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状況の人、最終決戦へ
状況の人、再び西へ1
しおりを挟む魔導王国の王都モーグ市が、蜂起した反乱軍に制圧されてから三日目。龍海たちは一路モノーポリ領エームス市を目指してジープJ53を走らせていた。
先だってのフェアーライト収監事件から龍海らとも打ち解け始めたモノーポリは、今回のクーデター軍であるシーエス勢とは同調しない方針を打ち出していることがティーグからの情報で明らかになった。
フェアーライトの上程により行われるはずだった首脳会議への調整のため、自領に戻っていたシステはその難を逃れ、現在はエームス市に身を寄せている。
その彼女と歩調を合わせるべく合流しようと、龍海たちはティーグも同行してジープを走らせているのである。
「卿、この調子なら今夜、宵の口にはミニモ市を通過出来ますね」
ロイが地図を見ながら大体の行程をナビしてくれた。座席が足りないので、前方の見張りも兼ねてロールバーに身を預ける形で立っている。そんな姿勢でナビまでやってくれるロイくん、うん偉い、龍海への愛のなせる業()。
すでに車は魔導国領に入り、あの置き引きマティらを追跡した見覚えのある街道に入っていた。
「す、すごいなこの乗り物は! 馬車の五倍、いや十倍くらい早くないか?」
と同乗したティーグ。お約束の驚きの中、ジープの激しい上下動で舌を噛まないように。
「大丈夫!? 気持ち悪くなったら言いなさいよ!」
助手席の洋子が自動車に初めて乗るティーグを気遣う。
決して乗り心地がいいとは言えないジープ。しかも未舗装の街道を平均40キロ前後で突っ走っているのだからその上下動たるや全速力の早馬車よりも複雑で激しかろう。
J53は空荷であっても出せる最高速は110キロ程度だが、70~80キロからでもアクセルを踏んだ時のトルク感の力強さはかなりのもの。
しかし今現在乗っているのは定員4人を2人オーバーした6人である。しかも物資を乗せたトレーラーカーゴをピントルフックで連結しているので、安全面からもこれ以上の速度は出せない。寧ろ出し過ぎな感すらある。
「シノさん、そろそろ休憩したら? 着くまでにバテたらマズいでしょ?」
アウロア市を出発してから約6時間。その間の休止と言えば、3時間ほど前に洋子らが望んだトイレ休憩くらいなものだ。
しかし龍海は、演習場等で経験していて荒れ地を走破する事には慣れていた。誰もいない河原や堤防を、エアガン片手に縦横無尽に走りまくった(他者に見られていたらほぼ間違いなく通報モノである)経験がこんなところで役に立ってしまっている。
何よりメルの事が気掛かりで気が張り詰めており、身体が操縦をやめることを拒否している。
「ありがとよ。だけど一刻も早く!」
言葉の通り、洋子の気遣いは嬉しかった。しかし気は逸りまくっていた。
エームス市に、モーグ市に近づくたび、メルへの想いもまた昂る。自分で今まで気付かなかった、自分自身の、メルへの想いだ。
情けなくもあるのだが、これほど自分の中に、イノミナ――メルが入り込んでいたことが、今度のクーデター騒ぎが起こるまで自覚出来ていなかった。いや、初めてのそんな感情に戸惑い、距離を置きたがっていたのかもしれない。年齢=彼女いない歴を拗らせた弊害だろうか?
「気持ちはわかるけどさ、事故ったらシャレにならないし! 何ならあたしが運転変わってもいいし!」
「あ? お前、免許持って無いだろ?」
洋子の意外な提案に、張り詰めていた気がちょっと削がれた。
「免許を持ってないことと、運転できる、できないは別よ? あたし、うちの会社の敷地で子供の頃からいろんな車、動かしてたし。シノさんほど速度は出せなくてもMT車だって操縦できるよ?」
「そういや親父さんが建機レンタル屋やってんだっけな? でもやっぱ慣れないうちは危ねぇよ。後ろに4人もいるしな!」
「気を付けるとこって馬車とすれ違う時くらいじゃない? チャリや年寄りの飛び出しも無いしさ?」
気が削がれた分、さっきより幾分気も落ち着いてきた。洋子もそんな龍海を宥めようとしたのだろう。
急がば回れでは無いが、洋子を攫われた時と同じだ。全速で走って息を切らしながらでは救援も対策を練るも無い。あの時は逸っていたのはロイの方が上だったが、今度はそれが自分で、その時要救助者だった洋子が自分に冷静さを嗜めてくれている。
「ああ、どうしてもって時は頼むよ。じゃあ、停められるところが有ったら一息入れようか?」
龍海は洋子の気配りを受け入れることにした。
それから5分ほど走り、馬車を避けられるくらいの路肩があるところを見つけてそこで停車、休憩することにした。
「昼イチで出発して、王都からミケレ辺境伯領を抜けて魔導国モノーポリ領入り。馬車なら三~四日はかかるだろうになァ。話を聞いた時は、まさかそんなに早く走れるとは思わなかったから……いやはや」
休憩中も地図を睨んでいる龍海と茶を飲みつつ、呆れと感嘆交じりで零すティーグ。
事ここに至っては、もはや龍海たちの素性を隠蔽する必要も薄くなってきた。
「結局、あのヤマネコ男からは大した情報は無し、か?」
「ああ。アマリア殿下が頑張ってくれたが、敵もさるものってヤツでな。シーエス勢からの指令はもうほぼ確定なんだが、どの筋からの命令なのかは本人ですら分からねぇみたいでなぁ」
ヤマネコアサシンを生け捕りにしたはいいが、決定的な証拠は得られず仕舞いで、尻の座りが悪い消化不良な顛末に、苦虫噛み潰しでボヤく龍海。そんな龍海の返答にティーグもまた、さもありなん、と言わんばかりに眉を歪ませる。
「そうだな。ああいう連中って、例えば朝起きたらポケットの中に標的の名前だけ書かれた紙とか忍ばされていて、そのまま即決行ってパターンなんだろうな。それはすべからく祖国のための命令であり、誰が指令元か? 標的は、どんな故あって消されるのか? など、そんなこと考えずに粛々と任務をこなす、と」
「そんな連中の存在も、話には聞いたことはあるけどよぉ……釈然としねぇなぁ、何考えて生きてんのやら?」
などとどぶ付きつつ、残りの茶をグイーっと飲み干す龍海。
もっとも、その辺りはハッキリせず、責任者の特定も出来ないとは言えシーエス勢、若しくはその同調者であることは揺るぎないワケで。アデリアと魔導国の連携を阻止する勢力であると断定して差し支えあるまい。魔導国大使のパナッソやティーグ、そしてアリータをはじめとしたアデリアの閣僚もそこは意見の一致を見ていた。
シーエスによる魔導国王都モーグ市制圧を受けて、アデリア国の閣僚は魔導王国との同盟・若しくは合併を含む統一国家を目指すことに舵を切った。
アデリア王国に対し、モノーポリ領府エームス入りした宰相システ・ハウゼン名で正式に支援要請が届いたのだ。
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