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プロローグ
第九話 ノアの過去
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私が生まれたのは今から二千年ほど前。
お父さんは私が生まれた時には既に神のもとに旅立っていたとお母さんが教えてくれた。
私はいつもお母さんと一緒にいた。遊ぶ時も、食事をするときも、寝る時も――
お母さんは私にいろんなことを教えてくれた。
「お母さん!今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」
まだ子供で、小さかった頃の私はお母さんの温かい翼に抱きしめられながら寝る前にいつも聞かせてくれるお母さんの経験談を聞いた。
「はいはい。今日は人間の街について話すわね」
お母さんは私のことを優しい眼で見つめながらお話を始めた。
「お母さんはね。何度か人化して人間の街に行ったことがあるの。人間の街はね、新しい発見がいっぱいあるの。特によかったのは食事ね。人間の食事は絶品だったわ。あの食べ物を一度食べてしまったら、暫くの間はいつも食べている食べ物がまずく感じてしまうほどにはね」
「そうなの?私も行ってみたい!」
私はこの時、人間の街に入ったら、真っ先に食べ物を食べようと心に決めた。
「はいはい。だけど人化が出来るようになるまでは絶対に行っちゃだめよ。この姿のままいってしまったら人間は怯えてしまうからね。あと、服というものを体に身に着けなくてはいけないわ。あれは絶対よ……うん。あれは本当にね……」
お母さんは何かを思い出したような顔をすると、顔を横にそらした。
「ただ、作るのが難しすぎるから昔のお母さんみたいにここに来た人間に頼むのが一番いいと思うわ」
「うん。分かった」
お母さんの話は楽しかった。中でも人間に関するものは聞けば聞くほど行きたいと思えるものだった。
でも、そんな楽しい日々の終わりは、ある日突然やってきた。
ある日、お母さんはドラゴンの友達に会いに行く為に外に出た。私はここでお留守番。
「お母さん早く帰ってこないかな~」
私は出入り口を眺めながらお母さんが帰ってくるのを待っていた。
数日後、お母さんは帰ってきた。
でも、様子がおかしい。
近づいてみると、お母さんは体中に深い傷を負っており、いつ死んでもおかしくない状態だった。
「お、お母さん!大丈夫?誰にやられたの?」
私は急いでお母さんの真横に駆け寄った。
「ええ……実はこの姿で飛んでいたところを人間に見られたの。そして、友達と会い、帰ってくる時にその人間が呼んだであろう人間に待ち伏せされて、襲われた……でも、これは私が人の姿になっていればよかっただけのこと……人は、悪くない……だからこのことで人を恨んで、街を襲っちゃだめよ……ノア、私と同じ過ちをしてはダメよ……」
お母さんのぬくもりは、徐々に失われていった。
「お、お母さん!死なないで!」
私は弱っていくお母さんを見て、ただただ泣き叫んだ。
「ノ……ア……幸せに……生きて……」
最後の力を振り絞すようにしてお母さんは私の幸せを願った。
そして、それと共にお母さんは息を引き取ってしまった。
「お、おがあざん……」
私は冷たくなったお母さんを何日も抱きしめた。
その後、ようやく冷静になれた私はお母さんを埋葬した。埋葬した場所は、お母さんから楽しい話を聞かせてもらっていた思い出の場所にした。
その後、私はたった一人で生き続けた。その間に私は人化が出来るようになっていた。
この洞窟には、数十年に一度、人間が入ってくることがある。私は、その人間に街の案内と、服を作ってもらうよう頼んだ――いや、頼もうとした。
この姿では、近づいた瞬間に襲われる。
私はかなり強い。その為、誰も殺さずに勝ち、会話をすることなんて容易い。だけど、私はそれが出来なかった。
襲ってくる人間を見ると、お母さんのことを思い出してしまう。そして我を忘れ、気が付いた時には、全員を消し炭にした後だった。
人化して近づいても、何故か襲われてしまう。どうやら人間の世界では服がというものを体に身につけないと、問答無用で襲われてしまうようだ。
私は人間を殺したことを後悔した。お母さんを殺したのは人間なのに――
ここで、私は気がついた。もし、お母さんがあの時に街を襲わないでほしいと言わなかったら、私は人間を殺すことを一切後悔しない――それどころか人間を滅ぼそうとする。そんな極悪非道な生物に成り下がっていたのかもしれないと――
あの時はただ、お母さんが優しすぎるから、そう願ったのだと思った。だけど、今考えるとお母さんは、私が堕ちてしまわないように、そう願ったのだと気づいた。
そのことに気づいた時、私は数百年ぶりに涙を流した。
私は数百年間、ずっと独りぼっちだった。
だけど、そんな虚しい日々に今日、終止符が打たれた。
カインという人間が私と会話をしてくれた。
そして、服も作ってくれた。
更に、友達にもなってくれた。
私はカインとずっと一緒にいると決めた。カインと一緒に、人間の街で――
「楽しみ……」
