こころのみちしるべ

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アーケルシア編

029.『事件』2

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 リヒトは横目でマスターの顔をちらりと見たが、彼はこちらを見てはいなかった。しかしその横顔は二人の「議論」の行方に耳を傾けてはいるように見えた。それは他の客も同じだった。オルフェは淡々と応じた。
「彼らも人間だ」
 リヒトはまたも返答に窮した。それに口喧嘩で酒の味を台無しにしたくなかった。彼は話の落としどころを探した。彼は手に持ったグラスの中の酒に目を落として言った。
「なら君が戦争を止めろ」
 オルフェは迷わず切り返した。
「俺にはできない」
 それで話は終わるかに思えた。しかしオルフェの本旨はむしろこの先にあった。
「だが君にはできるだろ?」
 リヒトはオルフェを見た。
「俺はアーケルシアに来たばかりだ」
「だが騎士王だ」
「俺はフラマリオンを取り戻したい」
「それは本当に戦わないとできないことか?」
 リヒトは再びグラスに目を移した。彼はオルフェの話の趣旨をようやく理解した。それを理解した上でリヒトは答えとして相応しく、自身もオルフェも納得できるものを探した。しかしそんな都合の良いものはどこにも見当たらなかった。彼は自身の思うところをただ素直に口にした。
「戦争になればフラマリオンの人々にも犠牲が出る。俺はそれを望んではいない」
 オルフェはリヒトに据えた目を動かさなかった。先ほどまで烈火のごとくリヒトを焚きつけた彼が、しかし今はじっとリヒトの言葉を待っていた。
「だが方法は考えるさ」
 オルフェはそれを潮にリヒトに「議論」を仕掛けるのをやめた。彼もまた自身のグラスに目を移した。
「君はフラマリオンに帰りたいのか?」
 リヒトは迷わずに答えた。
「ああ、帰りたい」
 オルフェはグラスを少し傾けた。カラン、と氷がグラスを打つ小気味よい音がした。
「もし君がフラマリオンを取り戻したとして、そこが自分の知ってるフラマリオンじゃなかったらどうする?」
 リヒトはその問いについて考えてみた。それはリヒト自身も実際怖れていることではあった。戦争でフラマリオンを取り戻したとして、それがオーガの侵攻によって、あるいはルクレティウスの支配によって、あるいは単に年月の経過によって様変わりしていたとしたら。あるいは自分の知っている人がすでにいなくなっていたとしたら。そのフラマリオンを取り戻し、そこに帰ったところで本当に「フラマリオンに帰った」といえるのか。神楽様や樹李様や飛茶様は現にもういない。アカデミーの学生たちはどうだろう。ルナは生きているだろうか。マリアは一緒にフラマリオンへ戻ったとして喜ぶだろうか。リヒトはそのような途方もない思考の巡回の果てにぽつりと呟いた。
「それでも俺はフラマリオンに戻りたいと思う」
「そうか」
 オルフェは目を細め少しだけ笑った。
「もし帰る場所がなかったり、戦いに疲れたならビュルクに住むといい」
 リヒトはオルフェを横目で見た。
「君はビュルクについてたくさんの質問を俺にしたな。俺も正確なところは知らないが、ビュルクはアーケルシアやロイシュネリアから落ちのびた者で形成された隠れ里が発端だといわれている。現に昨今もアーケルシアから落ちのびてくる者が多い。ここは戦いがほとんどない。争いも犯罪も少ない。緑が豊かで、住む人の心も穏やかだ」
 リヒトはビュルクで過ごした時間を思い出した。
「ああ、そうだな」
「そのときはまた俺を訪ねろ。森の拓き方と畑の耕し方、小屋の建て方なら教えられるぞ」
