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状況の人、異世界で無双する
状況の人、追撃中2
しおりを挟むしかし龍海は、マティが迂回路を使ってミニモ市を素通りし、エームス市を目指している事を知らない。
結局のところ龍海らはマティの馬車隊を捕捉することなく、ミニモ市を視認するところまで来てしまった。
「やり過ごされたかの?」
「既に市内入りしてる可能性は?」
「無いわけでは無いでしょうけど……魔獣の脚がじーぷに匹敵する速さでなければ……」
「どこかの集落に潜んでいた可能性も、それなりに高いのう」
「だとすりゃ……手当たり次第に走り回っても時間を浪費するだけか。やはりミニモの奴隷市場とかで情報を漁るか? 連中が常連……とはいかなくても前科が有るなら奴隷商を当たれば何らかの反応はあるだろう」
「連中は連中なりの道理があるぞよ? 取引相手の素性に関して口を割るかのう?」
「割らせますよ!」
間髪入れず答えるロイ。随分アツくなっている様だ。だが、
「落ち着けロイ。割らせる時はな、冷静になってどういう割らせ方が最適か、それを選んでやるもんだ」
他人の事は言えない。龍海もかなりアツくなっては来ているのである。
無理もない。
自分の油断から最も守らなければならない対象を攫われた。
自分らを陥れ、大切な仲間に危害を加える奴らの手に捕らえられているのだ。
なによりそんな手口にまんまと引っ掛ってしまった自分の情けなさ、不甲斐なさに心底怒りを覚えている。自分の油断――そう、自分自身の甘えに。
――正解不正解ではない、甘いと言っとるだけよ
かつてカレンに刺し込まれたこの言葉。ソレに今再び、胸内を思いっきり抉られている。
生き馬の目を抉る、それが当たり前のこの世界で、龍海は自分がまだ昔のままであり続けられると思い込んでいた。そしてこのザマだ。
――必ずケジメは付けてやる! どんな手段を使ってもだ。この世界にジュネーブ条約も協定も無ぇ!
まだ完全ではない。徹頭徹尾生まれ変わる必要もない。アツくなりながらも、自分の優位性を活かす算段は忘れない。
龍海は、明らかに一皮剥けていた。
どんな責めを負おうが、必ず二人を助け出す。龍海は友軍救出作戦の「状況の人」になりつつあった。この、状況の人へのスイッチする能力こそが龍海が龍海としてこの世界で生きていけるスキルとなりつつあった。
とは言え、火器総動員で闇雲に殴り込むのは愚策に過ぎる。
何と言っても、こちらは総勢三人だ。不要な連中――治安部隊などを出張らせるほどの騒動は避けるべきである。却って彼女らの危険度が増す。
狙うは奴隷商だ。
と言う事で、カレンに一芝居打ってもらう事にする。
「来訪目的は……商取引?」
城門前の検閲所で龍海らは上番していた、人で言えば四〇歳前後の中年検閲兵らの入場前検査を受けた。種族はオークであろうか?
「アデリアのもんが荷も持たずに何の取引だ?」
背嚢こそ背負ってはいるが(もちろんダミー)精々旅支度程度の荷物であり、商品が詰め込まれているとはとても思えない。検閲兵の言い分はもっともだった。
「そう思われるのも仕方ねえですけど……ほらアデリアじゃあ、この手の取引はご法度でしてねェ……」
説明しながら龍海が奴隷を示す様な首輪を架せられたカレンをチラッと。
検閲兵も言われて目を移し、そこで初めて首輪に気付いた。
「あ……はあん、そう言う事か。しかし乳や尻はいいとしてもよぉ、ちょっと古すぎねぇか?」
ビキ!
