなんかねぇよ」
奏人は微笑んだ。例えるならそう――すべてを包み込むように。
「……っ……っ、……」
温かい。
涙が溢れ出す。止まらない。
「そうですよ。汚いなんてとんでもない。……最っ高にそそりますよね? 奏人君」
「アンタな……」
一変して凄まじい怒気を帯びる。怖い。矛先は谷原さんに向いている。理解していても息を呑まずにはいられなかった。
「……タダで済むと思ってんの?」
「ええ。何せ私はアナタ方の急所を握ってるんでね」
「はっ、ろくな証拠もねえくせに」
「さて、それはどうでしょう?」
谷原さんの顔が悪意で滲む。マズい。あれを流す気だ。
「まっ、待ってくださ――」
『君達の秘密を知る人間は全部で3人。……武澤 頼人さん、滋田 寛さん、そして僕、留持 涼だ』
「……は?」
奏人の声が引き攣る。驚き、恐怖、怒り。感情が目まぐるしく変化して――。
「留持……ヤローがバラしたのか……」
そのすべてが留持さんに向く。
「違う! 違うんだ。僕が迂闊だったから――」
「お門違いも甚だしい」
「あ?」
「悪いのは留持さんではない。アナタでしょう、武澤 奏人君」
「……………………」
奏人の瞳が暗く、沈んでいく。響いたんだ。みんなの声が、行動が。
「っ! 奏人――っ!」
不意に瞳が鋭くなった。どうして?
「あっ……」
察した。
――力づくで止めるつもりなんだ。
5年前の光景がフラッシュバックする。恐怖で染まったみんなの顔。先生を始めとした協会関係者に何度となく頭を下げる父さん、母さんの姿。四方八方から向けられる軽蔑と危懼の眼差し。
断言出来る。奏人には無理だ。とてもじゃないけど耐えられない。壊れてしまう。心も、身体も、何もかも全部。
「~~っダメだ! 奏人!!」
「そうですよ。暴力に訴えるなど、周囲にどれほどの迷惑がかかることか」
「大丈夫だ。留持の時みたく俺が上手く――」
「分からない人ですね」
「あ?」
「尚人君はね、これ以上アナタに罪を重ねてほしくないのですよ」
「……っ」
奏人の表情が歪む。痛みを感じてくれているんだ。
「……良かった」
「あ?」
奏人の声が怒りと困惑で揺れる。当然の反応だ。我ながら軽率だったと思う。でも、たとえ冷静であったとしても結果は変わらなかった。そのぐらい嬉しかったんだ。
「……ごめん」
「何笑ってんだよ」
奏人を在るべき場所へ、みんなのところに帰す。そのためなら僕は――。
「ここは僕に任せて」
「は?」
「大丈夫だから」
「寝言は寝て言え」
「そうですよ。これで漸く役者が揃ったというのに」
「はっ……?」
血の気が引く。まただ。頭が無意味に回転する。気持ち悪い。
「……奏人には手を出さないって、そう言ってくれたじゃないですか」
声が震える。ダメだ。もっと強く出ないと。
「共に償わずしてどうします。お2人でなさったことでしょう」
首を左右に振る。その度に絶望が深まっていく。だけど、ここで引くわけにはいかない。引けば奏人にまで危害が及ぶことになる。
「おっ、お願いです! 奏人だけは――」
「では、手始めに奏人君をイかせてください」
「~~っ、何を言って――」
「分かっただろ。口じゃどうにもなんねーんだよ」
「っ!」
肩を押された。身体が離れてく。それと同時に奏人が大きく踏み出した。ダメだ。止めないと。浮いた足で床を叩く。
「っ!? おいっ!!」
奏人の背中に半ば倒れ込むようにして顔を埋めた。透かさず両手で自由を奪う。
「離せ!!!!」
奏人は僕ごと身体を揺さぶって逃れようとする。でも、絶対に離さない。離したら終わりだ。
「いい加減にしろ!! ~~っ、何考えてんだ!!!!」
「くっくっく……滑稽ですね」
「あ?」
「殴りたいなら殴ってどうぞ。私は一向に構いませんよ」
安い代償なんだろう。痛みと引き換えに得られるスクープ、それに付随する快楽を思えば。