 リヒトは笑った。彼は昨日飲んだ薄いレモネードの味を思い出した。
「ああ。それも悪くないな」



 リヒトは翌日の朝帰路についた。滞在期間はわずか四日間で、収穫はまったくなかったが、なぜか彼には後悔もなく、むしろ心のすく思いがした。おそらくビュルクが美しく心地よく、単純に旅として楽しめたからだろうと思った。また、宿の主人やオルフェやリサとの会話も知見や考え方が広がるようで有意義だった。行きと同様リヒトは牛車に揺られて山道を下りた。帰りの車窓からの景色も美しくなぜか懐かしかった。リヒトは目を細めてぼんやりとそれを眺め続けた。
 牛車と馬車に揺られながらリヒトは思考を巡らせた。リサを戦力に迎えられなかったことは残念だった。彼女がいれば虎狼会の首魁を討つにあたって最高の逸材となっただろう。しかし彼女が首を縦に振らなかった以上仕方がない。
 リヒトは再び傭兵時代の同僚を思い出してみた。しかしやはり彼らの中に奇襲に向く人材を見出すことはできなかった。
 それでは他のどこから戦力を調達するか。彼の脳裏に浮かんだのは貧民街だった。貧民街出身の者は一部の例外を除いて騎士団への入団を認められていない。騎士団に入れずにくすぶっている人材が発掘できるのではないだろうか。騎士団への入団を貧民街で募ってみるのはどうだろう。早速帰ったら貧民街出身のユスティファにそれを相談してみよう。
 虎狼会討滅の前途は長くなりそうだった。しかしリヒトに焦る気持ちはなかった。馬車はゆっくりとリヒトを日常へと運んで行った。



 狩りから帰って来たリサは晩御飯の支度をし始めた。彼女はまず食器の準備をした。彼女は料理をするとき必ず食器を並べるところから始める癖があった。そのせいで食材が調理台に並びきらなかったり、調理スペースが足りなくなったりすることがあった。レオナにもオルフェにも何度もそれを指摘されたが、それが治ることはなかった。リサは食器が好きで、必要以上に食器を買って来る癖があった。どの食器で料理を飾るか考えれば料理をするのが楽しくなるし食卓も美しく彩ることができるというのが彼女の持論であり、オルフェとレオナはそれについても治すのを諦めてしまった。実際彼女は買ってきた食器を多少の差こそあるもののすべて使ってはいたので、まったく無駄な買い物とも言いきれなかった。
「何を作ってくれるの?」
 リサが振り返って見るとそう聞いたレオナの顔にはいつになくはっきりとした笑みがあった。リサは嬉しそうに答えた。
「キッシュと魚のソテー、それからサラダとローストビーフだよ。それにね…」
 リサは買い物袋の中をまさぐった。
「ほら、パンと干しブドウだよ」
 彼女はパンと干しブドウの入った袋をそれぞれ両手に持って顔の横に掲げて嬉しそうにレオナに見せた。しかしそれを見たレオナの顔からは笑みがぴたりと消えた。
「どこに行くの?」
 リサはレオナの問いの意味を探るように思考を巡らせた。より正確にいえば、それが自身の計画を悟った上での質問ではない可能性を探った。しかし勘の鋭いレオナはそれに気付いているとリサの直感は告げていた。リサは迷った末に質問に質問で返すことにした。
「どうしてそんなこと聞くの?」
 レオナは声を荒げた。
「声でわかるよ!」
 てっきり食事が豪華すぎることで疑われたのだと思った彼女はレオナの言葉を青天の霹靂のごとく受け止めた。自分が思っている以上にレオナに嘘をつくことは難しいことだったのだと痛感し、リサは観念した。彼女は調理で濡れた手を一度手拭いで拭き、申し訳なさそうにレオナの前の椅子に腰掛けた。
「…レオナ聞いて。あたしはね、この里のこといろいろ考えてみたの」
 レオナは悲し気な顔で何かを言いたいのをこらえているように見えた。
