香りに落ちてく

からどり

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 俺をつけていた男は意外とすぐ後ろにいた。
驚いた顔をして、立ちすくんでいる。

「あんたに聞きたいことがある」

顔を見られないようにするためか顔は黒いマスクで隠していた。

「なんだ。金ならないぞ。財布みるか?」

物取りだと思って、俺は潔く軽い財布を出そうとした。

「金目的じゃない。単なる質問だ。警戒しないでくれ」

質問?過去を振り返ってみたが、金を持ち逃げしたこともないし、埋蔵金のありかも知らない。

「なんだ。ここで聞くなら質問に答えるけど」

「……」

男は迷った素振りを見せた。

「あんた、俺のこと臭いと思うか」

「はい?」

いきなりなんだ? 臭いか? 無遠慮に俺は鼻を近づけた。

ハツラツとした、新陳代謝の良い若者の体臭がする。
俺の癖に刺さる汗とスパイシーな臭いだ。

「俺は好きだぜ。あんたのにおい。付き合いを申し込みたくなるくらいだ。でもあんまり良い匂いじゃないらしいな。世間一般では?」

男はびっくりした顔をした。

「体臭の悩み持ちか。毎日、風呂入って洗ってるよな?石鹸の臭いもする。気を使ってるんだろ」

「あ……うん」

「臭いが気になるなら、運動した後とか小まめにデオドラントシートとかで拭いたら良いんじゃないか?」

「なにを使えばいいか分からない」

「あー。効果あるかどうかか?」

彼は頷いた。態度がなんか幼いな。

「なら、実験したらどうだ。家族とか友だちに頼んで、臭いがなくなったか確認してくれって」

男がそっぽを向いてしまった。
あー、これは家族とか友だちに臭いと言われたか?

「あんたの家に俺が行って……は、俺を呼びたくないよな」

男同士でも初対面の男を入れるのは怖い。
だけど俺の家も人を上げれるような家じゃない。物がなさ過ぎて「寒々しい」とか言われたことあるし。

「俺の家、父さん達もいるし、兄貴と同じ部屋だから」

「ああ、それだと兄貴に怒られるな」

じゃあ、後はホテルか。金かかるな。
 俺の家は賃貸マンションで、もうすぐ契約延長するかどうかだ。住所がバレてヤバいなら契約延長せずに引っ越せばいい。

「俺の家に来るか。それくらいならさせてやるぞ」

「いいのか?」

「一人だし、何も大事なものはないからな」

「なら、行きたい。いつ行っていい」

急に食いついた。こいつ、自分に来られるのは警戒するのに、自分から来るのは軽快だな。

「あー、週末でもいいけど。とりあえず電話番号くらいは交換しないか」

「ああ、そうだな。俺の名前はユズルだ。ユズルで登録してくれ」

何の疑いもなく彼は電話番号を教えてくれた。

「俺はユウヘイだ。待ち合わせ場所はここの最寄りの〇〇駅で良いだろ」

俺も電話番号を教える。

「あの、じゃあ、土曜日の午後くらいに〇〇の駅で待ってるんでお願いします。俺、消臭剤とかいろいろ買って行くんで」

「おう。俺も茶くらいは準備しとく。じゃあな」

俺達はその場で別れた。

 前日、ユズルから電話がかかってきた。

「もしもし」

アドレスに登録してるから、かかってきた相手は分かるが名前くらい名乗れと思った。

「おう、ユズルか。どうした。電話かける時は最初に名乗れよ」

「ごめんなさい。あの、明日、よろしく、おねがいします」

急にたどたどしい口調になった。
最近の若いやつは電話が苦手らしい。俺も若いと思ってたがアラサー目前。電話に慣れたおっさんになりつつある。

「おう。そんなに気負うなよ。明日は朝シャンとかせず来いよ。臭いが消えてるか分かり辛いから」

「……はい。じゃあ、また……」

そう言われて返事が切れた。
最後のあいつの返事を聞くとなんかイケナイことしてる気分になった。

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