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再会
人助けは、クソである。
氷室 透和は、そんな考えにもとづいて生きている自己中心的な人間である。
他人を思いやる心?優しくすれば自分に返ってくる?
そんな言葉、反吐が出る。
偽善者ごっこは、本当に気持ち悪い。
透和は、そういった考えに基づき己の私利私欲のためだけに生きている残念すぎる人間になってしまった。
当然友達なんていなかった。家族も、もういなかった。
けれども、それで構わなかった。
そんな透和であるが、実は小さい頃に1回だけいいことをしてしまったことがある。
車で轢かれそうになっていた知り合いの少年桜ヶ丘 優人を突き飛ばして助けたのである。透和のおかげで、その子はかすり傷だけで済んだ。
だけど、別に人助けをしようとしたわけじゃない。反射的に人を助けてしまったのである。そして、車に轢かれたのは透和の方になった。
それ以来、透和の左足はぐにゃりと曲がってしまった。最初のうちは車椅子に座っていたが、半年後から松葉杖をつきながらだったら、そこそこ移動できるようになった。
けれども、透和はいつも出かけるたびに障害者扱いされるし、体育の授業はほとんど参加できない。走ることもできなくなってしまった。
それに対して、優人はバスケ部でインターハイの出場をするほど活躍して、イケメンであるため体育の授業をするたびに女の子からキャーキャー言われていた。
楽しそうな桜ヶ丘と自分の足を見るたびに、桜ヶ丘を助けたことは人生最大の失敗だと思うようになった。
あの時、桜ヶ丘を助けなければよかった。あんなところを歩かなければよかった。
そんな風に思い続けていたからだろうか。
いつしか透和は、人助けなんてくそだと思うようになった。他人を助けたら負けだと思うような、自分至上主義のとんでもないモンスターが誕生してしまったのである。
とある出来事がきっかけで高校を中退した透和は、アニメーション動画や、イラストを製作することでお金を儲けていた。大したお金にならず家賃と、食費を引けば手元に残るのは僅かなお金だった。それでも、足がろくに動かない自分は、他の職業につけないことがわかっていた。
* *
季節が過ぎ去るのは、あっという間だ。いつの間にか27歳になっていた。
27歳になっても、17歳の頃から生活は大して変わらなかった。友達も、恋人もいない。
ペットを飼う余裕なんてない。節約のために、卵かけご飯や、納豆ご飯を食べる。
また今年も、少し肌寒くなってきた季節がやってきた。
長年使いすぎたため寿命がきたのだろうか。
運悪く、仕事に使う電子ペンが壊れてしまった。いつもなら外に出るのが億劫だから、通販サイトで頼むが、仕事のために早急に必要だ。
急いで服を着替えて、隣の駅まで出かけていた。
ペンは無事に買えたが、運悪く夕方から土砂降りの雨が降り出した。雨の日は滑りやすくなるから、大嫌いだった。
松葉杖をつきながら、駅の階段を上っていると、急に誰かに当たって階段から落ちていった。
「あ……」
必死に伸ばした手は、空を切った。
そのまま階段から落下して、頭を強く打ち付けた。
* *
目が覚めたとき、真っ白い天井が見えた。
当然、透和を心配してくれる知人の姿なんて一人も見えなかった。誰もいない病院のベッドに一人でポツンといた。まるで、透和が死んでも悲しむ人間など一人もいないことを証明しているみたいだ。
それを寂しいなんて思うほど、透和は子供ではなかった。
とりあえずナースコールでも押して事情を聞くことにするか。
そう冷静に考えてナースコールのボタンを押すと忙しそうな様子の看護婦が訪れて担当の医者が30分後に来ることを告げられた。
30分後ではなく、一時間後に眼鏡をかけた太った医者が現れた。彼は、忙しそうな様子で名乗ることもなく、手短に説明しだした。
「簡潔に申しますと、あなたの左足は……残念ながらもうだめです。幼い頃の事故の影響もあるかもしれません。手足は無事人工皮膚の移植が成功しました。あと、一ヶ月ほど安静に過ごせば動くようになります。次の診察まで、包帯は変えないでください」
「……」
くそったれ。
ああ。本当にくそみたいな人生だ。
自分の人生は嫌なことばかり起こる。
まるで罰ゲームみたいだ。
「あと、残念なことに実は病室が足りていないんです。急な手術だったので、病室も予約できていない状態なんです。明日の夕方、新しい患者が今、あなたがいる部屋に入院する予定なので、明日の朝までに会計して出て行ってください。次回の予約は、これから取りましょう。痛み止めも出しておきます」
そう説明すると、先生は忙しそうに立ち去ってしまった。
どうやら自分みたいな人間はどこに行っても厄介者らしい。
入院するベッドがないというだけの話なのに、自分の存在を否定された気分になって消えてしまいたかった。
夕方になると、ドアをノックした後、別の先生がやってきた。
自分の姿を見かけたイケメンの先生は、バインダーをポトリと落とした。
そして、震える声で「透和」と呟き今にも泣きだしそうな顔をした。
「お前はっ!!」
何とそこにいたのは、出会わなければよかった男ぶっちぎりのナンバーワンである桜ヶ丘優人がいた!!