「……っ」
苦渋の選択。どっちも正しくない。誤りだ。間違いなく奏人を傷付ける。けど、もうやるしかない。奏人を在るべき場所に帰すんだ。
「くそっ……ぐっ!? おいっ!」
奏人を羽交い絞めにしたまま、谷原さんの横に倒れ込んだ。全体重をかけて身動きを封じる。
「バカ!! いい加減に――ッ!? ……ふっ、ン……っ!」
「ハァ……っ……」
奏人の耳を食む。コリコリしてる。耳殻に沿って舌を這わせると、切なげな声が返ってきた。
「~~っ、バカ! 何考えて――~~っ、ぁッ!」
穴に舌を捻じ込んだ。途端に抵抗が緩む。耳にキスをすると呼応するように背中が跳ねた。
「あっ! ……や、めっ……っ」
「ふふっ、ははははっ! やはりアナタはイイ」
「~~っ、ナオ! 止めろ! こんな、……っ、~~っ、こんなの……っ」
「っ」
奏人の声が潤み出した。途端に身体が固まる。
「おや? どうしました?」
「~~っ、嫌だ!! なおっ……!!」
動かなきゃ。早く、早く。
「……っ、な、お……っ」
黒目がちな瞳から涙が零れ落ちた。あの日の光景がフラッシュバックする。
「あっ……」
それと同時に、幼い日の僕が現れた。
『カナトはまちがってない! おかしいのはオマエだッ!』
奏人を守りたい。ただその一心で食ってかかる。策も何もあったものじゃない。力任せ。勢いで押し切ろうとしている。
『カナトにあやまれッ!』
そのくせ自信に満ち溢れてる。でもこれは、僕のオリジナルじゃない。モノマネだ。テレビで観たヒーローの模倣。守るためには光の側に立たないといけない。いや、立っていたい。そんな身勝手な願望を抱いていたんだ。――バカだな。本当に。
「…………」
心の荒波がすっと鎮まる。頭が冷えた。すごく落ち着いている。思えばこれは切り替わる時の感覚に近い。僕から奏人へ。奏人から僕へ。
『えっ? ……っ、えっ……』
小さな僕が目に見えて動揺し出す。
『う゛っ、……あっ……~~~どっ、~~っ、どっかいっちゃえ! この――ッ!!!??』
霧散して――消えた。跡形もなく。僕はただ嗤っただけだ。あっけない。くだらないな。本当に。
「……仰向けにしましょう」
「はい」
「っ!? 触んな!!」
暴れる奏人を2人がかりで仰向けにした。
「さぁ、ご存分に」
「ぐっ!? てめぇっ……!!」
谷原さんは膝を、奏人の肘の上に乗せた。両方とも。謂わば磔だ。谷原さんのペニスが奏人の顔に触れる――かと思えば、しっかりと下着の中にしまわれていた。そのことが心底意外で、心底ほっとした。
「~~っ、ナオ、やめ……っ」
奏人の頬に涙が伝う。ごめん。ごめんね。内心で謝って顔を寄せる。
「んっ!? ふっ、んんんん……!!!」
薄い頬を包んで唇を奪う。奏人は更に激しく暴れ出した。首を左右に振ってキスから逃れようとする。望んだ形じゃないからだ。
「やっ、ぁッ……んぅん、んんんッ!」
角度を変えて唇を重ねていく。温かくて、やわらかくて、それでいて仄甘い。苦くも辛くもない。僕はどうなんだろう。やっぱり苦くて辛いのかな。胸に針が刺さる。気のせいだ。意識を隅に追いやって、奏人の唇を吸う。
「がはっ! ごほっ、がはッ!!」
奏人が激しく咽る。苦し気だ。開放して、自分の唇を手の甲で拭った。視線が奏人から外れて、黒い羽毛布団に移る。中途半端だな。心底自分が嫌になる。
「おやおや」
「ッ!? はっ!? おいっ!!」
奏人のズボンがずり落ちた。やったのは無論、谷原さんだ。奏人の少し小ぶりで血色のいいペニスが、谷原さんと僕の目に触れる。
「えっ……?」
「耳舐めと、キスだけで?」
「~~っ」
中心は反り返っていた。奏人は罰が悪そうに目を伏せる。頬は赤く、悔しさからか身が震え出す。
「………………」
「っ!? さわ、んな……っ!!!」
谷原さんの血色の悪い手が奏人のペニスを掴んだ。鷲掴み。酷く乱暴な手つきだ。
