ダンゴムシのレッスン

中靍 水雲

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ダンゴムシのレッスン

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 たいがくんは、体いくのじゅぎょうが大すき。つぎが体いくの時間になると、いつもまっさきに体そうふくに、きがえます。
 しかし、今日はちょっぴり、がっかりがお。たいがくんのきらいな、マットうんどうのじゅぎょうだったからです。
 たいがくんは、前てんが大のにがて。マットの上で、からだをくるっと、かいてんさせるなんて、こわくて、できないのです。
 ほかのおともだちは、つぎつぎとマットの上を、前てんしていきます。いよいよ、たいがくんのばん。ですが、マットに手をついて、がんばってころがろうとしても、うまくいきません。
 けっきょく、今日も前てんをすることはできませんでした。
 学校からの帰り道。たいがくんは、とぼとぼと、つうがくろをあるいていました。
「はあ。どうして、ぼくは前てんができないんだろう」
「ころがれないなんて、人生の半分、そんしてるな!」
 声がしたほうをふりかえる、たいがくん。しかし、誰もいません。きょろきょろ、とあたりを見回しているうちに、何だかふらふらしてきました。目の前のけしきが、前てんしているみたいに、ぐるぐると回っていきます。

 ハッと気づくと、見たこともない大きな石がそびてたっていました。なぜだか草も、花も、巨大化しています。
「いや、ちがう。ぼ、ぼくが小さくなってるんだ!」
「ふう。これで、教えやすくなった」
 たくさんの足が生えたダンゴムシが、えへんと、むねをはっています。さっきの声は、このダンゴムシだったようです。
「教えるって、なにを?」
「ころがりかただよ。体いくかんのうらから見てたぜ、きみのころがりかた。あれじゃあ、だめだ。頭をきちんと、ひっこめてない」
「え?」
「頭をかくして、シリもかくせ! ってな。つまり、転がりたけりゃあ、自分がタイヤになったつもりにならないといけないぜ」
 ダンゴムシは、ぎゅっ! とじぶんのからだを丸めました。たしかに、ダンゴムシはどこからどう見ても、丸そのものです。つきだしているぶぶんは、ひとつもありません。
「さあ、やってみろ。タイヤになったきもちで、あるいは、ダンゴになったきもちで」
「どっち?」
「じゃあ、ダンゴで!」
 たいがくんは、イメージします。どこまでも、どこまでもころがれる、ころころに丸くなった自分を。ころころ、ころころ。タイヤのようにすばやく、ダンゴのようにのびやかに、ころがっていく、自分を。
 やわらかい土の上にしゃがみ、耳のよこに手をそえました。ころん! と転がってみます。
 ころころ、ころん! はじめて、とてもきもちのよいリズムで、前転ができました。
「やった。で、できた!」
「いいじゃん! それじゃあ、つぎはあの木まで、きょうそうな!」
「えっ」
「あのへんのおち葉が、なかなかうまいんだよ。いっしょに食べよう」
「いや、でも、ぼくにんげんだし……」
 ダンゴムシは、ぎゅるん! と丸くなって、じめんを転がりはしっていきます。たいがくんも、あわててそれを、おいかけました。ダンゴムシのように、前てんしながら。
 たいがくんがころがりだしたときには、ダンゴムシはとっくにゴールして、おち葉をむしゃむしゃと食べていました。
 たいがくんはまだ、一回の前てんをするので、せいいっぱいです。ダンゴムシが、しんぱいそうにいいました。
「おいおい、だいじょうぶか。そんなんで、ダンゴムシとしてやっていけんのか、おまえ」
「ええ! ぼくは、ダンゴムシにはならないよ」
「何いってんだ? あの体いくかんでは、みんなダンゴムシになりたくて、あんなにころがってるんだろ?」
「ちがうよー! あれは、勉強のためにやってるの!」
「なーんだ。ダンゴムシになりたくてやってるわけじゃないのかあ。せっかく、おまえにころがりかたを、おしえてやったのになー」
 ダンゴムシは、ざんねんそうにいいました。たいがくんは、なんだかちょっぴりさみしくなってしまいます。
「じゃあ、今日のきねんに、ぼくたちがいつもやってる、あそびをおしえてあげる!」
 それから、たいがくんとダンゴムシは、おち葉がいっぱいの土の上で、めいっぱいあそびました。
「ダーンゴムシさんが、こーろんだ! あっ! ダンゴムシ、うごいたー」

 ハッと気づくと、つうがくろにいました。ランドセルをせおい、立ったまま、ねむっていたのでしょうか。今日は、へんな日だなあ、とたいがくんは首をかしげました。

 次の日、たいがくんはマットの上で、きれいに前てんをすることができました。体いくかんのうらでは、ダンゴムシがいっぴき、みんなが前てんをするところを、たのしそうに見つめていました。

 おわり
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