状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!―加筆修正版―

三〇八

文字の大きさ
71 / 197
状況の人、異世界で無双する

状況の人、移動中2

しおりを挟む
「はぁ……全く気が重い……」
 魔導王国の中央、ウェアウルフの魔王シーエス領とオークの魔王モノーポリ領の間に位置する王都モーグの更にど真ん中に聳える王国の中枢エンソニック城。
 魔導王フェアーライトの居室・執務室に続く廊下を歩みながら、王国府宰相システ・ハウゼンは正に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
 これから訪問するフェアーライトに、南部ツセー市においてアデリア側との衝突事例の増加についての報告をしなければならないからだ。
 先の大戦においてウエアウルフの魔王シーエスの領地は一番の激戦区であった。
 巨大な港町を擁するアデリア側のオデ市、シーエス領ツセー市は海外交易路である港湾利権を独占出来れば自国は富み、相手側の国力は著しく下げる事が出来る。それ故に陸海での戦闘は苛烈を極めた。
 それもあって終戦後の再編成では最重要地域に指定され、予算・物資共に優先的に回されていた。
 西北部の港は冬季の間は荒天続きで船舶による交易が事実上不可能であるため、ツセー港防衛は何にもまして重要だ。
 だが、それはオデ市も同様である。アデリアにとって頼れる貿易港はオデ市しか無いと言って良い。
 比較的関係が良好な北部は、港湾も限られている上に魔王オーバハイム領ジュピトー市同様に冬季は使える気候ではない。故にオデ港の防衛は絶対だ。
 そのため、両国の国防軍は常に睨みあいの状態であり、現在は表向き国交を結んでいるとは言え、交易に関しては北部のイオス・シーケン領とポリシック領ほどは盛んではない。
 だが全く無い訳では無い。やはり、お互いがお互いの産物を求め合うところは北部同様に当然存在する。
 システとしては啀み合わず交易を深めて二国を取り巻くアンドロウム帝国やポータリア皇国に付け入るスキを与えない様に富国に努めたいところであるのだが……。
「あの戦バカの犬コロどもは目先の餌だけを考えおって!」
 などと愚痴がこぼれ続けるほど、現地では敵陣の軍施設を狙う過激派のテロや互いの交易商人への差別・虐待等が頻繁に報告され、その都度外務局が奔走させられているのが現状だ。
 これが軍備の再編度が高まると同時に発生件数が増えてきている。
 終戦後あたりでこそ騒動の責任のなすりつけ合いで紛糾した双方の外務役人による合議の場も、10年前辺りからはそれら軍の尻ぬぐいの連続に嫌気がさし、最近ではお互いの心労を労いあう場になっている有様だ。
 システもまた外務局と同様の思いの一人であり、6魔王はシステやポリシックの様なハト派とシーエスや中央部を所領とするモノーポリらのタカ派に別れつつあった。
 同行した秘書リバァ・モウルも、
「もう少し、全体が見える位置まで下がって頂きたいものですね」
と、システの心中を察して賛同の意を示した。
 廊下を歩いてしばらく、システたちは一番の突き当りに有るフェアーライトの執務室に到着した。しかし、

ガシィ!

部屋の入り口を守るロイヤルガードの装備する槍が扉の前で交差され、二人はそれ以上の前進を拒まれた。
 軍の中でもエリート中のエリートであるロイヤルガードの任に着く将兵であれば、行政の長たる現宰相の顔を知らないはずはない。
 で、あっても彼らは、陛下の許可なくしては何人たりともこの扉を通すことはない。
 紅色の甲冑で全身を固めて槍を交差している二人と、その中心で槍と扉の間に立つガードリーダー。システはそのガードリーダーに用向きを伝えた。
「陛下より下令された、南部治安状況調査の報告書をお持ちした。陛下に取り次いでいただきたい」
 システが口上を述べるとガードリーダーは扉をノックし、中の側近と短く言葉を交わした。直後に、ガード二人に遮った槍を納めるよう指示する。
「失礼いたしました。陛下がお会いになられます、どうぞお通り下さい」
「お役目ご苦労」
 任務に忠実なロイヤルガードに労いの言葉をかけ、システはリバァを伴って居室に入った。
 入ると扉横にはメイドの姿をしたガードが二人控えていた。
 彼女らの一礼を受けながら中に進むシステとリバァ。しかし正面の執務用の机には魔導王の姿は見当たらなかった。
 システは机の傍に立っていた執事を思わせる出で立ちの、初老の侍従官に目を移して「陛下は何処いずこか?」と問うような視線をくれた。
 侍従官は彼女に促すように、目線をバルコニーの方へ向けた。
 その目線を追いかけてシステがバルコニーに目を移すと、そこに置かれた椅子の上で、自分の治める国の近景を眺めながら人間で言えば20代後半に見える、赤い髪をボブにした女性が一人、スラリとした脚を組みながらテーブル前に腰をかけて生クリームてんこ盛りのパンケーキを楽しんでいた。
 魔導王フェアーライトである。
「ご休憩中に失礼いたします陛下」
 システはケーキを頬張る魔導王フェアーライトに頭を下げた。
「構わぬ。ツセーの近況報告であろう? すぐに聞かせてくれ」
 フェアライトは口元に着いた生クリームを舌でペロッと舐めながら報告を催促した。
「恐れ入ります。では、リバァに読み上げさせます」
 言われるとリバァは報告書を手に説明を始めた。

「武器の支給・補充を、他所より最優先にしていることを何か勘違いしているのかな、シーエスは?」
 報告を聞き終えたフェアーライトは、パンケーキを平らげて甘ったるくなった口内を洗い流す様に、茶を飲み干しながら呟いた。
「まあ、先の大戦では1、2を争う激戦区であったし、魔導国を守った最大の功労者だという自負もあろうなあ。その気概も分からなくはないし……」
「しかし!」
 遮るシステ。
「だからと言って、このような小競り合いを放置していては、いつまた戦争の引鉄になってしまうかもしれないというのに……彼らにはその自覚が足りないと言わざるを得ません。再建が必要なのは軍備だけではありません。国内経済もようやく安定してきたところであります。アデリアとは緊張を保ちつつも、経済では相互に益となる路線を進めるべきかと!」
「その辺はポリシックが、上手いことやっておるな。だがシーエスは奴らを軟弱者と罵るであろうがのう」
「もちろん気を緩めることは出来ません。ここ、魔導王国は我ら魔族にとって最後の砦、ここを失ってしまっては元も子もないと言う事は、わかっているつもりですが……」
「先代魔導王の時代、大陸中で忌み嫌われて、抑圧されてきた魔族が流れ流れて西の端っこの、この地域に集まり身を潜めて数百年。先住していた人間たちとも最初こそ敵対していたが、やがて和解して共に発展してきた。アデリアともそうなりたい気持ちはあるが、それを良しとしない連中はアデリアのみならず他の列強国にも多い」
「特にポータリア……」
 リバァが二人の間に入る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...