「本当に好きなんですね。お兄サマのことが」
「っ!!!! アニキじゃねえ!!! ナオはナオだ!!!!」
同じだ。あの日と。
「……っ」
首を振って幻影を掻き消す。
「尚人君、哀れだとは思いませんか?」
奏人の表情が強張った。身を守ろうとしているんだ。緊張の糸を張り巡らせて。それでも糸は糸。一見鋭利でも脆く、儚い。
「いえ」
僕は否定の声をあげた。谷原さんの視線が僕に刺さる。
「ほう? では、何とお考えで?」
「尊い気持ちです」
率直な思いだ。嘘は一片もない。あるのは身勝手な罪悪感だけだ。
「尊い……ですか。そんな高尚なものではないと思うのですがね」
谷原さんが真に理解する日はきっと来ない。そう思うと何だか哀れで。
「挿れましょうか」
「なっ!? 止めろ!!! この変態ッ!!!!!!!!!」
「なんともまぁ……礼の1つも言えないのですか」
「黙れ!!! このクズ野郎が!!!!」
口を閉ざすべきだ。返せば返すほど大切にしてきた思いを踏みにじられることになる。
けど、言ったところで逆効果。火に油を注いでしまう。だから、一刻も早くこの蛮行を終わらせる。――終わらせるんだ。
「っ! ナオ!! 止めろ!!! ~~っ、ナオ!!!」
奏人の膝を跨いで、穴に指を入れる。あっさり挿った。抱かれることを覚えてしまったんだ。僕はもう文字通りの玩具だ。欠陥品ではあるけれど。
「あっ……」
中に挿れた指が濡れていく。谷原さんの精液と唾液で。
「どうしました? もう十分に解れているでしょう?」
「まっ、待ってください。一度全部出してから――」
「……はっ?」
奏人の瞳が一層黒く、深いものになる。底なしに。恐怖すら抱くほどに――。
怒号が飛ぶ。奏人のものだ。心が潰れる。助けて。救いを求めるように一筋の願いに縋った。
叶うならこのまま消えてしまいたい。僕の存在、そのすべてが消え去れば今のこの状況だって――。
「わっ……!」
腕を引かれた。奏人との距離が縮まる。気付けば目の前に。硬く誇らしい胸に僕の鼻先が触れる。
「っ! だっ、ダメ!」
咄嗟に奏人の胸を押した。
「なっ……」
「っ! ちっ、ちが! ぼっ、僕、汚いから……っ」
手の中には汚れたティッシュ。鼻をすするだけで酸っぱい臭いがする。それに何より――。
「……っ」
尻に力を込める。注意を払いながら穴にティッシュを宛がった。紙が一層湿っていく。
「バーカ」
「んっ……!」
強引に頭を撫でられる。いつものように。乱雑に。
「だっ、ダメ! 汚っ――」
「汚くなんかねぇよ」
奏人は微笑んだ。例えるならそう――すべてを包み込むように。
「……っ……っ、……」
温かい。
涙が溢れ出す。止まらない。
「そうですよ。汚いなんてとんでもない。……最っ高にそそりますよね? 奏人君」
「アンタな……」
一変して凄まじい怒気を帯びる。怖い。矛先は谷原さんに向いている。理解していても息を呑まずにはいられなかった。
「……タダで済むと思ってんの?」
「ええ。何せ私はアナタ方の急所を握ってるんでね」
「はっ、ろくな証拠もねえくせに」
「さて、それはどうでしょう?」
谷原さんの顔が悪意で滲む。マズい。あれを流す気だ。
「まっ、待ってくださ――」
『君達の秘密を知る人間は全部で3人。……武澤 頼人さん、滋田 寛さん、そして僕、留持 涼だ』
「……は?」
奏人の声が引き攣る。驚き、恐怖、怒り。感情が目まぐるしく変化して――。
「留持……ヤローがバラしたのか……」
そのすべてが留持さんに向く。
「違う! 違うんだ。僕が迂闊だったから――」
「お門違いも甚だしい」
「あ?」
「悪いのは留持さんではない。アナタでしょう、武澤 奏人君」
「……………………」
奏人の瞳が暗く、沈んでいく。響いたんだ。みんなの声が、行動が。
「っ! 奏人――っ!」
不意に瞳が鋭くなった。どうして?