「それでね、この里は自分たちの力だけでは自分たちを守れないと思うの」
「何を怖れてるの?」
「え?」
 リサはレオナの問いに虚を衝かれた。夕刻の赤い光がレオナの片方の頬を染めていた。それは彼女の顔に陰影をはっきりと刻んでいた。リサも自身の右半分の顔が熱いことを感じていた。リサはレオナを懐柔するために噛んで含めるように話した。
「この国が他の国に侵略されちゃうのが怖いでしょう?」
 しかしレオナの語気は少しも和らがなかった。
「たとえばどの国に?」
 リサはその質問に答えることで会話のペースを掴めそうな気がした。
「それはもちろんかつてルクレティウスもここへ来たことがあるし、アーケルシアだって私たちに何してくるかわからないでしょ?」
 それは反論の余地のない回答に思えた。しかしそうではなかった。
「侵略されたらいいじゃない」
 リサはレオナの言葉の意図がわからなかった。
「侵略されていいはずないじゃない」
「侵略されないために何するの?」
 レオナの質問は続いた。リサもいつの間にか感情的になっていた。
「それはいろいろよ。政治が必要なの。アーケルシア騎士団の抑止力になるような人たちにビュルクの窮状を訴えたりとかしないと——
「訴えるだけ?」
「訴えたりとか、もちろんそのためには——
 レオナは怒鳴った。
「訴えるだけならあたしがやる!」
 リサは閉口した。
「アーケルシアに行って訴えるんでしょ!? あたしにだってできる。あたしがやる! どうしていつもリサがやらなきゃいけないの!?」
 レオナの顔貌には頑なな意志が表れていた。小手先の言葉でどうにかできる類のものではないと痛感して、リサは深くため息をついた。
「レオナ聞いて」
 レオナは表情を変えなかった。
「少し危険なことをする」
 レオナは具体的な内容を尋ねてはこなかった。きっと看破されているのだろうと思いながらリサは続きを話した。
「そうすることでこの国から他国の脅威を排除できるし、そうすればこの国は安定するの」
「だったら排除しなきゃいいし安定しなきゃいい」
 リサにはそれが子どものわがままに聞こえて少しじれったくなった。
「そんなのいいわけ——
「あたしは今のままでいればそれでいい!!」
 再び怒鳴ったレオナは目に涙をためていた。彼女が癇癪のために声を荒げたことは度々あったが、議論の中で声を荒げたのはそれが初めてだった。リサは何か自分の立場に都合の良い理屈を探そうとしたが、何を言ってもレオナを傷つけるだけだしレオナの心を動かすことはできないと悟って諦めた。リサは代わりに自分の気持ちを話した。彼女は心が痛くてたまらなかった。
「私はあなたを失うのが怖いの…」
「私だって同じよ!」
 リサは閉口した。レオナは涙をこぼした。彼女も心の葛藤の中で言葉を探していた。彼女は時折しゃくり上げながらこんなことを言った。
「私はどこにも行かない。変わらない。だからリサもリサのままでいて」
 リサは眉根を寄せてレオナを見つめて言った。リサの声は自然と掠れた。
「わかったわ」
 レオナは悲しみに顔を歪めて涙をもう一粒だけこぼした。その顔をリサはそっと抱き寄せた。



 食事を終え、入浴を終えて二人は床に就いた。レオナがカーテンを閉めると怖がるので二人はいつもそれを夜でも開け放ったままにしていた。月が青白く光る夜だった。
 共同生活を始めた当初は二人は別々に寝たが、レオナが落ち着かないため、二人はベッドをくっつけて並べて寝て、レオナが寝付くまでリサが彼女の手を握るのが二人の習慣になっていた。