「へへへ、仰ることもごもっともですが、歳を召された方の中にはあまり若くてもダメだって方も居られるそうで……それなりに需要は有るんですわ」
「そうか。まあいい、だが禁制品の検査はさせてもらうぞ。おい!」
検閲兵は控えていた部下に龍海とロイの持ち物検査を指示した。
そして自らはカレンの検査に赴く。
斜め後ろに回った検閲兵は古すぎとか貶していたにも関わらず、いきなりカレンの胸を鷲掴みにした。
「く!」
思わずエロ親父を睨むカレン。
「あ? なんだぁ、その目はぁ?」
「……」
「女はなぁ、そういう所に禁制品隠すからよぉ。こっちも触りたくもねぇのに検査させられてんだぞぉ? 好きでババァの乳触ってると思ってんのかぁ?」
などと言いながら、より一層いやらしくカレンの身体を揉みしだく検閲兵。お約束にもほどがあるってぇくらいの狒々オヤジである。
龍海の耳にもカレンのこめかみ当りがビキビキする音が聞こえて来そうである。
だが、まだキレられては困る。もう一手、打つのも仕方なくなってきた。
「すいませんねぇ。躾がなってませんで。ちゃんと言い聞かせておきますのでここはひとつ……」
そう遜った言い方をしながら、龍海は大銀貨を検閲兵の手の内に滑り込ませた。
一瞬、龍海の顔を見る検閲兵であったが、そのあとは何も無かったように銀貨を懐に忍ばせると脚周りの検査をパパっと終え、
「よぅし。入っていいぞ。おい、鑑札くれてやれ」
支持された部下は、手すきのロイに鑑札と呼ばれた札を渡した。市民でなければこれを持っていないと不法滞在となる訳だ。
「どうもお手数おかけしまして……ところでこの街で一番の評判のお店とか……ご存じないですかね?」
と言いつつ、もう一枚の銀貨を検閲兵に握らす龍海。
「……東のディレイ商会ってのが……いや、知らんな、そんな界隈の事なぞな?」
「へへ、どうも失礼しやす」
龍海は前世で営業回りしていた時のような勢いで頭をペコペコ下げながら、ロイやカレンらと市内に入った。
「タツミ?」
「後でな。帰り際に好きなだけやっていいからよ!」
ビキるカレンを宥めつつ、龍海は足早に市内の東を目指して歩を進めた。
とりあえず、あのテイマー共の素性を洗うのが先だ。
検閲兵の情報通り、奴隷商ディレイ商会は町の東側にあった。
周辺はまだ早朝と言う事もあり、街中の賑わいと言う状況とは程遠い雰囲気で、どちらかと言うと倉庫街に近い空気である。他の文字通り倉庫らしいところでは、これから出荷するのだろうか、戸を開けて荷車を付けて品定めの準備を始める業者らもぼつぼつ現れている。
ゴン ゴン
龍海はディレイ商会の通用口らしき戸にぶら下がっている、ドアノッカーを叩いた。
「……」
返事は無かった。
ゴン! ゴン!
もう一度叩いてみる。
今度は、さっきより強い目に叩いてみた。
ゴト……
するとドアノッカーの横に有った幅15cm、縦5cm程度の窓が開き、ギョロっとした厳つい不機嫌そうな目がこちらを睨んできた。
「……まだ時間じゃねぇよ」
返ってきた答えもまた、不機嫌を隠そうとしない口調だった。
「いや~、すんませんねぇ。思ったより早く着いちゃいまして。こんな荷物抱えて時間潰すところもありませんし、査定だけでも……と思いましてぇ」
「売りか?」
「へぇ……」
と、ここで男の後ろから「売り客か? 品はどんなだ?」と確認を催促する声が聞こえてきた。
「品はどれだ? 女か、その小僧か?」
ここでも小僧扱いされ、ロイくんもムスッ!
――やっぱ少年趣味需要もあるのか? 年下趣味の上級国民の奥さま方相手? それともウホっ族?
「あ、こいつです」
そう言いながらカレンを前に引き寄せる。
「兄ぃ、ババァっすよ?」
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