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5-3 変身

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 【米野木ユイカ オシャレ人形が見ている】

 じゃあ、私の売りたいものを聞いて――あれは、真夜中だった。
 何とも言えない寝苦しさを感じて、私は目を覚ましたの。
 寝づらい、とでも言うのかな。
 体に違和感を感じて。
 普段だったら、朝までぶっ通しで寝続けてるんだけどね。
 そんな自分の違和感に私が気づくのは、それからすぐのことだった。
 スマホの時計でも見ようと、私は枕もとに手を伸ばした。
 念願だったスマホを買ってもらったのは、つい最近のこと。
 スマホにはアラームをかけているので、いつも枕もとに置いていたの。
 それで、手探りでスマホを探すんだけど……。
 なかなか、うまく〝手〟を動かせない。
 いつもやっていることなのに!
 なぜか、自分の意思とは違う箇所が動いてしまって。
 今動かしている……これは私の手? それとも、足?
 自分が動かしている箇所を把握できないなんて、おかしいよね。
 私は自分の体に対して、まるで自分のものではないかのような不自由さを感じたの。
 金縛りにでもあってるのかな、私。
 だけどそれにしては、ちょっとだけでも動かせているので、やっぱりそれとは違う。
 スマホを取るだけの動作なのに、とてもやりづらい。
 肩を動かして、腕を上に持ち上げる。
 たったそれだけのことが、スムーズに出来ない。
 私、何かやばい病気にでもかかっちゃったのかな。
 そうなんだとしたら、一刻も早くスマホを手に入れて、救急車を呼ばなきゃだよね。
 なのに——ゴトン、とスマホが床に落ちる音がした。
 手で枕もとをまさぐり過ぎたせいで、スマホがベッドから滑り落ちてしまった。
 今夜は、何もかもうまくいかない。
 憂鬱な気分になりながら、ゆっくりと体を起こして〝足〟を床に下ろそうとした。
 ああ、もう。足も動かないなんて!
 いや——下ろそうとした、その、足がない!
 寝る前までは確かにあった、私の足が!
「ひっ……?」
 私は声にならない声を上げた。
 何がどうなっているの?
 とにかく、今の自分の状況を確認したい。
 部屋の入り口にある、姿見を確認したいと思った。
 でも、どうすればいいのかわからない。
 だって、そこまで移動できるはずの足が、今の自分にはないのだから。
 そうだ、電気をつけよう。
 さっき、なんとか手は動いたんだもん。
 部屋の電気のリモコンなら、枕もとにある。
 グッと腕を伸ばし、私はリモコンのスイッチを押した。
 パッと、一気に部屋が明るくなる。
 視界のまぶしさをこらえ、なんとか体を起こした。
 ゆっくりと〝手〟を動かし、体を確かめていく。
 いや。手なの? これ……。
 これが私の手……ッ?
「なに、これ……」
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