私は、いつの間にか寝てしまったカインの横に寝転がった。
そして、小さく寝息を立てているカインを、そっと抱きしめた。
お父さんは私が生まれた時には既に神のもとに旅立っていたとお母さんが教えてくれた。
私はいつもお母さんと一緒にいた。遊ぶ時も、食事をするときも、寝る時も――
お母さんは私にいろんなことを教えてくれた。
「お母さん!今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」
まだ子供で、小さかった頃の私はお母さんの温かい翼に抱きしめられながら寝る前にいつも聞かせてくれるお母さんの経験談を聞いた。
「はいはい。今日は人間の街について話すわね」
お母さんは私のことを優しい眼で見つめながらお話を始めた。
「お母さんはね。何度か人化して人間の街に行ったことがあるの。人間の街はね、新しい発見がいっぱいあるの。特によかったのは食事ね。人間の食事は絶品だったわ。あの食べ物を一度食べてしまったら、暫くの間はいつも食べている食べ物がまずく感じてしまうほどにはね」
「そうなの?私も行ってみたい!」
私はこの時、人間の街に入ったら、真っ先に食べ物を食べようと心に決めた。
「はいはい。だけど人化が出来るようになるまでは絶対に行っちゃだめよ。この姿のままいってしまったら人間は怯えてしまうからね。あと、服というものを体に身に着けなくてはいけないわ。あれは絶対よ……うん。あれは本当にね……」
お母さんは何かを思い出したような顔をすると、顔を横にそらした。
「ただ、作るのが難しすぎるから昔のお母さんみたいにここに来た人間に頼むのが一番いいと思うわ」
「うん。分かった」
お母さんの話は楽しかった。中でも人間に関するものは聞けば聞くほど行きたいと思えるものだった。
でも、そんな楽しい日々の終わりは、ある日突然やってきた。
ある日、お母さんはドラゴンの友達に会いに行く為に外に出た。私はここでお留守番。
「お母さん早く帰ってこないかな~」
私は出入り口を眺めながらお母さんが帰ってくるのを待っていた。
数日後、お母さんは帰ってきた。
でも、様子がおかしい。
近づいてみると、お母さんは体中に深い傷を負っており、いつ死んでもおかしくない状態だった。
「お、お母さん!大丈夫?誰にやられたの?」
私は急いでお母さんの真横に駆け寄った。
「ええ……実はこの姿で飛んでいたところを人間に見られたの。そして、友達と会い、帰ってくる時にその人間が呼んだであろう人間に待ち伏せされて、襲われた……でも、これは私が人の姿になっていればよかっただけのこと……人は、悪くない……だからこのことで人を恨んで、街を襲っちゃだめよ……ノア、私と同じ過ちをしてはダメよ……」
お母さんのぬくもりは、徐々に失われていった。
「お、お母さん!死なないで!」
私は弱っていくお母さんを見て、ただただ泣き叫んだ。
「ノ……ア……幸せに……生きて……」
最後の力を振り絞すようにしてお母さんは私の幸せを願った。
そして、それと共にお母さんは息を引き取ってしまった。
「お、おがあざん……」
私は冷たくなったお母さんを何日も抱きしめた。
その後、ようやく冷静になれた私はお母さんを埋葬した。埋葬した場所は、お母さんから楽しい話を聞かせてもらっていた思い出の場所にした。
その後、私はたった一人で生き続けた。その間に私は人化が出来るようになっていた。
この洞窟には、数十年に一度、人間が入ってくることがある。私は、その人間に街の案内と、服を作ってもらうよう頼んだ――いや、頼もうとした。
この姿では、近づいた瞬間に襲われる。
私はかなり強い。その為、誰も殺さずに勝ち、会話をすることなんて容易い。だけど、私はそれが出来なかった。
襲ってくる人間を見ると、お母さんのことを思い出してしまう。そして我を忘れ、気が付いた時には、全員を消し炭にした後だった。
人化して近づいても、何故か襲われてしまう。どうやら人間の世界では服がというものを体に身につけないと、問答無用で襲われてしまうようだ。
私は人間を殺したことを後悔した。お母さんを殺したのは人間なのに――
ここで、私は気がついた。もし、お母さんがあの時に街を襲わないでほしいと言わなかったら、私は人間を殺すことを一切後悔しない――それどころか人間を滅ぼそうとする。そんな極悪非道な生物に成り下がっていたのかもしれないと――
あの時はただ、お母さんが優しすぎるから、そう願ったのだと思った。だけど、今考えるとお母さんは、私が堕ちてしまわないように、そう願ったのだと気づいた。
そのことに気づいた時、私は数百年ぶりに涙を流した。
私は数百年間、ずっと独りぼっちだった。
だけど、そんな虚しい日々に今日、終止符が打たれた。
カインという人間が私と会話をしてくれた。
そして、服も作ってくれた。
更に、友達にもなってくれた。
私はカインとずっと一緒にいると決めた。カインと一緒に、人間の街で――
「楽しみ……」
私は、いつの間にか寝てしまったカインの横に寝転がった。
そして、小さく寝息を立てているカインを、そっと抱きしめた。
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