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ハロウィン
しおりを挟む「トリックオアトリート‼」
魔女っ子衣装に身を包んだ細莉が両手を差し出しながら、満面の笑みを浮かべた。
ハロウィン当日。
都心部にでも繰り出せば、日常から羽目を外した仮装パーティーが街を支配しているのだろうが、あいにくとそんなところに行くほど陽キャとして人生を謳歌していない。
今年もスーパーのポップ程度でしかハロウィンを感じることなく終わるものと思っていた蓮だったが、どうやらそんな甘えは許されなかったらしい。
街中でいきなり現れた魔女っ娘を見て、最初は知り合いだと思われないように無視しようかと考えもしたが、少し周りを見回してみれば、意外にもコスプレ姿で歩く人は目についた。
興味がなかっただけで、結構この辺りもちゃんとハロウィンしていたんだなと言い様のない虚しさを感じつつ、それでも奇異の目で見られないならば付き合ってやるかと蓮は改めて目の前の魔女っ娘に向き直った。
だが、向き直ったところで期待に沿えるかは別問題。
学校帰りだったため、蓮は制服姿。鞄にお菓子を常備してもいない。
つまり、現状トリック一択になってしまう。
素直にいたずらを受けるのも面白くない。
だから、蓮は言葉の意味を曲解することにした。
差し出されている細莉の手を取り、親指と人差し指の間にあるツボを思い切りギューと押し込んでみる。
「ほぎゃあああああああああああああああああ⁉」
「悪いな。あいにくお菓子を持っていないから、いたずらで勘弁してくれ」
「いたずらはこっちがするの‼ お菓子かいたずらを選べって、いたずらするか選べって意味じゃないから‼ お菓子を出すかいたずらを受けるかって意味だから‼」
腕をぶんぶん振って蓮のいたずらから脱出した細莉は涙目だ。
押したツボは疲労感とかに効くツボだったはず。
心労含めて色々と溜まっているのが透けた気もするが、とりあえずこれでお膳立ては揃った。
猫のように蓮を威嚇する細莉に今度は蓮が手を差し出す。
「トリックオアトリート」
「…………はっ‼」
この野郎、何も渡さないままよくもぬけぬけと……。
今やられたみたいにいたずらをし返してやる!
なんてことを思った細莉だったが、この場に張られた罠に気付いて目を見開いた。
たった今、細莉は自分でその仕返しのための言い訳を潰してしまった。
いたずらをするのは問い掛けた側だと。
つまり、今の細莉はお菓子を差し出すかいたずらを受けるしかない。
悔しそうに細莉の体がプルプル震える。
まさか、お菓子も貰えず、いたずらも出来ず、それどころかいたずらを受けるだけになってしまうなんて思ってもいなかった。
いたずらがイチャイチャできる感じのだったら、別に何の迷いもなくいたずらしてって言えるのだが、あいにくと手のツボをグイ押しされた直後。
きっといたずらを選んだら、またあの激痛を味わうことになる。
あいにくと好きな人にいじめられて、それに喜びを見出すドM気質ではない。
こうなってしまえば、細莉が選ぶ選択肢は一つしかなかった。
「ト、トリート……」
「よし、じゃあお菓子出せ」
もはや、やってることはカツアゲと何ら変わらない気もするが、それでもこれは罠にかかった自分のミス。
くっころ真っ最中の女騎士のような顔で、細莉は魔女っ娘衣装のポケットからお菓子を取り出した。
「はい、手作りクッキー」
ビシリと蓮が石化し、同時にひび割れていく。
完璧な作戦のはずだった。
自分が終始有利に立つ完璧な流れのはずだった。
しかし、まさかこんなどんでん返しが待っているなんて……!
レンチンしかまともに出来ない細莉なら、市販のお菓子が出てくるはず
そんな先入観を持った自分を心底恨む。
レンチンで作るクッキーレシピは存在するのだ。
震える手でクッキーの入った袋を受け取り、中のクッキーを取り出す。
見た目は意外にも普通だ。
けど、見た目が大丈夫ならば味も大丈夫なんて安心はしない。
トリックの延長でクッキーを握りつぶすなんてことも出来なくはないが、さすがにそこまでやるのは人としてダメだろう。
要求したのは自分……。
これは自分が招いた悲劇なのだ。
全てを諦め、受け入れた蓮はクッキーを一枚口に放り込んだ。
そして……。
地面に倒れ伏した蓮は、今回は痛み分けだなと思いながら、意識を手放すのだった。
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