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動く歩道
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彼に呼び出された日、僕は今まで彼からもらったお金を全て持ってきて突きつけた。
「返す」
「どうしたんだ、急に」
「もともと、いらなかったんだ。お金をもらうことも、売春婦みたいで嫌だった」
「だからって、返すことないだろう。これはお前にあげたんだ。好きに使え」
「いい。いらない。もうあんたともやらない」
「ああ、あの熱愛報道をみたからすねているのか。彼女とは新曲の打ち合わせのために、焼肉に行っただけだ。DUSTYはプロデューサーと恋に落ちている」
「違う……。違うんだ。身体の関係ばっか続けても、虚しいし、寂しいんだ。あんたは、どうせ僕のことなんて好きじゃないんだろう。そうじゃない人がいいんだ。僕を好きで、求めてくれる人に出会いたい」
何故か感情が制御できなくて、涙があふれてくる。
いい年してみっともないな。
「ずっと寂しかった。どんなに苦しくても弱音を吐ける相手なんていないから、全部、一人で抱えて生きてきた。だから、あんたが声をかけてくれた時、うれしかったんだ。だから、やめられなかったんだ」
彼から身体を求められた時は、嬉しかった。
歩く歩道でいた時だってそう。
歩道の上で動かない彼を見て、僕でも役に立てていることが嬉しかった。誰かに必要とされていることが嬉しかった。
本当は、僕は心の底で、ああいう風になりたいと願っていたから、歩く歩道になったのかもしれない。
「でも、今は、辛くて、寂しくて、孤独で押しつぶされそうなんだ。このままじゃ僕が壊れてしまう。だから、全部、終わりにしたい」
彼は、そっと僕の頭を撫でた。
「どうして、お前、あの曲を歌ったんだ?」
「君が歌っているのを聞いていた。僕は、歩く歩道だったんだ」
もうどうでもよくなって打ち明ける。頭のおかしい奴だと思われたかもしれない。
「何だよ、それ。あはははははははははっははははっははははっははははっははははははっははっはは」
彼は、大声で笑い出した。
「君は、一人でよくあの曲を歌っていた。僕は、そのあの曲が好きだった」
「ストーカーでも、もっとましな想像をするだろう。あはははははは。やばい。腹が痛い」
「……」
どうしてだろう。
彼は、笑いながら泣いていた。
「でも、あの動く歩道は、俺の曲に合わせて進む速度が変わったんだ。面白いよな」
くしゃくしゃに顔を歪めながら、彼は語りだした。
「父の……理想を押し付けられていたんだ。会社の跡取りになれとばかり言われていた。ガキの頃から、ずっと逃げ出したいを思っていた。だけど、お金の不自由がない生活を捨てる勇気がなかった。あの動く歩道の上だけが、唯一の休憩場所だった。動かなくても、道は進んでいくことに安堵していた」
「……それから?」
「大学も決められ通いだし、婚約者も決まり……全部、父の望み通りの人生だった。もう何もかも捨てて死にたいと考えていた時に、信じられないことに、歩く歩道が止まった。そしたら、全てを許された気分になった」
ああ、僕は彼の運命を変えてしまったのか。
もしかしたら、そのために動く歩道になったのかもしれない。
「そして、全部、捨てて夢だけを追いかけたんだ」
彼の語るエピソードは、夢を諦めた自分には眩しく感じられた。
「あんたの言う言葉なんてただの笑い話だ。本当のことなんてわからない。だけど、何故か心のどこかで本当のことを言われている気がするんだ。バカだろう。ストーカーだと聞いた方がまだ信憑性高いはずなのに……。いなくなるなんて言うなよ。俺の傍にいて。さみしかったら、一生傍にいてもいい。俺は、あんたのこともっと知りたい。俺の全部あげるから、俺と一緒に生きてくれ」
彼からなだめるように優しく抱きしめられる。
どうして、こんな優しい言葉を僕なんかにくれるんだよ……。
お前、何言っているんだよ。
洪水みたいな感情が止まらない。
全部くれるというなら、僕を必要として……。僕がいないとダメだと……僕じゃないとダメだと言って……。美しくもなく、かわいくもない僕を愛して……。
