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蓮2
しおりを挟む桃華から取引を持ち掛けられた時、男を落として捨てるなんて、おもしろそうなゲームだと思った。
だけど、どうしてあんな平凡そうな男が、極上のイケメンと付き合うことができたのか全く理解できなかった。やっぱり、テクニックがすごいのだろうか。そういう子は、平凡な顔をしていても需要があるからな。
俺は、ゲイではないけれど、池田誠のテクニックがすごいなら味わってみるのもいいかもしれない。
そう思っていたけれど、池田誠は、ただ俺に優しくして立ち去っただけの男だった。
どうして誠は、あの時、俺を助けたのだろうか。
何度考えてもわからない。
わからないから、誠のことを考える。
考えても答えなんて見つからないから、誠のことばかり考えてしまう。彼は、まるで真冬に灯された1本のマッチのように、俺の心を温めてくれた。
彼から結婚していたと聞いた時は、奥さんがいたからホテルに一緒に泊まらなかっただけだと思った。 所詮、彼だって見返りを求めていたけれど、奥さんがいたから仕方なく帰っただけだ。誠に対して失望にも似た感情が芽生えた。
だけど、結婚なんてしていなかったと知って、ますますわからなくなった。
誠は、俺に何も求めてこない。愛なんて欲しがらず、ペットの面倒を見るように優しくしてくれる。その関係がすごく心地いい。
手作りのカレーを食べた帰り道、やけに胸が満たされた。
ああ、そうか。
俺は、ただ何も求めず俺の傍にいて欲しかったんだ……。
夜空に浮かんでいる月を欲しがるように手を伸ばす。誠は、夜空に浮かぶ月と同じで手の届かない存在に思えた。
元カノにひどいことを言った夜、誠から言われた叱責の言葉を思い出す。
「……あの子は、お前のことを本気で好きだったんだよ。お前のために尽くしてきたんだろう。どうしてあんなに冷たい態度をとれる? せめてお礼と謝罪くらいするべきだろう」
「人は長い時間を過ごしたらその存在が大切になるし、身体を繋げると情も湧く。蓮は、自分が関わった人や、これから関わる人を大切にするべきだ」
こんな言葉を俺に言ってくれる人は、俺の人生で今までいなかった。
どうしてだろう。
どんなに情熱的な告白よりも、こんな言葉に愛を感じるのは……。
何で誠は、一緒にいた期間が短いのに、俺のことを誰よりも理解してくれるのだろうか。
誠は、どんなに貢いでくれた女の子より、俺のための言葉をくれた気がする。こんなことを他の人に言われたらウザイと切り捨ててしまうかもしれないが、誠の言葉が頭から離れない。彼から俺に向けられる言葉がもっと欲しいと思ってしまう。
しかし、楓が俺の前に現れて、取引を持ち掛けた時、全てが終わったと思った。自分がお金のために誠に近づいただけだったことを思い出した。
楽な仕事だった。
これで大金が手に入る。ブランドの時計を新しくするのもいいかもしれない。
今回は、誠と肉体関係を結ぶこともなく、鬱陶しくすがられることもなく終わった。俺の求めていた金が手に入る。誠は楓と付き合っているし、俺がそこに入る隙はない。誠に近づかなければ、全てが終わる。
だけど、ふいに貼り付けていた笑顔が、崩れ落ちる。
嫌だ。
楓に誠を渡したくない。
誠にもう会えなくなるなんて嫌だ。
ナイフに刺されたような激しい胸の痛みと共に、ようやく自覚した。
ああ、そうか。
俺は、誠に惚れていたのか。
これが人を好きになるということか。
この俺が、恋をしたのか。あんなにも愛というものを嫌っていたのに、誰かを愛することを知ったのか。
誰にも渡したくないという独占欲と嫉妬が、自分の中でグルグルと渦巻く。
愛なんて気持ち悪いとバカにしてばかりいた俺が、本気で恋に落ちるなんて……。
次に会う時は、誠は、楓の前で嘘をついた俺に怒るだろうか。誠は、俺のこと嫌いになってしまっただろうか。
前に、誠から言われた言葉を思い出す。
「ようやくわかった。お前は、俺のことなんて全然好きじゃないし、人を好きになったこともないんだな。だから、誰かを好きになるという気持ちがわからないし、平気で人を傷つけることができるんだ」
俺、あの時、元カノになんて言ったっけ……。あれだけ尽くしてくれた子に、二度と近づくなとか、迷惑とか、言っていた気がする。
好きな人に、ひどい言葉を言われたら傷つくよな。もしも、俺が誠にそんなことを言われたら、耐え切れない。
誠と出会うまでは、そんなことにも気がつかなかった。自分が不幸だったから、今まで、出会ってきた人たちに最低な態度ばかりしてきた。他人をどれほど利用しても、何も思わなかった。
そんな自分に、初めて嫌気がさしてきた。
急には無理だけど、少しずつ変わっていきたい。誠が言っていたみたいに、周りにいる人間を大切にできるようになりたい。
俺は、綺麗な生き方をしてきたわけじゃない。いわゆるクズという男に分類されるだろう。いろんな人を傷つけてきたし、愛の告白だって、ひどい言葉で切り捨ててきた。
そんな生き方だって、誠が近くにいてくれたら変えられる気がする。
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