冴えないゾンビの従魔生活 ~俺の甲冑は砕けない~

桐生デンジ

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第二章 ぼく、ジュリオ!悪いゾンビじゃないよ!

第十六話 続・童話と過去

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 結局その日、俺のところにザバルードが訪れることはなかったが、夜になってルアたちがベッドから起き出してきた際、さっそく先ほどの疑問について、セシリアさんに尋ねてみることにした。

<こんばんは、セシルさんとリアナさん。ちょっと質問があるんですけど…この本について。>

 丸テーブルの前の椅子に腰かけ、髪に寝ぐせがついたまま、まだ眠そうに目をこすっているセシリアさんに、俺は「英雄マコトの邪竜討伐譚」を差し出した。
 彼女は本を手に取り、半目を開けたままぱらぱらとページをめくりながら、喋り始めた。

「ああ、この本…そういえばあそこの棚に置いてあったわね。あなたが聞きたいことは分かるわ。物語に登場する吸血鬼たちが、私たちのことなんじゃないかって疑っているんでしょう?…その通りよ。私たちはその頃若くて若くて、吸血鬼の慣習に従順な、吸血鬼だったわ。ただ、その純粋さがね、悲劇を生んでしまったのだけれど……」

 セシリアさんはうっすらと頬に笑みを浮かべていたが、その目は本のページを直視して、少しも笑ってはいなかった。
 いつの間にか、ルアも真面目な表情で、ベッドに座りながら、セシリアさんの話を聞いていた。

「今でもはっきり覚えているわ。あの時ザバラナディが私たちの谷を占拠して、私たちは逃げ出す他無かった。でも、マコトたちに合流して、一緒に戦えばきっと、谷を、皆の谷を、取り戻せるんじゃないかと思って。彼についていくことに決めたのよ。」

「でもね…その本を読んだなら分かっていると思うけれど、ザバラナディはマコトとあの3匹のドラゴン、そして私たちが束になって掛かっても、傷一つ付かないほどに硬い鱗に全身を包んでいたのよ。あのままでは負けが確実だということは火を見るより明らかだった。だから私たちは…融合をすることに決めたの。私たちは大の仲良しで、いつも何をするにも一緒だったから、身体を共有していたって、大して変わらないと思ったのよ。それに、ザバラナディを倒して、吸血鬼の仲間たち皆にも、居場所を取り戻してあげたかった。融合は吸血鬼の間での禁術の一つとして、もし使ってしまったら、重い罰が与えられるものだということは、知っていたんだけれど、戦いの最中、負けが見え始めていた私たちに、生き残るための選択肢はそれしか無かったと思うわ。」

「そうして、私たちは無事にザバラナディを封印することができたのよ。そしてね、しばらくしたら、谷に仲間の吸血鬼たちが少しずつ戻ってきたの。私は仲間を救うことができた喜びで、彼らに駆け寄ったわ。さて、ジュリオ、その吸血鬼たちは、私にどんな言葉を投げかけたと思う?」

 どんな言葉…そりゃあ、住処を取り戻してくれた英雄なんだから、褒めたたえたんだろうと思うけど、違うのか?

「きっとあなたの思っているものとは真逆の答えが返ってきたのよ。融合の秘術を使った吸血鬼は、悪魔に魂を売ったも同然。仲間として認める価値は無い、…って。」

「私はそれを聞いて、とても悲しい気持ちになって、なぜだろうと思いながらも、黙って谷を出ようとしたわ。ルールはルールだもの、仕方ない。なんて、本気で思っていたのよ。腹が立つほど純粋、っていうのかしら。……いいえ、ただ単純に優柔不断だっただけね。自分だけの価値観を持つことって、何より大事だって思うわ。」

 セシリアさんは目を瞑って、頷きながら続けた。

「そしたらね、谷を出ようとする私に向かって、ナイフを片手に武装したかつての仲間たちが、全員揃って追いかけてきたの。きっと、悪魔を取り逃すことは他の全ての命にも悪影響を及ぼすと思ったのでしょうね。吸血鬼って、恐ろしいほど信仰心が強いから。
 その光景を見て恐ろしくなった私は、必死で、先頭にいた男の振りかぶるナイフを払おうと空を一閃、手で薙いだの。そうしたら、前にいたはずのたくさんの仲間たちは視界から消え去って、腹を真っ二つに分断された死体がたっくさん、静かに地面に転がっていたのよ。」

「何が起こったのかも分からないまま、私は谷から逃げるように走り出ようとしたんだけれど、どこからともなく、赤ちゃんの嘆くような声が、私の耳に届いたの。」

「何故かは分からないわ。自然と、私はその声の方へと歩いていって、布に横たわっている一人の赤ん坊を抱きあげた。理由の知れない涙が私の頬を伝って、抱きしめたその子の額に流れ着くと、私は決意したわ。その子の親を殺してしまった私が……ルアリを、自分の家族として、育て上げてみせる、って。罪滅ぼしっていうわけじゃないけれど、なんだかルアリとの間には不思議な、不死議な縁を感じたのよ。」

「…まあ、そんなわけで今に至るのよ。知らなかったでしょう、ルアリ?」
「ぐー…ぐー…すぴー」
「……なによ、寝ちゃってたのね。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 セシリアさんの悲劇を耳にした俺は、なんとも言えない気持ちで、黙りこくっていた。勇者のマコトたちはハッピーエンドだったみたいだけど、セシリアさんはその裏で辛い思いをしていたんだな。

「なあに、もう200年も前の話よ!今更なーんにも気にしてないんだけどね!」

 びっくりした。いきなり立ち上がって元気にならないでくださいよ(意味深)

 ……ちょっと待てよ。200年前だって?
 そりゃ、伝記みたいなものとして本になってるわけだから、それなりに昔だろうとは思うけど…。
 これってつまり、200年前からセシリアさんとルアは一緒にいて、セシリアさんはその時よりも200歳、歳を取っていて、そしてルアはゼロ足すニヒャクで………200歳?
 このロリっ娘が?ぐーすか寝息を立てて眠っているこの幼女が200歳なんて…何かの間違いだとしか思えないが、ましてやセシリアさんが嘘をつくとも思えない。
 俺はどんな答えが返って来ても納得がいかないと思ったので、スルーして別の話題を提示してみることにした。
 できれば明るいものがいいよな。ルアも聞いてて楽しいような。

 そうだなぁ…じゃあこの1週間くらいの、マスターとの旅での出来事について一通り話すとするか。
 俺はルアの背中をさすって起こし、ゾンビ化した当日から今日に至るまでの出来事を一つ一つ、語り始めた。
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みんなの感想(1件)

2017.01.22 ユーザー名の登録がありません

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2017.01.22 桐生デンジ

初感想とお褒めの言葉、ありがとうございますっ!
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します!

解除

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