僕は、彼に抱きしめられたらまま子供みたいに泣き続けた。
「返す」
「どうしたんだ、急に」
「もともと、いらなかったんだ。お金をもらうことも、売春婦みたいで嫌だった」
「だからって、返すことないだろう。これはお前にあげたんだ。好きに使え」
「いい。いらない。もうあんたともやらない」
「ああ、あの熱愛報道をみたからすねているのか。彼女とは新曲の打ち合わせのために、焼肉に行っただけだ。DUSTYはプロデューサーと恋に落ちている」
「違う……。違うんだ。身体の関係ばっか続けても、虚しいし、寂しいんだ。あんたは、どうせ僕のことなんて好きじゃないんだろう。そうじゃない人がいいんだ。僕を好きで、求めてくれる人に出会いたい」
何故か感情が制御できなくて、涙があふれてくる。
いい年してみっともないな。
「ずっと寂しかった。どんなに苦しくても弱音を吐ける相手なんていないから、全部、一人で抱えて生きてきた。だから、あんたが声をかけてくれた時、うれしかったんだ。だから、やめられなかったんだ」
彼から身体を求められた時は、嬉しかった。
歩く歩道でいた時だってそう。
歩道の上で動かない彼を見て、僕でも役に立てていることが嬉しかった。誰かに必要とされていることが嬉しかった。
本当は、僕は心の底で、ああいう風になりたいと願っていたから、歩く歩道になったのかもしれない。
「でも、今は、辛くて、寂しくて、孤独で押しつぶされそうなんだ。このままじゃ僕が壊れてしまう。だから、全部、終わりにしたい」
彼は、そっと僕の頭を撫でた。
「どうして、お前、あの曲を歌ったんだ?」
「君が歌っているのを聞いていた。僕は、歩く歩道だったんだ」
もうどうでもよくなって打ち明ける。頭のおかしい奴だと思われたかもしれない。
「何だよ、それ。あはははははははははっははははっははははっははははっははははははっははっはは」
彼は、大声で笑い出した。
「君は、一人でよくあの曲を歌っていた。僕は、そのあの曲が好きだった」
「ストーカーでも、もっとましな想像をするだろう。あはははははは。やばい。腹が痛い」
「……」
どうしてだろう。
彼は、笑いながら泣いていた。
「でも、あの動く歩道は、俺の曲に合わせて進む速度が変わったんだ。面白いよな」
くしゃくしゃに顔を歪めながら、彼は語りだした。
「父の……理想を押し付けられていたんだ。会社の跡取りになれとばかり言われていた。ガキの頃から、ずっと逃げ出したいを思っていた。だけど、お金の不自由がない生活を捨てる勇気がなかった。あの動く歩道の上だけが、唯一の休憩場所だった。動かなくても、道は進んでいくことに安堵していた」
「……それから?」
「大学も決められ通いだし、婚約者も決まり……全部、父の望み通りの人生だった。もう何もかも捨てて死にたいと考えていた時に、信じられないことに、歩く歩道が止まった。そしたら、全てを許された気分になった」
ああ、僕は彼の運命を変えてしまったのか。
もしかしたら、そのために動く歩道になったのかもしれない。
「そして、全部、捨てて夢だけを追いかけたんだ」
彼の語るエピソードは、夢を諦めた自分には眩しく感じられた。
「あんたの言う言葉なんてただの笑い話だ。本当のことなんてわからない。だけど、何故か心のどこかで本当のことを言われている気がするんだ。バカだろう。ストーカーだと聞いた方がまだ信憑性高いはずなのに……。いなくなるなんて言うなよ。俺の傍にいて。さみしかったら、一生傍にいてもいい。俺は、あんたのこともっと知りたい。俺の全部あげるから、俺と一緒に生きてくれ」
彼からなだめるように優しく抱きしめられる。
どうして、こんな優しい言葉を僕なんかにくれるんだよ……。
お前、何言っているんだよ。
洪水みたいな感情が止まらない。
全部くれるというなら、僕を必要として……。僕がいないとダメだと……僕じゃないとダメだと言って……。美しくもなく、かわいくもない僕を愛して……。
僕は、彼に抱きしめられたらまま子供みたいに泣き続けた。
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