ネームプレートには、外科医と書かれている!!!こっちは、高校を中退する羽目になったのに、桜ヶ丘優人は、エリートである医者になっていたのだ!!
しかも、びっくりするくらいイケメンに育っていた。サラサラとした左目だけにかかるアシンメトリーな茶色の髪、暖かそうな焦げ茶色の瞳、モデルみたいにすっとした鼻筋、無駄な脂肪のないシュッとした顎……全て美しかった。
彼は、絵に描いたような幸せな人生を送っていたのだろう。両親から自慢の息子だと愛されて、モテモテな人生を歩んだに違いない。こっちは、人間の底辺みたいな人生を歩んできたのに……。
「透和!!げ、元気だったか」
それをお前が聞くかあああああああああああああああああああああ!!!!怒りで脳血管がぶち切れてしまいそうだ。
こいつにさえ、出会わなければ僕はどれほど元気に人生を過ごしていただろうか。
「元気なわけない」
イライラした態度を隠そうともせずに返事をする。
「そ、そうだよな」
「あ、明日、退院予定だけど、誰か迎えにくる予定はあるのか」
「……」
こいつ、僕に友達も家族もないことを見下したいのか。本当に嫌な奴だな。
「俺、有休溜まっているから、明日、透和を家に送ってもいいか」
「は?」
こいつ、何を言っているんだ?お前と一緒の空間とか地獄だろう。
「ほら、俺……実は料理が得意なんだ。よかったら、送っていった後に、料理を作るよ。透和は、手だって手術直後だから、あまり動かさない方がいいだろう。何か食べたいものとかある?」
「……」
こいつのことは、ゴキブリ以上に嫌いだ。
だけど、今回の入院費用で今月はかなり厳しい。タクシー代だってばかにならないだろう。ここは、こいつを利用するべきじゃないのか。
「……ビーフシチュー」
ぼそりとリクエストすると、優人は、花がほころぶようにぱあッと笑った。
優人が作るビーフシチューは、びっくりするくらい美味しかった。もちろん透和は、おいしいなんて感想は、彼に告げなかった。
彼は、透和に罪悪感を持っているのか、それからも、しょっちゅう料理を作ったり、日常品を届けたりするためにやってきた。透和が一度もお礼を言わないのに、優人は半月近くも透和のもとへ通い続けた。優人の優しさに触れるたびに、この偽善者がと嫌な気分になった。
皿洗いを終えた優人は、帰る前に「何か欲しいものはある?」と聞いてきた。
「エロいDVD。お前と違って巨乳なお姉さんが、出てくるやつがいい」
ニヤリとして告げると、優人は、高校時代のあの時みたいな顔になった。心臓をつかまれ握りつぶされたように、絶望感に満ちた顔だ。
昔、優人は、僕に告白してきたことがある。そんな彼だから、僕の言葉で少しくらい傷ついたかもしれない。
「……お前は、本当に俺が嫌いなんだな」
「ああ」
視界にうつるだけで、景色が汚れた気分になる。
しかし、こんなに困っているときに助けてくれる人間が、こいつしかいないというもの皮肉な話だった。
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