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番外編 とある死にたがりの少年の話(1)
しおりを挟む少年は、いつも死ぬ方法ばかり考えていた。
王道は、やっぱり首吊り自殺だろう。
手首を切断する方法はどうだろうか。少し不確実な気がしてしまう。
焼死や溺死は、苦しそう。飛び降り自殺は、落ちる瞬間が怖そうだ。だけど、少しドキドキしてしまいそう。
馬車などへの飛び込み自殺は、人に迷惑がかかると聞く。だけど、死ぬくせに、他人への迷惑を心配するだなんておかしな話だと思わないか。
そうだ。死んだ後の心配事なんて一つもない。
自分みたいな奴は、死んだところで誰も悲しんでくれる人がいない。むしろ、目障りな奴が消えていなくなったとみんな喜ぶだろう。そして、一年後には僕がいたことを覚えている奴なんていなくなってしまう。本当に、こんな人間、生まれてこなければよかったのに……。
* *
エルヴィオンは、貴族の母親リリーが不倫してできたいらない子供だった。
エルヴィオンの銀髪から浮気が発覚し、母親は離婚された。そのせいで、母親はエルヴィオンの存在を憎むようになった。
4歳になった頃には、母さんは俺の顔を見ることも嫌になり、馬小屋で生活させた。
風呂にろくに入らせてもらえず、髪の手入れもされず、腐った雑巾みたいな匂いの服を着ている俺は、どこにいっても嫌われた。ブサイク、汚い存在と石を投げられてばかりいた。
風呂に入れてもらえないから、髪の毛は頭皮でベトベトしていた。汚れまみれの銀髪も、白髪頭とバカにされていた。
虐待され、罵られ、いじめられ、生きている意味は、わからなくなっていた。死にたい、死にたいとばかり願うくせに、死ぬ勇気がなくて死ねなかった。
13歳になった頃、家を出て、宿屋で雑用係として働いていた。そして、17歳になった頃、トビー・スミスというパン屋の友達もできた。トビーは、赤毛にそばかすがある陽気な少年で一緒にいると楽しかった。
けれども、友達になってから3か月後、家に招待したときにトビーに裏切られ、背後から刺された。
「どう……して……」
全く理解できなかった。何が起きたのかわからなかった。
「ごめん……。お金が必要なんだ……。身寄りのない君なら、心配する人間もいないだろう……」
「最初から……そのつもりだったのか……」
「ああ……。ごめん……」
服を漁られ、財布を取られる。金庫も破壊され、全財産が奪われた。そして、トビーは振り返ることなく去っていった。
心臓からは、ダラダラと赤い血が流れている。
悲しさでいっぱいで、悔しさが生まれてくる余裕がなかった。
もう、何もかもいい。つまらない人生だった。ただの失敗作だった。
生まれたことを後悔しながら生きてきた。
だけど、これでようやく解放される。これ以上苦しむことはない。
ああ、やった……。
ようやく死ぬことができる。
最後に暖かい光で包まれたように、生まれて初めて幸せな気分になれた。
ゆっくりと目を閉じかけた時、天の調べのように滑らかで美しい声が聞こえた。
「君は、そんなに死にたいの?」
現れたのは、滝のように流れる二つ分けの金色の髪、彫刻のように整った顔立ち、ヴァーベナのように甘く上しい香り、シルエットだけでも見ほれるくらい完璧な長身、皮膚を泡立たせるような鮮血のようにきれいな切れ長の瞳、真っ黒いコートを着た天使のように美しい人だった。
なんてきれいな人なんだろう。俺は、これほど美しい人間を他に知らない。
あまりの神々しさに、全身が凍り付きそうな感覚になった。
彼は、死にかけた俺に向かって、場違いなくらいニコニコと微笑んだ。
「よかったら、僕と一緒に死神にならないか。仕事はとても簡単だ。三食昼寝付き、もちろん家までついてくる高待遇だ」
「しに、がみ……」
「そうだ。僕は、死神スキアだ。君を死神にスカウトしにきたんだ」
どうして俺なんかを……。
「君みたいな奴を捜していたんだ。僕と一緒に生きようよ」
彼は、しゃがみこみ、俺の髪をもてあそびながら甘く優しい言葉を口説くように囁いた。
俺は、選ばれたのか……。彼に、一緒にいてほしいと選ばれた。
気がついたら、目頭が熱くなっていた。
「……俺、何も持っていませんよ」
「だから、いいんだよ」
どこにいっても、必要とされない存在だったのに……。
あんたはこんな俺を受け入れてくれた。それがどんなにすごいことか、あんたにはわかんねぇだろうな。
「さあ、いこう。目をつぶって」
彼は、冷たくて大きい手で俺の手のひらを握った。
もう一人で生きなくていい。
それだけで、十分だった。
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