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ゴドフリー・シアーズ
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ついにこの時が来た。
ゴドフリー・シアーズは、胸を落ち着けるように抑えた。
自分の人生は、この日のためにあったのかもしれない。
失敗作の自分がこんな大役を任せられなんて、想像したことはなかった。
世の中には、正しく生きられる人間とそうではない人間がいて、俺、ゴドフリーはそうではない方だった。
俺は、失敗作だった。
言い訳することばかりが得意な無能なカスでしかなかった。
甘い言葉を囁かれてすぐに夢を見る愚かな少年だった。
世の中を嫌いだしたのは、一体いつからだろうか。
他者を道具としか見ない父親が嫌いだった。政略結婚も、父親に愛人がいることも、出来の悪い息子のことも、全て諦めてしまう母親が嫌いだった。才能全部奪い取ったような優秀な兄貴が嫌いだった。兄貴と俺を比べる使用人、教師、クラスメートも嫌いだった。嫌いなものばかりで溢れていた。
ストレス発散の道具を求めて、学校では自分よりも身分が低くて、弱そうなやつを見つけていじめていた。殴られて「ごめんなさい、ごめんなさい」とつぶやき続ける哀れな彼らを見て笑っていた。けれども、そんなことをするたびに、兄貴との差はますます開いた。
そんな俺を認めてくれる女がいた。
ロザリア・グラッセ。銀髪の髪に、青い目をした人形のように整った顔立ちの身分が高いグラッセ家の貴族だった。まるで世界が自分を中心に回っているとでも思いこんでいるような傲慢で美しい女だった。
彼女には、オセロ・ランドールという婚約者がいたが、彼は、アンジェラ・オースティンという成金の女に夢中になってしまう。
そんな状況を、プライドの高いロザリアは許せなかったのだろう。ロザリアは、アンジェラをいじめようと考えた。そして、利用する道具に選んだのが俺だった。
ぐれていて女の子から恐れられていた俺は、美しいクラスメートに優しく甘く話しかけられてすっかり舞い上がった。「ゴドフリー様は特別な人間だと思っていた」「あなたの力が必要」「あんたにしか頼めないことだわ」「私のために動いてくれたら、何でもあげるわ」などの言葉は、小さい頃から出来損ないと言われ続けてきた俺の自尊心を目指した。すっかり彼女の言いなりになり、アンジェラに嫌がらせをするようになった。
けれども、ロザリアの心は満たされず、ついに俺にアンジェラをレイプするように頼まれた。最初は少しビビったが、ロザリアに「あなたしか頼れないの」と泣きながら言われると承諾してしまった。
結局、俺は、わがままで、性格が悪くて、美しくて、くそみたいな彼女を愛していた。ロザリアに必要とされることが嬉しかったし、彼女のために何でもしてあげたかった。
けれども、レイプは偶然、クラスメートに見られ失敗に終わり、学校にもばれて退学処分を受けた。そして、怒り狂った父からは勘当を言い渡され、母親はそんな状況を私は悪くない、仕方がないという風に見ているだけだった。いい子の兄貴からも、心底失望したと呆れられた。
家から追い出され、犯罪歴のある俺を雇おうとする人はいなかった。死体を漁り、残飯を漁りながら、ゴキブリみたいに生きてきた。土の上で寝ることにも、石の枕にも、ミミズに顔をなめられることにも慣れた。
俺は悪くないなんて口癖のように呟きながら、自分が間違えたことが誰よりもわかっていた。
もう、本当に自分には何もない。才能がなくても、愛されていなくても、心を腐らせずに努力をし続ければよかった。
そんな日々が一年以上続いた後、偶然、街を視察に来ていたダレル・ヴァレンシュタインと再会した。自分の姿があまりにもみすぼらしくて惨めだから、恥ずかしくなって逃げようとした。けれども、ダレルは何故か俺を追いかけてきた。
彼は、「今は何をしているんだ?」と心配そうに聞いてきたが、「……見ればわかるだろう」とごまかした。早くしっかりとした身なりをしている彼の前から、消えてしまいたかった。過去の記憶を思い出させる存在を忘れたかった。けれども、ダレルはなかなか俺の前から立ち去ろうとしなかった。
「ずっと気になっていたことがあるんだ」
「ああん?なんだよ」
「君、本当はロザリアに頼まれていたんだろう。だけど、彼女のことを最後まで言わなかった」
取り調べに対して、彼女は、「そんなこと私、頼んでいない」「ゴドフリーが勝手にやったことだ」と冷たい目をしながら、噓をついた。