 レオナが寝付くとリサはその細い上体をベッドから起こし、顔を上げて窓から見える月にしばらく目をやった。晴れてはいたが、薄い雲がゆっくりその前を流れていった。彼女は横で規則的に寝息を立てて眠るレオナを見た。リサはその顔をいつまでも見ていたいと思った。しかし彼女はそのためにこそ非情にならなくてはと自身に言い聞かせた。彼女は心に薄い膜をかけた。レオナの傍を離れたくない、レオナを一人にしたくないという心の声はそれでも聞こえた。彼女は心の声に耳を傾けるのをやめた。
 彼女はベッド脇に降り立ち、玄関まで歩を進めてそこにあらかじめ用意しておいた荷物を抱えた。彼女は一度だけレオナの方を振り向いた。彼女の顔は角度の関係で見えなかったが、横向きに寝ている彼女が相変わらず深く規則的に呼吸をしているのが肩と腕の動きでわかった。それを見てビュルクを守るという気持ちを新たにしたリサは迷いを振り払った。



 街の入口にまで歩を進めたリサは不意に聞こえた声に足を止めた。彼女がさほど驚かなかったのは、その声が非常に耳触りが良く、彼女がよく知る人物のものだったからだ。
「レオナには言わないのか?」
 彼女はゆっくり振り向くと、ゆっくりこちらに近づいて来るオルフェの姿があった。彼は質問を重ねた。リサを咎める言葉ではあったが、またリサの立場を理解する優しさを孕んでもいた。
「俺は彼女に何て言えばいい?」
 リサは顔をうつむけた。その問いへの答えをもち合わせていないことをリサ自身が誰よりも痛感していた。また、答えなどないことを知りながらオルフェが質問しているということもリサはわかっていた。
「ごめんなさい」
 彼女には謝ることしかできなかった。オルフェは静かに問うた。
「それは君がやらなくてはならないことか?」
 レオナにも同じことを聞かれたことを不思議に感じながらリサは目を上げた。
「多分、私にしかできない」
 それは同じく狩人としての修練を受けたオルフェの実力を蔑んでいると捉えられかねない答えでもあった。リサは戸惑って顔を再びうつむけつつも、彼がその言葉を必要以上に重く受け止めないことを願った。
「それ以外に本当に手はないのか」
 リサは少し言い淀んだ。きっとオルフェを説得できないとわかっていながらリサは口を開いた。
「ビュルクの安定のためには…それしかない」
 リサは自身の「計画」を彼には話していなかった。果たして彼は自身の真意をどの程度正確に看破しているのだろうかとリサは考えた。
「だが危険も伴うんだろ?」
 レオナに先ほど論破されてしまったリサはすっかり自信を失っていた。しかしだからこそ理屈の通じるオルフェになら理解してもらえるのではという希望もあった。
「どちらにせよ危険だわ。それに、危険を減らすためにこそするの」
「そうか」とオルフェは短く答えた。「レオナは何て言ってた?」
 リサは顔を上げた。勘で聞いたのか、それとも二人の間に議論があったことを看破していたのか。
「あの子は…」
 答えようとレオナの言葉を思い出すとリサは急に胸が苦しくなった。先ほどレオナの眠るベッドを離れるときにした心の膜はいとも簡単に剥がれ落ちた。彼女はオルフェの顔を見ることができず目を逸らした。
「今のままでいいって…」
 オルフェはリサを不憫に思った。彼女を咎めるべきか、諭すべきか。いや、どちらも傲慢だと彼は考えた。
「君は…今のままじゃダメなのか?」
 自身の目に涙が溜まるのを感じたリサはそれを見られたくないと思った。
「私は…。私も今が続けばいいと思う」
 少し声が震えた。それを悟られないようにと力んだせいで声は自然と荒くなった。
「でも今を続けるためにも力が必要なの…!」
 オルフェは再び「そうか」と短く答えた。
「ならどうしてそんなに悲しそうにしている」
 リサは自身の感情をもて余した。彼女はそれに駆られてオルフェに「何もできないし何もしないくせに!」と言ってやりたくなった。しかし彼女はそのために上げた目で彼の自身を慮る眼差しを見て、再び悄然とうつむいた。オルフェは諭すように言った。