「あっ……」
察した。
――力づくで止めるつもりなんだ。
5年前の光景がフラッシュバックする。恐怖で染まったみんなの顔。先生を始めとした協会関係者に何度となく頭を下げる父さん、母さんの姿。四方八方から向けられる軽蔑と危懼の眼差し。
断言出来る。奏人には無理だ。とてもじゃないけど耐えられない。壊れてしまう。心も、身体も、何もかも全部。
「~~っダメだ! 奏人!!」
「そうですよ。暴力に訴えるなど、周囲にどれほどの迷惑がかかることか」
「大丈夫だ。留持の時みたく俺が上手く――」
「分からない人ですね」
「あ?」
「尚人君はね、これ以上アナタに罪を重ねてほしくないのですよ」
「……っ」
奏人の表情が歪む。痛みを感じてくれているんだ。
「……良かった」
「あ?」
奏人の声が怒りと困惑で揺れる。当然の反応だ。我ながら軽率だったと思う。でも、たとえ冷静であったとしても結果は変わらなかった。そのぐらい嬉しかったんだ。
「……ごめん」
「何笑ってんだよ」
奏人を在るべき場所へ、みんなのところに帰す。そのためなら僕は――。
「ここは僕に任せて」
「は?」
「大丈夫だから」
「寝言は寝て言え」
「そうですよ。これで漸く役者が揃ったというのに」
「はっ……?」
血の気が引く。まただ。頭が無意味に回転する。気持ち悪い。
「……奏人には手を出さないって、そう言ってくれたじゃないですか」
声が震える。ダメだ。もっと強く出ないと。
「共に償わずしてどうします。お2人でなさったことでしょう」
首を左右に振る。その度に絶望が深まっていく。だけど、ここで引くわけにはいかない。引けば奏人にまで危害が及ぶことになる。
「おっ、お願いです! 奏人だけは――」
「では、手始めに奏人君をイかせてください」
「~~っ、何を言って――」
「分かっただろ。口じゃどうにもなんねーんだよ」
「っ!」
肩を押された。身体が離れてく。それと同時に奏人が大きく踏み出した。ダメだ。止めないと。浮いた足で床を叩く。
「っ!? おいっ!!」
奏人の背中に半ば倒れ込むようにして顔を埋めた。透かさず両手で自由を奪う。
「離せ!!!!」
奏人は僕ごと身体を揺さぶって逃れようとする。でも、絶対に離さない。離したら終わりだ。
「いい加減にしろ!! ~~っ、何考えてんだ!!!!」
「くっくっく……滑稽ですね」
「あ?」
「殴りたいなら殴ってどうぞ。私は一向に構いませんよ」
安い代償なんだろう。痛みと引き換えに得られるスクープ、それに付随する快楽を思えば。
「……っ」
苦渋の選択。どっちも正しくない。誤りだ。間違いなく奏人を傷付ける。けど、もうやるしかない。奏人を在るべき場所に帰すんだ。
「くそっ……ぐっ!? おいっ!」
奏人を羽交い絞めにしたまま、谷原さんの横に倒れ込んだ。全体重をかけて身動きを封じる。
「バカ!! いい加減に――ッ!? ……ふっ、ン……っ!」
「ハァ……っ……」
奏人の耳を食む。コリコリしてる。耳殻に沿って舌を這わせると、切なげな声が返ってきた。
「~~っ、バカ! 何考えて――~~っ、ぁッ!」
穴に舌を捻じ込んだ。途端に抵抗が緩む。耳にキスをすると呼応するように背中が跳ねた。
「あっ! ……や、めっ……っ」
「ふふっ、ははははっ! やはりアナタはイイ」
「~~っ、ナオ! 止めろ! こんな、……っ、~~っ、こんなの……っ」
「っ」
奏人の声が潤み出した。途端に身体が固まる。
「おや? どうしました?」
「~~っ、嫌だ!! なおっ……!!」
動かなきゃ。早く、早く。
「……っ、な、お……っ」
黒目がちな瞳から涙が零れ落ちた。あの日の光景がフラッシュバックする。
「あっ……」
それと同時に、幼い日の僕が現れた。
『カナトはまちがってない! おかしいのはオマエだッ!』
奏人を守りたい。ただその一心で食ってかかる。策も何もあったものじゃない。力任せ。勢いで押し切ろうとしている。
『カナトにあやまれッ!』
そのくせ自信に満ち溢れてる。でもこれは、僕のオリジナルじゃない。モノマネだ。テレビで観たヒーローの模倣。守るためには光の側に立たないといけない。いや、立っていたい。そんな身勝手な願望を抱いていたんだ。――バカだな。本当に。