そんな彼女を見て、殺してやりたいほど怒りが込み上げてきた。「ロザリアに頼まれてやった」「全てロザリアのせいだ」なんていう言葉が、のどまで出かかった。
だけど……ロザリアを愛していたから、最後まで何も言えなかった。
自分でも本当にバカだったと思う。そんな風に愚かな男だったから、都合よく利用されたのだ。
「さあな。……そんな昔のことは忘れたよ」
もう彼女がどう生きていようとどうでもよかった。
今更、貶めて復讐したいなんて気持ちは湧いてこなかった。
「なあ、俺の護衛にならないか」
彼は、天気の話題でもするようにとんでもない提案をしてきた。
「命を狙われていて、死んでくれる奴でも募集しているのか。どうせ俺なんて死んでも誰も悲しむ人間なんていないからな」
「そういうわけじゃない。ここで君に恩を売っておけば、君は命がけで俺を守ろうとするだろう。いい取引だと思わないか」
「俺……そんなに剣、うまくなかっただろう」
声が震える。心臓の音がドクリ、ドクリとうるさい。
「これから、俺のために強くなればいい」
「何で……俺なんだよ……」
「ここで君を助けたら、俺は君を信用することができるからだ」
実力のある人間、真面目で誠実な人間、もっといい奴なんてたくさんいるのに……。
ダレルは、バカだ。
人を見る目がない。
もうこんな俺を信じてくれる人間なんて、他にどこにもいないのに……。
でも、確かに彼のいうとおりだ。
こんな俺を信じてくれるのなら、死んだっていいとすら思える。
泣きながら、騎士の誓いのポーズを思い出す。跪き彼の日に焼けた手を取って、キスをした。
その日から、俺は、髪を坊主にして、死ぬ気で剣の腕を磨いた。
もう二度と腐らない。
上だけを目指していたい。
いつかダレルに恩返しがしたい。あの時、俺を拾ってよかったと思って欲しい。
捨てたはずのプライドが、蘇った。
俺は、自他共に認めるクズだ。だけど、恩返しできないまま終わるクズで終わりたくなかった。
再び髪が伸びてくる頃、俺は、ヴァレル国で2番目の騎士となっていた。けれども、そんなものじゃもう満足できなくなっていた。
傲慢で自己中心的なユリアは、ロザリアを思い出させた。
だから、彼女が嫌いだった。目に写ることも不愉快だった。うっかり彼女の悪口を言ってしまったとき、またやらかしてしまったと思った。
けれども、こうしてチャンスを得られた。
負けるわけには、いかない。
ゴドフリー・シアーズは、胸を落ち着けるように抑えた。
自分の人生は、この日のためにあったのかもしれない。
失敗作の自分がこんな大役を任せられなんて、想像したことはなかった。
世の中には、正しく生きられる人間とそうではない人間がいて、俺、ゴドフリーはそうではない方だった。
俺は、失敗作だった。
言い訳することばかりが得意な無能なカスでしかなかった。
甘い言葉を囁かれてすぐに夢を見る愚かな少年だった。
世の中を嫌いだしたのは、一体いつからだろうか。
他者を道具としか見ない父親が嫌いだった。政略結婚も、父親に愛人がいることも、出来の悪い息子のことも、全て諦めてしまう母親が嫌いだった。才能全部奪い取ったような優秀な兄貴が嫌いだった。兄貴と俺を比べる使用人、教師、クラスメートも嫌いだった。嫌いなものばかりで溢れていた。
ストレス発散の道具を求めて、学校では自分よりも身分が低くて、弱そうなやつを見つけていじめていた。殴られて「ごめんなさい、ごめんなさい」とつぶやき続ける哀れな彼らを見て笑っていた。けれども、そんなことをするたびに、兄貴との差はますます開いた。
そんな俺を認めてくれる女がいた。
ロザリア・グラッセ。銀髪の髪に、青い目をした人形のように整った顔立ちの身分が高いグラッセ家の貴族だった。まるで世界が自分を中心に回っているとでも思いこんでいるような傲慢で美しい女だった。
彼女には、オセロ・ランドールという婚約者がいたが、彼は、アンジェラ・オースティンという成金の女に夢中になってしまう。
そんな状況を、プライドの高いロザリアは許せなかったのだろう。ロザリアは、アンジェラをいじめようと考えた。そして、利用する道具に選んだのが俺だった。
ぐれていて女の子から恐れられていた俺は、美しいクラスメートに優しく甘く話しかけられてすっかり舞い上がった。「ゴドフリー様は特別な人間だと思っていた」「あなたの力が必要」「あんたにしか頼めないことだわ」「私のために動いてくれたら、何でもあげるわ」などの言葉は、小さい頃から出来損ないと言われ続けてきた俺の自尊心を目指した。すっかり彼女の言いなりになり、アンジェラに嫌がらせをするようになった。
けれども、ロザリアの心は満たされず、ついに俺にアンジェラをレイプするように頼まれた。最初は少しビビったが、ロザリアに「あなたしか頼れないの」と泣きながら言われると承諾してしまった。
結局、俺は、わがままで、性格が悪くて、美しくて、くそみたいな彼女を愛していた。ロザリアに必要とされることが嬉しかったし、彼女のために何でもしてあげたかった。
けれども、レイプは偶然、クラスメートに見られ失敗に終わり、学校にもばれて退学処分を受けた。そして、怒り狂った父からは勘当を言い渡され、母親はそんな状況を私は悪くない、仕方がないという風に見ているだけだった。いい子の兄貴からも、心底失望したと呆れられた。
家から追い出され、犯罪歴のある俺を雇おうとする人はいなかった。死体を漁り、残飯を漁りながら、ゴキブリみたいに生きてきた。土の上で寝ることにも、石の枕にも、ミミズに顔をなめられることにも慣れた。
俺は悪くないなんて口癖のように呟きながら、自分が間違えたことが誰よりもわかっていた。
もう、本当に自分には何もない。才能がなくても、愛されていなくても、心を腐らせずに努力をし続ければよかった。
そんな日々が一年以上続いた後、偶然、街を視察に来ていたダレル・ヴァレンシュタインと再会した。自分の姿があまりにもみすぼらしくて惨めだから、恥ずかしくなって逃げようとした。けれども、ダレルは何故か俺を追いかけてきた。
彼は、「今は何をしているんだ?」と心配そうに聞いてきたが、「……見ればわかるだろう」とごまかした。早くしっかりとした身なりをしている彼の前から、消えてしまいたかった。過去の記憶を思い出させる存在を忘れたかった。けれども、ダレルはなかなか俺の前から立ち去ろうとしなかった。
「ずっと気になっていたことがあるんだ」
「ああん?なんだよ」
「君、本当はロザリアに頼まれていたんだろう。だけど、彼女のことを最後まで言わなかった」
取り調べに対して、彼女は、「そんなこと私、頼んでいない」「ゴドフリーが勝手にやったことだ」と冷たい目をしながら、噓をついた。
そんな彼女を見て、殺してやりたいほど怒りが込み上げてきた。「ロザリアに頼まれてやった」「全てロザリアのせいだ」なんていう言葉が、のどまで出かかった。
だけど……ロザリアを愛していたから、最後まで何も言えなかった。
自分でも本当にバカだったと思う。そんな風に愚かな男だったから、都合よく利用されたのだ。
「さあな。……そんな昔のことは忘れたよ」
もう彼女がどう生きていようとどうでもよかった。
今更、貶めて復讐したいなんて気持ちは湧いてこなかった。
「なあ、俺の護衛にならないか」
彼は、天気の話題でもするようにとんでもない提案をしてきた。
「命を狙われていて、死んでくれる奴でも募集しているのか。どうせ俺なんて死んでも誰も悲しむ人間なんていないからな」
「そういうわけじゃない。ここで君に恩を売っておけば、君は命がけで俺を守ろうとするだろう。いい取引だと思わないか」
「俺……そんなに剣、うまくなかっただろう」
声が震える。心臓の音がドクリ、ドクリとうるさい。
「これから、俺のために強くなればいい」
「何で……俺なんだよ……」
「ここで君を助けたら、俺は君を信用することができるからだ」
実力のある人間、真面目で誠実な人間、もっといい奴なんてたくさんいるのに……。
ダレルは、バカだ。
人を見る目がない。
もうこんな俺を信じてくれる人間なんて、他にどこにもいないのに……。
でも、確かに彼のいうとおりだ。
こんな俺を信じてくれるのなら、死んだっていいとすら思える。
泣きながら、騎士の誓いのポーズを思い出す。跪き彼の日に焼けた手を取って、キスをした。
その日から、俺は、髪を坊主にして、死ぬ気で剣の腕を磨いた。
もう二度と腐らない。
上だけを目指していたい。
いつかダレルに恩返しがしたい。あの時、俺を拾ってよかったと思って欲しい。
捨てたはずのプライドが、蘇った。
俺は、自他共に認めるクズだ。だけど、恩返しできないまま終わるクズで終わりたくなかった。
再び髪が伸びてくる頃、俺は、ヴァレル国で2番目の騎士となっていた。けれども、そんなものじゃもう満足できなくなっていた。
傲慢で自己中心的なユリアは、ロザリアを思い出させた。
だから、彼女が嫌いだった。目に写ることも不愉快だった。うっかり彼女の悪口を言ってしまったとき、またやらかしてしまったと思った。
けれども、こうしてチャンスを得られた。
負けるわけには、いかない。
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