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吹っ飛んだ生首

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 僕の名前は、黒羽柊夜。

 大学1年生になったばかりで、結婚式のアルバイトを始めたばかりだ。
 
 結婚式場は、人手不足だったみたいで、僕は、すぐに配膳係として配属された。

 結婚式は、タイトなスケジュールで刻まれているため、ひたすら食べ物を運びまくらないといけない。

「えっと、この皿ってどこのものですか」

 近くにあった海老のポタージュのスープを二つ持って、岩本美香というベテランのスタッフに問いかけた。美香さんは、黒髪のワンレンボブのスラリとした背丈の美人で、キッチンを担当していた。
 彼女は、ケーキに盛り付ける生クリームを作っていた。

「これは、新郎新婦のものよ」
「ありがとうございます、美香さん」
「どういたしまして」

 美香さんは、大きなミキサーを使って生クリームをつくっている。もうすぐあの生クリームが、結婚式のケーキになると思うと、何だか素敵な光景だなと思った。

「柊夜~。俺にも聞きたいことはないか」

 そう聞いてきたのは、白い服を着て料理人の格好をしたエリュシオン・ハワードという大学の同期である。

 彼は、金髪に紫紺の目をしたドイツからやってきたイケメンだ。

 彼も、僕と同じ配膳係になりたがっていたが、イケメンすぎてみんなの目を引いてしまうと理由でキッチンの奥の方に配属された。『クソっ。自分の顔が良すぎることが弊害になんて。まるでロミオとジュリエットのような悲劇だ……』とほざいていた。

 実にあほらしい。

「お前に聞きたいことはねぇよ」
「そんな寂しいこと言うなよ」
「はいはい。自分の仕事に集中していろ」

 海老のポタージュを持った僕は、慎重に歩き出した。

 結婚式は、主役の2人にとって人生における大事な時間だ。

 料理は、慎重に運ばなければいけない。ここで僕がこけて、新婦に料理ごと突っ込んでしまったら大惨事が起きる。忘れられない結婚式になってしまうだろう。

 まっすぐ歩き続けて、新郎と新婦の前に到着した。

「失礼いたします。海老のポタージュスープでございます」

 そして、ゆっくりと彼と彼女の前に置いた。
 ふう。
 ミッション・コンプリート。
 一番緊張する仕事を終えたかもしれない。

「ありがとうございます」
「ありがとうございます。海老なんて嬉しいわ」

 新婦の松本貞子さんは、目をキラリと輝かせた。そう。この新婦の名前は、何と貞子というのである。

 彼女は、貞子のイメージを一掃するように緩くまかれた茶色の髪をしていた。かわいらしい人だ。

 今日の彼女は、一段と美しかった。

 首元では、ダイヤのネックレスがシャンデリアの光を当ててキラキラと光り輝いている。あれは、彼女が持ってきたネックレスで50万円くらいするものらしい。ダイヤをつけたメイクの根本詩織が、めちゃくちゃ緊張したと言っていた。

 さあ、早く次の料理を運ばないと。
 僕は、一礼して立ち去ろうとした。


 その時、パチッと会場の証明が消えた。


「きゃああああああああああああああああああああああ」
「え?停電?」
「何が起きたの?」
「いやあああ。怖い」
「どうなっているんだ?」
「動くな。危ないぞ」
「真っ暗で何も見えない」
「早く誰か何とかして」
「暗いよー怖いよー」

 辺りは、混乱した声で埋め尽くされた。
 停電だ。ブレーカーが落ちたのだろうか。

「私がブレーカーを見に行きます」

 そういう頼もしい声も聞こえた。おそらくそう言ったのは、根本詩織さんだろう。
 電気がつくまであまり動かないようにしよう。

 その時、生暖かい何かが俺にぶっかけられた気がした。

 何だろう、これは……。誰かが、海老のポタージュを僕にかけてしまったのだろうか。

 でも、何故か血の匂いみたいなものもする。誰かが近くで怪我でもしたのだろうか。

 1分後くらいだろうか。
 パチリと再び、電気がついた。

 新婦の首が、何かの刃物でスパッと切られたように吹っ飛んでいた。

 そして、僕の足元に新婦の生首が転がっている。
 え?
 ええええええええええええええええええええええええ?

「貞子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 新郎である佐藤亮介の絶叫が響き渡った。
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