「…………」
心の荒波がすっと鎮まる。頭が冷えた。すごく落ち着いている。思えばこれは切り替わる時の感覚に近い。僕から奏人へ。奏人から僕へ。
『えっ? ……っ、えっ……』
小さな僕が目に見えて動揺し出す。
『う゛っ、……あっ……~~~どっ、~~っ、どっかいっちゃえ! この――ッ!!!??』
霧散して――消えた。跡形もなく。僕はただ嗤っただけだ。あっけない。くだらないな。本当に。
「……仰向けにしましょう」
「はい」
「っ!? 触んな!!」
暴れる奏人を2人がかりで仰向けにした。
「さぁ、ご存分に」
「ぐっ!? てめぇっ……!!」
谷原さんは膝を、奏人の肘の上に乗せた。両方とも。謂わば磔だ。谷原さんのペニスが奏人の顔に触れる――かと思えば、しっかりと下着の中にしまわれていた。そのことが心底意外で、心底ほっとした。
「~~っ、ナオ、やめ……っ」
奏人の頬に涙が伝う。ごめん。ごめんね。内心で謝って顔を寄せる。
「んっ!? ふっ、んんんん……!!!」
薄い頬を包んで唇を奪う。奏人は更に激しく暴れ出した。首を左右に振ってキスから逃れようとする。望んだ形じゃないからだ。
「やっ、ぁッ……んぅん、んんんッ!」
角度を変えて唇を重ねていく。温かくて、やわらかくて、それでいて仄甘い。苦くも辛くもない。僕はどうなんだろう。やっぱり苦くて辛いのかな。胸に針が刺さる。気のせいだ。意識を隅に追いやって、奏人の唇を吸う。
「がはっ! ごほっ、がはッ!!」
奏人が激しく咽る。苦し気だ。開放して、自分の唇を手の甲で拭った。視線が奏人から外れて、黒い羽毛布団に移る。中途半端だな。心底自分が嫌になる。
「おやおや」
「ッ!? はっ!? おいっ!!」
奏人のズボンがずり落ちた。やったのは無論、谷原さんだ。奏人の少し小ぶりで血色のいいペニスが、谷原さんと僕の目に触れる。
「えっ……?」
「耳舐めと、キスだけで?」
「~~っ」
中心は反り返っていた。奏人は罰が悪そうに目を伏せる。頬は赤く、悔しさからか身が震え出す。
「………………」
「っ!? さわ、んな……っ!!!」
谷原さんの血色の悪い手が奏人のペニスを掴んだ。鷲掴み。酷く乱暴な手つきだ。
「本当に好きなんですね。お兄サマのことが」
「っ!!!! アニキじゃねえ!!! ナオはナオだ!!!!」
同じだ。あの日と。
「……っ」
首を振って幻影を掻き消す。
「尚人君、哀れだとは思いませんか?」
奏人の表情が強張った。身を守ろうとしているんだ。緊張の糸を張り巡らせて。それでも糸は糸。一見鋭利でも脆く、儚い。
「いえ」
僕は否定の声をあげた。谷原さんの視線が僕に刺さる。
「ほう? では、何とお考えで?」
「尊い気持ちです」
率直な思いだ。嘘は一片もない。あるのは身勝手な罪悪感だけだ。
「尊い……ですか。そんな高尚なものではないと思うのですがね」
谷原さんが真に理解する日はきっと来ない。そう思うと何だか哀れで。
「挿れましょうか」
「なっ!? 止めろ!!! この変態ッ!!!!!!!!!」
「なんともまぁ……礼の1つも言えないのですか」
「黙れ!!! このクズ野郎が!!!!」
口を閉ざすべきだ。返せば返すほど大切にしてきた思いを踏みにじられることになる。
けど、言ったところで逆効果。火に油を注いでしまう。だから、一刻も早くこの蛮行を終わらせる。――終わらせるんだ。
「っ! ナオ!! 止めろ!!! ~~っ、ナオ!!!」
奏人の膝を跨いで、穴に指を入れる。あっさり挿った。抱かれることを覚えてしまったんだ。僕はもう文字通りの玩具だ。欠陥品ではあるけれど。
「あっ……」
中に挿れた指が濡れていく。谷原さんの精液と唾液で。
「どうしました? もう十分に解れているでしょう?」
「まっ、待ってください。一度全部出してから――」
「……はっ?」
奏人の瞳が一層黒く、深いものになる。底なしに。恐怖すら抱くほどに――。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる