状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!―加筆修正版―

三〇八

文字の大きさ
140 / 197
状況の人、最終決戦へ

状況の人、再び西へ3

しおりを挟む

「殿下ぁ! あんた一体何でこんなとこに!」
「来ちゃっ……うおぇぇ……」
 王女は顔面蒼白であった。まあ、無理もないだろう。
 未舗装路の疾走に加えて、カーゴのサスペンションというものは所謂、乗り心地なぞ全く考えられてはいない。その上、雨対策と荷の固定のために耐水の幌を被せていた(故に隠れられてしまったわけだが)ので、窮屈な体勢のまま路面に合わせて跳ねるに任せの状態で腸内や脳内、事に三半規管も纏めて思いっきりシェイクされてしまったのだから。
「気ぼぢ悪い~」
「そりゃそうでしょうよ。ジープの方だって上下動厳しいのにカーゴなんて! ほら、降りて。着替えなきゃ!」
 アマリアは耐え切れずに嘔吐していた。吐瀉物がブリオーの胸元まで汚してしまっていたので着替えさせ、上半身だけでも洗浄しなければならない。
 と言う訳でその間、男子全員回れ右! そしてカーゴの荷物を降ろして荷台内の清掃。

「申し訳ありません、とんだご迷惑を……」
 深々と頭を下げる王女殿下。ようやく落ち着いたようだ。
 必要な物は出先で調達すればいいと考え、路銀はたんまり持って来てはいるものの、着替えは持ってきていないとの事。で、とりあえず以前イーナやカレンに着せていたジャージを着させることに。洋子やイーミュウの着替えスペアではサイズがぱつんぱつん(怒by洋&イ)で、と浮き上がって来てしまうからである。
 洗浄・着替えを済ませた後、胃にやさしいハーブ茶を入れて貰い、ホッと一息の王女殿下。聞いても仕方ないかもだが、とりあえず経緯いきさつの説明をしてもらう。
「……つまるところ、殿下はシノさまを追いかけて来られたわけですね?」
「はい! ぜひともタツミ様のお力になりたく!」
「で、早速足手まといになったと?」
 洋子の無慈悲な事実陳列罪。アマリアちゃん、一気にショボーン。
 ついで、助けを求めるように龍海をチラッと。
 ――いや、そんな目で見られても!
 困り眉毛の上目遣い。ほんのちょっと尖らす唇がいろんな意味でタチが悪い。
「しかし連れて行くしかないだろうシノノメ? ここまでアウロア市から随分離れちまったし、引き返すってのはナンセンスだしな。近場だと……ミニモの市政官に預けるか、人数をもらって王都へ運んでもらうか?」
 アマリアの唇が更に尖るが、注視していた龍海以外に気付いただろうか?
「アデリアの領事館・大使館は? 一応国交は有るんだったよな?」
「小さいが領事館は有る。しかしここいらでは目的地のエームス市だけだ」
「とりあえずミニモ市へ行こうよシノさん。王女様を野宿させる訳にも行かないしさ」
「か、構いません! それくらいは覚悟の上で!」
「そっちがどうでもこっちは構うの! 服もお洗濯しなくちゃいけないし!」
 プンスカモードの洋子さん。王族を相手にしても、ほぼほぼ通常運転。経験値積んで、心身ともにどんどん強くなって来なさる印象。
「一刻も早くエームスに行くつもりで野営前提で来たんだけどなぁ」
「シノさんの気持ちも分かるよ? すぐにでもメルさん助けに行きたいよね? でも殿下もあなたの奥さん候補なんだから、責任もって守らないとね!」
 状況が状況だし仕方ないでしょ? そんな目線をくれてくる洋子。なんだかどんどん姉御肌になってきた?
 龍海くん、口元を歪めるも洋子に同意することにした。
「そうだな、洋子の案で行こう。車は近くで収納するとして……ティーグ、骨折り頼まれてくれるか?」
「ああ、もちろんだ。とりあえず駐屯軍か市の役場に話を通して泊まるところを準備してもらおう。宰相からの書簡があれば誰も文句は言わんだろうし」
「すまんな。俺たち、あそこの奴隷商にカチ込んじまったから顔合わせたくねぇし」
「聞いてる。ハデにやらかしたらしいな?」
 などと揶揄からかい気味に笑みを浮かべるティーグ。
 と言う訳で、予定は急遽変更してミニモ市で一泊と相成った。カーゴの整備も終わり、全員がジープに乗り込んで早速出発……と思ったが、
「こいつの定員は4人なんだけどな~」
そこに7人である。定員オーバー・速度違反等々、取り締まるところが無いとは言え、安全性にはかなり問題がある。
 今までも前席に龍海・洋子。折り畳み式の後部座席の左右にカレンとイーミュウ。クッションを引いた荷台にティーグ。前方確認を兼ねてロイが立ってロールバーに掴まりベルトで繋げていたのだ。スペース的にも限界だった。
 ――背に腹は代えられんな……
 龍海はジープを収納し、街道に手の平を向けて念を込め始めた。次に記憶を辿り、新しい道具をイメージする。
 MP264万Pを消費して新たに再現リプロダクションしたそれは……
「……大きい」
和製ハンヴィーとも言われた汎用小型トラックである”高機動車”であった。これなら10人乗りで、荷物を載せる余裕も十分ある。
 これまではパーティ全員で5人と言う事、道が整備されておらず狭い道、場所も考慮して車幅や全長の小さいジープを選んでいた。同じ小型トラックと呼ばれるがJ53に比べて高機動車は全長で1.5m、車幅で50cmも大きいからだ。平原の街道ならばともかく、山道や林道、崖道などでは2,6tの重量も相まって不安があったのだ。
「……」
「……」
 初めて再現リプロダクションを目の前で見たアマリアはもちろん、ジープを収納から出されたところを見ていたティーグも目を丸くした。
「さ、さすがですわ、タツミ様……」
「シノノメ……あんた間違いなく、世界最高の錬金術師だわ……」
 ――錬金術とはちょ~っと違うような……
 とにもかくにも全員乗車。荷物もこちらに積載したのでカーゴも収納へ。
「よし、出発!」
 一行は一路ミニモ市へ向かって前進を開始した。
 どえらい荷物を背負うことになり、頭が痛い龍海だが今はそれは後回し。とにかく最善の選択を以てメル救出に向かわねばならない。

