【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生辺境伯令嬢の一途な愛

弟の一度目の婚約

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 彼女が我が家に来てから少し経った頃、弟の紙面上における婚約が決まったと、お父様からお聞きした。
 幼馴染の子と婚約する様だけれど、我が家は辺境を守護する家系よ?本当に大丈夫なのかしら?
 私の考えとは裏腹に、幼馴染の子がヴォルフに愛を囁く場面を見かけることも少なくはなかった。
 だから…安心してしまったの。あの子はヴォルフの内面を好きになったのだと……そう、思ってしまったのよ。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 辺境伯家の役目は国の盾となり、矛となること。
 それに例外はなく、ヴォルフも国の矛となり盾となる日がやって来て、華々しく初陣を切った。
 名誉にかけて「ヴォルフは国を守り抜いた」と言えるでしょう。けれど、多くの子女を虜にした美貌は損なわれて帰って来た。
 ヴォルフが傷跡を気にしている様子は無く、寧ろ誇りだと言わんばかりに瞳を輝かせている。
 私もヴォルフの顔の傷跡は名誉の負傷だと断言する。

 辺境を守護する者に生傷が絶えないのは当たり前。何よりも初陣で生きて戻ったのなら僥倖。
 私にとって信じられなかったのは、ヴォルフの顔の傷跡でもなければ、美貌が損なわれたことでもない。
 あれだけヴォルフに愛を囁いておきながら、顔に傷跡が出来た程度で態度を一変させた幼馴染の方よ。
 あの態度の変化には驚きを隠せない(わけもなく、貴族らしく隠し通した)けれど、仲睦まじい婚約者が聞いて呆れるわ。

「彼女の愛は紙切れ一枚程度の価値しか無かったわね」

 私は、ヴォルフとあの子の婚約を示す紙切れに記された文字の羅列を、指で一つ一つ丁寧に辿りながら呟いた。
 見る目がない……それは、私にも言えること。
 あの子の言葉を鵜呑みにして、内面に惹かれたのだろうと勝手に勘違いしたのは……私。

 その後も、信じられない態度を幾度も見かけたけれど、流石に我が家との繋がりは絶たないだろうと思っていた。
 相手は子爵家、我が家は辺境伯家。
 王室との繋がりも深く、公爵家との繋がりもある我が家との婚姻は、貴族家の後継ならば誰もが求め欲するところ。

「婚約の白紙撤回?」
「そうだ」

 信じられないことが起きた。子爵家との婚約は様々な事情も絡んでいたのだと、後になって知ったのだけれど、それに関しても我が家には何のメリットもない話だった。
 ヴォルフが婿入するには家格が落ちる。子爵程度ならば実力で勝ち取れるレベルなのだから、恩着せがましく「我が家の婿にしてやろうとした」などと言われる筋合いはないわ。
 新興貴族なだけならメリットもあるでしょうけれど、あの子の家は【横の繋がり】も【縦の繋がり】も極端に薄い。
 だからといって、平民との繋がりが深いわけでもない。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 お父様からヴォルフの婚約が白紙に戻ると聞かされてから数日後には、両家の繋がりとなる婚約が完全に白紙に戻された。
 その確認のために、我が家と子爵家が最後の対面を果たすことになったのだけれど、何故……貴男たちが喜んでいるのかしらね?

「婚約の白紙撤回は成立した」

 お父様が淡々と子爵に告げると、恩知らずな子爵は驚いた顔をしていたけれど、何を驚くことがあるのかしらね?

「宜しいのですかな?我が家への婿入りを諦めても……」

 何処までも上からなのね。デメリットしかない婚約をお父様が許していたのは、ヴォルフを大切にしてくれると思っていたからよ?
 でなければ、メリットのない婚約を結ぶ筈がないでしょう?

「貴家との婚約は我が家に何のメリットもなくてね」
「……………へ?」
「息子を大切にしてくれると思ったのだが……違ったようだ」

 お父様の笑顔は我が家で最も優しく穏やかと評判なのだけれど、汗が凄いわよ?暑いのかしら?

「わ……我が家とのこれから」
「ん?」

 笑顔で首を傾げるお父様は本当に優しいわね。あら、今度は顔が青いわよ?風邪かしら?

「子爵家一行がお帰りだ」
「「「「承知致しました!!」」」」

 我が家の騎士は器用ね。口元を然りげ無く塞ぎながら退室する技術は私も見倣いたいわ。

 我が家と縁を切って、子爵家は多大な借金をどうするのかしら?
 …………貴族で無くなる家のことなど、どうでも宜しいけれど。
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