記憶喪失になったら、帝国一のイケメンが彼氏になってしました

どうしてこうなった⁉

　朝日が差し込むと、ルカ・デルネーリは目をこすり始めた。

（早く起きて草むしりをしないと……。あれ？おかしいな……。今日は、やけに寒いな。異常気象か？）

　今の季節は、7月で寝苦しいほど暑いはずである。しかし、まるで冬の真っ只中のように肌寒い。

（ん？どうして俺は長袖を着ているのだろう？昨日は、半袖を着て寝たはずだったのに……）

　目を開けると、見知らぬ天蓋が飛び込んできた。いつもは、木の天井が見えるはずなのに、まるで貴族のベッドのみたいに赤い布に金の刺繍がたっぷりとあしらわれた豪華な天蓋をしている。

（ここはどこだ？俺は怪我でもして、どこかに運ばれたのか？）

　そして、横たわっている自分を、1人の男性がベットに腰を掛けながら見つめていることに気がついた。男は、帝国の戦士が着用する白い制服を着ており、腰には剣が指してある。
　男の顔を見た途端、ルカは、悲鳴をあげかけて、慌てて口元に手を当てた。

「っぁ!!!」
（ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!）

　ルカがこれほど驚いたのは、男のことを知っていたからだ。
　彼は、帝国一と言っても過言でないほど有名な男だ。彼が有名である理由の一つに、その美貌があげられる。彼は、帝国で一番美しい人として有名だった。

　近くで見ると、天使のように美しい人だ。
　透き通るように色素の薄いプラチナブランドの髪の毛はサラリと首元まで流れている。
宝石みたいなエメラルドグリーンの瞳は、瞬きするだけで音が出そうなほど長いまつ毛で彩られている。鼻筋はスッと通り完璧な形を描いている。肌は雪のように白く陶器のように滑らかで、まるで神様が特別に作った蠟人形のように整った顔立ちをしている。全身にバランスの取れた筋肉がしっかりとついていて、至高の芸術作品のように美しいと肌で感じていた。

（なんて美しい人間だろう。ずっと見ていられそうだ）

　思わずルカは、彼の美しさに見とれてしまうが、彼の噂を思い出して寒気がこみあげてきた。
　彼は、帝国の死神と呼ばれているのだ。
　理由は、先日の戦争で多くの武勲をたてたからだ。敵を容赦なく殺し、裏切者もためらわずあっさりと殺したという噂もある。

　彼のような怖い人間には、絶対に近づきたくないと心に固く誓ったことがある。
　それなのに、なぜ彼が自分の隣にいるのだろうか。訳が分からない。
　宝石みたいなエメラルドグリーンの瞳に、困惑しているルカの姿が映っている。彼は、恋人にでも微笑みかけるような甘い笑みを向けてきた。

「起きたのか？ルカ。大丈夫か」

　ベルベットのように低く滑らかなバリトンボイスでそう声をかけられる。あまりの美声についドキッとしてしまう。

「は、はい」
「頭は大丈夫か」
「はい……」
（頭？自分はどこかぶつけたのだろうか。記憶にないな……）

「どうかしたのか？」
「あ、あの……。どうして俺がアルカイド様と一緒にいるのですか」
「アルカイド様？いつもみたいにアルカイドって呼んでくれないのか」

（なななななななななな何で俺が帝国の英雄を呼び捨てにしているんだよ！おかしいだろうが!!!）

「いつもみたいですか？えっと……俺とアルカイド様は初対面のはずでは？」

　それを聞いたアルカイドの眉が、不可解と言いたげに歪められた。

「まさか私との関係を忘れているのか」
「えっと……何のことですか」
「私は、お前の彼氏だろう」

　アルカイドは、ルカに誘いかけるように微笑みながらそう告げた。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」

　ルカは、声を抑えるのも忘れて脳みそに藁しか詰まっていないようなアホっぽい悲鳴をあげた。