不器用だけど…伝わって‼

さごち

文字の大きさ
41 / 41

ハロウィン

しおりを挟む

「トリックオアトリート‼」

 魔女っ子衣装に身を包んだ細莉が両手を差し出しながら、満面の笑みを浮かべた。
 ハロウィン当日。
 都心部にでも繰り出せば、日常から羽目を外した仮装パーティーが街を支配しているのだろうが、あいにくとそんなところに行くほど陽キャとして人生を謳歌していない。
 今年もスーパーのポップ程度でしかハロウィンを感じることなく終わるものと思っていた蓮だったが、どうやらそんな甘えは許されなかったらしい。
 街中でいきなり現れた魔女っ娘を見て、最初は知り合いだと思われないように無視しようかと考えもしたが、少し周りを見回してみれば、意外にもコスプレ姿で歩く人は目についた。
 興味がなかっただけで、結構この辺りもちゃんとハロウィンしていたんだなと言い様のない虚しさを感じつつ、それでも奇異の目で見られないならば付き合ってやるかと蓮は改めて目の前の魔女っ娘に向き直った。
 だが、向き直ったところで期待に沿えるかは別問題。
 学校帰りだったため、蓮は制服姿。鞄にお菓子を常備してもいない。
 つまり、現状トリック一択になってしまう。
 素直にいたずらを受けるのも面白くない。
 だから、蓮は言葉の意味を曲解することにした。
 差し出されている細莉の手を取り、親指と人差し指の間にあるツボを思い切りギューと押し込んでみる。

「ほぎゃあああああああああああああああああ⁉」
「悪いな。あいにくお菓子を持っていないから、いたずらで勘弁してくれ」
「いたずらはこっちがするの‼ お菓子かいたずらを選べって、いたずらするか選べって意味じゃないから‼ お菓子を出すかいたずらを受けるかって意味だから‼」

 腕をぶんぶん振って蓮のいたずらから脱出した細莉は涙目だ。
 押したツボは疲労感とかに効くツボだったはず。
 心労含めて色々と溜まっているのが透けた気もするが、とりあえずこれでお膳立ては揃った。
 猫のように蓮を威嚇する細莉に今度は蓮が手を差し出す。

「トリックオアトリート」
「…………はっ‼」

 この野郎、何も渡さないままよくもぬけぬけと……。
 今やられたみたいにいたずらをし返してやる!
 なんてことを思った細莉だったが、この場に張られた罠に気付いて目を見開いた。
 たった今、細莉は自分でその仕返しのための言い訳を潰してしまった。
 いたずらをするのは問い掛けた側だと。
 つまり、今の細莉はお菓子を差し出すかいたずらを受けるしかない。
 悔しそうに細莉の体がプルプル震える。
 まさか、お菓子も貰えず、いたずらも出来ず、それどころかいたずらを受けるだけになってしまうなんて思ってもいなかった。
 いたずらがイチャイチャできる感じのだったら、別に何の迷いもなくいたずらしてって言えるのだが、あいにくと手のツボをグイ押しされた直後。
 きっといたずらを選んだら、またあの激痛を味わうことになる。
 あいにくと好きな人にいじめられて、それに喜びを見出すドM気質ではない。
 こうなってしまえば、細莉が選ぶ選択肢は一つしかなかった。

「ト、トリート……」
「よし、じゃあお菓子出せ」

 もはや、やってることはカツアゲと何ら変わらない気もするが、それでもこれは罠にかかった自分のミス。
 くっころ真っ最中の女騎士のような顔で、細莉は魔女っ娘衣装のポケットからお菓子を取り出した。

「はい、手作りクッキー」

 ビシリと蓮が石化し、同時にひび割れていく。
 完璧な作戦のはずだった。
 自分が終始有利に立つ完璧な流れのはずだった。
 しかし、まさかこんなどんでん返しが待っているなんて……!
 レンチンしかまともに出来ない細莉なら、市販のお菓子が出てくるはず
 そんな先入観を持った自分を心底恨む。
 レンチンで作るクッキーレシピは存在するのだ。
 震える手でクッキーの入った袋を受け取り、中のクッキーを取り出す。
 見た目は意外にも普通だ。
 けど、見た目が大丈夫ならば味も大丈夫なんて安心はしない。
 トリックの延長でクッキーを握りつぶすなんてことも出来なくはないが、さすがにそこまでやるのは人としてダメだろう。
 要求したのは自分……。
 これは自分が招いた悲劇なのだ。
 全てを諦め、受け入れた蓮はクッキーを一枚口に放り込んだ。
 そして……。

 地面に倒れ伏した蓮は、今回は痛み分けだなと思いながら、意識を手放すのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

処理中です...