Bon voyage! ~10億円でスキルを買って楽しい異世界移住~

市々ふた枝

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*65 平凡なりにも色々ある *

 さて、マートルが紹介してくれたアリス・コートニーさんとボブ・ヒューズさんだが、結論から言うと、二人とも採用することにした。
 コートニーさん──アリスと呼んでくれてかまわないとのことなので、アリスと呼ぶが──彼女は、マートルが連絡をした翌日には、店に来てくれた。
 彼女は、ヤギのような角と目を持っていた。肌の色が白いけど、それ以外は普通? 山羊族の人頭獣人族です、って言われても信じそうだ。魔人族の人は初めて会うが、悪魔みたいなおどろおどろしい姿じゃないんだなと、ちょっと胸をなでおろす。
「今は日雇いで食いつないでるんで、稼ぎが日によってバラバラなんです。だから、毎月決まった額がもらえるんなら、ぜひとも働かせてくださいっ!!」
 挨拶もそこそこに、アリスは前のめりで訴えてきた。雇ってもらおうと必死なのだろう。
 スキル社会の世の中、アラサーともなれば、就職活動は厳しいと聞く。仮に就職できたとしても、スキルがなければ低賃金な上に長時間労働となってしまうそうだ。
 日本の労働基準を知っている俺からしてみれば、ありえない話である。スキルなんて、向上心があれば、年齢なんて関係ない。学び始めるのに、遅すぎるなんてことはないのだ。
 着ている服は粗末だけど、身だしなみは整えている。生活が荒れている人は〈清潔〉すら、使おうとしないからな。不潔が歩いてるって感じ。匂いも酷い。
 暗い顔が気になったんだが、それは性格的なものではなく、日々の生活に不安を抱えていることが原因のようだ。話をしているうちに、この人は接客向きのざっくばらんな性格をしてるんだって、分かってきた。姐さん、とか言われちゃうタイプ。いいね。欲しい人材だ。
 子供さんのこともあって、勤務時間はどうしても短めになってしまう。本人と話し合いの結果、給料は時給制とすることにした。もちろん、今後の働き方次第、身に着けたスキル次第で昇給アリである。
 また〈デザイン〉という特殊なスキルを持っていたので、そのスキルを活かした副業をしてみてはどうかと提案。
 最初は苦しいかも知れないが、そのうち子供さんの保育園料くらいは、〈デザイン〉スキルで稼げるようになるだろう。場合によったら、本業よりも稼げるかも知れない。
 明日からでも働けるということなので、早速、明日から来てもらうことにした。頼りにさせてもらおうと思う。
 続いて、ボブ・ヒューズさん。こちらもボブと呼んでくれとのことなので、そう呼ばせてもらう。さて、彼は同性婚をしていて、五歳の子供がいるそうだ。
 店の開店資金が貯まったから、開店準備をしようと考えていたときにパートナーの妊娠が発覚。開店までは、そっちの収入をあてにしていたから、こりゃイカンとなって、慌ててギルドに登録し、就職したそうな。
「今思えば、慌てすぎたって……後悔してる……」
 しょんぼりと肩を落とすボブ。登録したディ・マリヤーノ料理人ギルドは、貴族に料理を作りたい人向けのところ。就職先は、ルチアーノというレストランで、お金持ちの庶民向けの店。彼が開きたいと思っていた店が、そういう店だったら全然かまわなかったのだが、
「おれがやりたい店は、この店みたいな感じで……」
「ダメじゃん」
 間髪入れずにツッコめば、彼はますますションボリ、ショボン。人間関係がうまくいっていないらしい。非常に居心地が悪いのだが、生活のことを考えると辞めるに辞められなくて、しんどいそうな。パートナーや子供さんにも心配をかけており、非常に心苦しいのだとか。
「俺は考えるの苦手で、思い付きで行動することが多くて……俺ってヤツは、なんてダメな男なんだ」一人、反省会を開き始めるボブ。
 いいけどさ。今、面接してるんだって分かってるか? その一人反省会に、半ば強引に乗り込んで行ったのはオルレアである。
「分かる! 分かるよ! ぼくも考えるのは苦手なんだ!」
 何か、意気投合してるし。俺だけ仲間外れ。ちょっと、寂しいんですけどー。
 でも、この様子だとオルレアともうまくやっていけそうだし、ルチアーノで働いていた経験は、貴重なものだと思う。経営方法とか、ぜひとも参考にさせてもらいたい。
「ボブー。ボブさんや。いつからうちで働けるか聞いていい~?」
「へ? えっと、二カ月後……くらい? か? もうちょっと早く働けるかも知れないが、確実なのは二カ月後だな。明日からルチアーノには行きませんってのは、無理な話だし……」
「分かった。じゃあ、二カ月後にはルチアーノを辞めて、うちで働くってことで」
 その頃には、アリアンポートの出店場所も決まり、本格的な準備がスタートしている頃のはず。実は、先日、センテクレール通りと探索者通りの交差点に建っているティリーズアパートの一階にある空き店舗を紹介してもらえたのだ。
 いやあ、長かった。オルレアの店で俺が働くのではなくて、俺の店でオルレアに働いてもらうと決めてから、すぐに商業ギルドに出店場所探しを頼んでたんだよ。でも、なかなか俺の希望に合う物件を紹介してもらえなくて。いい加減キレそうになっていたとき、エルに愚痴を聞いてもらったんだ。そうしたら、
「そりゃ、紹介状がねえと厳しいだろうな。コネがねえと軽く見られがちだからな」
 お金だけあってもダメなんだそうだ。俺が、ぱっかーんと口を台形に開けていると、
「〈星烏〉の名前で紹介状書けないか頼んどくから、ちょっと待ってろ」
 エルがそう言ってくれた。言葉の通り、三日後くらいに紹介状をくれて、それを持って商業ギルドに行った結果、紹介してもらえたのが、ティリーズアパートの一階、というわけだ。

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