Bon voyage! ~10億円でスキルを買って楽しい異世界移住~

市々ふた枝

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 タリーの台所は、閉店した。とはいえ、すぐに屋台営業を始めることはできない。まずは、店を片付けなくてはならない。次は雑貨店が入るので、すべて撤去。魔道具関連は、マッキーさんが回収してくれた。
 その他もほとんどの物をリサイクル業者に回収してもらう。手元に残ったのは、タリーの台所のレシピ本の他、包丁やまな板などの道具類。これらの物は、オルレアがアリアンポートでも使いたいとのことなので、オルレア専用として使うことにする。
 さて、屋台営業のほうだ。大きさは、縁日などで見かける屋台を二台並べたくらい。こっちの基準でも、やや大きめになる。テイクアウトだけでなく、その場でも食べられるようにするので、どうしてもこれくらいの大きさは必要なのだ。
「は~……朝晩は冷え込むようになってきたな」
「そうですね。来月あたりになったら、雪も降りますよ」
「え? マジ? 積もる?」
「うっすら、雪化粧って感じですか。山のほうに行けば積もるみたいですけど、ここらあたりだと、積もってもせいぜいこれくらい、かな」
 ボブが言うこれくらいとは、五センチくらいだった。
「ガキの頃は、雪が積もると嬉しくてはしゃいだもんですけど、大人になった今は迷惑でしかないですね。寒いし、滑るし、溶けたらべしゃべしゃになるし……」
「そうだなあ」
 分かる。よく分かる。俺がうなずいていると、
「特にダンジョン帰りはサイアクですよ。大抵は震えながら帰らないといけなくて……」
 はーっと大きなため息をつくボブ。
 帰りは雪が降ってるかもしれないからと、防寒具を荷物の中に入れておく余裕のある探索者なんて、ほんの一握り。たいていの探索者は、そんな余裕はないらしく、小走りで帰りながら寒さをごまかすんだそうだ。
「疲れてるだろうに小走りとは、大変だねえ」
「いや、まったく。エルナトさん、本格的な冬の前に出てこれたらいいんですけどね」
「どうなんだろうねえ」
 そこらへんのことは、まったく知らない。
 エルは、半月ほど前に、いつぞやのアマゾネスに引きずられて、ダンジョンへ行っている。タリーの台所の最後に立ち会うんだ、参加しねえとわめいていたが、アマゾネスには勝てなかった。
 よほどのことがない限り、女性には逆らわないほうが賢明だと思うぞ。俺は。
 ところで、屋台のメニューだが一番のお得意さんになるであろう、大工の人たちから
「肉! 肉が食いたい」とリクエストをもらってしまった。
「朝から?」
「肉食系の獣人族は食うぞ。味も濃い目のほうが好まれる」
 なるほど。言われてみれば、マートルの言う通りかも。それで思いついたのが、丼ものである。ライスも問題ないとのことだったので、焼肉丼を提供することにした。オニギラズの具材とかぶるので、仕込みは一緒だしな。
 というわけで、テイクアウト用にオニギラズと肉まん、あんまん。その場で食べられる系として、焼肉丼。売れ行きによっては、カツ丼やからあげ丼なども考える。
 ガッツリ系はちょっと……という人には、クロックマダムかクロックムッシュ。野菜多めの日替わりスープ。飲み物はカヒエと紅茶、ジンジャーティーを用意。
 ランチはもちろんコシードである。それから、その日の仕入れによって、大皿料理を用意するつもり。唐揚げやフライドポテトなどは常時用意するつもりでいるが。
 あれもこれもと欲張れるのも、すべて〈収納〉があるおかげだ。いい買い物をしたな、俺。
 とはいえ、俺の〈収納〉頼みでは困る部分もある。俺が調理をしているときに、アレください、コレ出してください、と言われることだ。
 そのあたりのことについては、某小学生男子のように「マキえ~もぉ~ん!」と心の中で呼びかけつつ、マッキーさんに相談した。彼に相談すれば、道具回りのことはたいてい解決する。
 相談しといてなんだけど、マジであの人、おかしいからな。
 こっちが「こういうのがほしいんだけど」と言うと返って来るのは、「あるよ~」か「作れるよ~」のどっちか。あの頭ン中、マジでどうなってんだろうな。
 おまけに納期の短いこと、短いこと。依頼した屋台が、一か月ちょいで納品されたのには驚いた。屋台を作ってくれた大工さん曰く、魔道具を作るのがめちゃくちゃ早いんだそうだ。
「そのくせ、この品質だろ? ありゃ、とんでもねえ、バケモン錬金術師だわ」
 と、大工さん。素人の俺でもそう思うくらいなんだから、マッキーさんのすごさは、チート系マンガの主人公かっ! っていうくらい、抜きんでているのだと思う。
 でも、そのバケモンクオリティーが、俺たちには必要なんだよな。屋台用に作ってもらったのは、大容量の収納スペースを備えた棚と冷蔵、冷凍庫。コンロと蒸し器、トースター。
 何より俺を喜ばせたのは、レジと会計ソフトもどきの存在である。
「はわわわわ。マジ? これ、マジなの?」
「POSレジもどきだねえ。将来的には無線でデータを飛ばせるようにしたいけど、今はまだこのUSBもどきの抜き差しでしか、データを移動させられないんだ。パソコンもどきも会計ソフトもどきオンリーだしねえ」
 そんな贅沢、言わないから! これだけで、事務仕事がめちゃめちゃ楽になる! 俺の最大の懸念事項が、今この時をもって解決したのである!
 マジで、マッキーさんを拝む日々である。

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