「君が悲しむくらいなら、俺は今のままでいい」
 リサは何も答えられなかった。
「きっとみんな同じことを言う」
 リサはあと少しのところでその言葉に流されそうになるのをこらえた。
「私は…耐えられない…」
 オルフェは黙然と彼女の言葉を受け止めた。リサは声を絞り出した。
「ビュルクが今のまま脅かされ続けるのが許せない…」
 オルフェはリサが残りの言葉を吐き出すのを待った。
「ビュルクのみんなが好きだから、みんなのために私にできることをしたい」
「わかった」
 オルフェは諦めたように目を伏せた。
「君にばかり何もかも背負わせてすまない」
 自身が咎められているように感じていたリサはオルフェが謝ったことに驚き顔を上げた。彼は自身を説得に来たものとばかり思っていた。しかしもしかしたら謝りに来たのかもしれない、とリサは思った。
「レオナのことは任せろ」
 リサは先ほどの自身の言葉とは裏腹に自身の無力を感じた。
「君が何をするのか知らない。これから言うことは俺の個人的で身勝手な願いだ」
 リサは口をつぐんで彼の言葉を待った。
「でも君がすることで君の心が傷つくなら、そんなことはやめてほしい」
 リサは再び胸が苦しくなった。
「俺はビュルクに今のままであってほしい。でも同時に君にも今のままの君でいてほしい」
 リサは何かを言おうとした。しかし礼を言うべきか、謝るべきかまったくわからなかった。それを察してかオルフェの方から別れの言葉を切り出してきた。
「無事で帰って来てくれ」
 リサは二度頷いた。
「わかった…」
 リサは急いで振り向いて彼に背を向けた。彼女は涙がこぼれるのを寸でのところで見られずに済んだ。しかし泣いていることはとっくに気付かれているだろうなと思った。彼女は心の中で彼に深く礼を言ってから歩き出した。オルフェはその華奢な背中が森の闇に紛れて見えなくなるまで静かにそこに立っていた。風が一度強く吹いた。森の木々が大きくざわざわと揺れた。揺れが収まると二人の問答と葛藤がまるで嘘だったかのように静寂が帰ってきた。



 その数日後の晩、アーケルシア騎士団庁舎の修練場では酒盛りが行われていた。週に一度酒盛りをそこで行うのが彼らの習わしだった。
 アーケルシアはムーングロウ最大の国家である。そして我々はそんなアーケルシアの選ばれた精鋭である。そんなことを囃し立てて彼らは宴を盛り上げた。しかしアーケルシアの凋落は激しくこの栄華が永くは続かないことを頭の片隅で知っていた彼らは、だからこそ必死に酒を呷りそれに酔った。その中心にはケーニッヒがいた。その近くにはタルカスがいた。彼らは宴を盛り上げるために必ず数十名の娼婦を呼んで脇に侍らせていた。酒と女とうまい飯に囲まれて彼らは大いに盛り上がっていた。
 一方その頃、ケーニッヒのはるか頭上、修練場の棟の屋根の上に一人の女が立っていた。月光に照らされてその身軽な武装から伸びる長く細く白い四肢は屋根に鋭い影を刻んだ。一つに束ねた長い髪を夜風はなびかせた。彼女は弓矢を背負い、その端正な顔貌には冷徹な意思を湛え、その手には白い布製の袋を握っていた。夜風に吹かれながら猫のように屋根の上でしなやかに歩を運び、リサは煙突の前で歩を止めた。彼女は低い声で呟いた。
「レオナ、オルフェ、リヒト、ごめんなさい」
 彼女は煙突に袋を投げ入れた。それが煙突の中に落ちていく様を見下ろすリサの目は月夜に怪しく輝いた。
「私はアーケルシア騎士団を潰さなくちゃいけないの」
 その袋には毒が詰められていた。
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