【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない

貴女の推しは誰ですか?

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避暑地に滞在する最後の日が訪れた。楽しい一日にも必ず終わりはあるのだから、それは構わないのだけれど、問題はピンク頭が帰り道となる門の前に陣取って動かないことにある。

「ヴォルフ様……まだ門の前に陣取っておりますわ」
「そうだね、彼女が大声で僕たちの存在を叫ぶものだから……避暑地での予定が総て台無しになってしまった」
「……暗殺の危険がある者しか滞在しておりませんものね」

ピンク頭を泳がせるという目的を達成するためとは言え、流石に居座るとは思っておりませんでした……野宿も【乙女ゲーム】の定番なのだろうか?
貴女が大声で殿下や生徒会の皆様が来ていると叫んだものだから、暗殺される可能性を考慮して一歩も門の外に出られなかった。
あの場所で殿下の居場所を叫ぶということは……そういうことだ。

「ルナ、一度戻ろうか」
「ええ……帰るための作戦を練る必要がありますわね」

居座り続ける事に意味があるのかは全く分からないけれど、この一週間…ピンク頭がまだいるか、いないかの確認を妃殿下に頼まれたことを考えると、明らかに【乙女ゲーム】が関わっている何かのイベント?シナリオ?が発生する予定だったのではないかと思う。
誘われなかった時点で多分だけど…その何かは発生しないよ。
牧場系とか冒険系も前段階の何かが発生しないと、先に進めなかったりするから……シナリオとはアレの事だろう。
先に進めないなら【ゲームなら】何とかなるかも知れないけれど、この世界は【現実だから】どうにもならない。

私とヴォルフ様はピンク頭がまだ居座っていることを報告し、皆で帰るための作戦を練ることにした。

「食堂の時の様に変装するというのはどうだ?」
「成る程、気が付かれませんでしたからね」

殿下とヴォルフ様が仰るように、ピンク頭は確かに誰の変装にも反応しなかった。けれど…アレは離れていたからなのではないかと思えてならない。
それは妃殿下も同じ思いであったらしく、私が意見を申し出る前に殿下とヴォルフ様に仰った。

「ですが、遠かったから……という可能性もありますわ」
「………私も妃殿下と同じ意見ですわ」

私は妃殿下の言葉に賛同した。推しがいる身としては、例え変装していたとしても「推しの貴重なお姿を拝見できた」と興奮するものだ。それくらい推しとは尊く偉大な存在。
ヴォルフ様が変装なさっていた時の私の心境は「推しが尊い!」だったのだから、妃殿下も似たような気持ちを殿下に対して抱いたのではないだろうか?

「リリーは私の変装を一瞬で見抜いてくれたから……そう思うのだろうけれど、今回ばかりは私とヴォルフが正解だと断言しよう」
「気付かれないという確信がお有りですの?」
「私を信じてくれないか?リリー」
「私はアル様を誰よりも信じておりますわ!……………あっ」

妃殿下も殿下の仔犬のような瞳には弱かったのですね。恐いだけの方ではない事は存じ上げていたつもりでしたが、目の当たりにすると私と同じなのだと安堵致します。

「ルナも……僕を信じてくれる?」
「当然ですわ!……………ッ」

やってしまった。私と妃殿下は推しに完全敗北した。後悔は無いけれど、それでも不安は残る。
ピンク頭の真横を通り過ぎて馬車乗り場に向かう……だからこそ、ピンク頭の推しが誰かによってはバレてしまう。

そう……警戒していたことも有りました。結果として申し上げるのならば、ピンク頭は誰が通っても全く気が付かなかった。
ヴォルフ様は最初からピンク頭の標的ではないから、別の意味で標的にされている私が変装することになったのだけれど、それ以外の方々は殿方が変装して婚約者をエスコートしながら、ピンク頭の真横を通り過ぎていく。
最初は殿下と妃殿下、次いで標的となっている側近たちとその婚約者たち、最後がヴォルフ様と私。

馬車乗り場に到着した時、私と妃殿下が複雑な心境になったのは言うまでも無い。あれほど騒ぐのだから、ピンク頭の推しが真横を通れば必ずバレると本気で思っていた。

「リリー、信じてくれて有難う」
「いえ……私は………」
「分かっている、リリーは私の変装を一瞬で看破するから不安になったのだろう?…………嬉しいよ」
「アル様」

妃殿下の手が震えているのが分かる。私も……ヴォルフ様の手を離せないでいるから。その震えが表すのは安堵と………怒り。
あれだけ大声で「私はヒロインだ」と叫んで於きながら、誰にも反応しなかった。妃殿下にはこれが許せなかったのだと理解できる。
私からピンク頭に問いたいことがあるとすれば一つだけ。
…………貴女の推しは誰ですか?
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