                 ♦

 戒厳令下のモーグ市にも日暮れが迫ってきた。
 通常ならば夜になっても盛り場等は、日付が変わる頃合いまでは一日の疲れを癒そうと労働者たちが集まり、それなりに賑やかなモノなのだが今は夜間外出禁止令が出され、至る所にシーエス軍の兵が配置されて目を光らせていた。おかげで小売店・飲食業も露天商と同じく日没と同時にそそくさと戸を閉めてしまう。
 そんな活気の薄れた市内の中心部、魔導王メル・ロッソ・フェアーライトの居城であるエンソニック城は当然の如く蜂起軍に制圧され、ロイヤルガードもすべて幽閉されてしまっている。
 蜂起軍の侵入を止められず抑えられてしまったロイヤルガードたちは、己が責務を全う出来ぬ屈辱と恥辱で自決を要求してきたが、メルの命令にも等しい説得でその任から一時解かれることを了承させた。今現在、彼女の居室の前で立哨に立っているのはシーエス配下の憲兵である。
 夕食前ではあるが、メルは先ほど茶請けに備えてあったクッキーをつまんで小腹を満たしておいたので空腹感は無い。空腹――脳に血糖が足りない状態では思案を巡らせるにも枷になってしまう、それは為政者としても避けておきたい。決してぜいたくで口にしているのではない、と思いたいが今現在、龍海が出してくれたあのケーキが無性に食べたくなるメルであった。それはもうヤケ食いしたくなるくらいに。
 何故ならこの不快な状況の大元であるシーエスを今、目の前にしているからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...